講演情報

[14-O-Q001-06]「あらゆる問題に対応する」をちょっと考えてみる老健の多機能性と無差別性への挑戦

*鈴木 孝明1 (1. 三重県 介護老人保健施設きなん苑)
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老健に勤務していると、法や資源の制約がある等、とかく「できない」ことに注目してしまうが、目的を改めて考え直すと別の方法で実現できることがあるかもしれない。私は別地域でユニット型老健と診療所の立ち上げに関わり、施設長兼両施設統括長の経験があり、2023年より2度目の老健勤務となった。地域の課題に対して取り組んだ1年余りの仕事についてお話しする。
【はじめに】
当施設は介護保険導入前の1998年に開設され、当時「社会的入院」として問題になっていた介護上の課題で自宅で生活困難な方々の受け入れ先だけでなく、入所、短期入所、通所・訪問リハビリテーションを通じて在宅生活支援施設として地域課題に対応してきた。当施設は三重県東紀州の紀南地域にあり、山間、海岸部に医療へき地が多く存在し、人口減少が著しく進んでいる地域である。介護保険制度が始まり25年が経過しようとしており、世代別人口はもちろん社会構造そのものが変化している。そのような社会の変化があるならば、地域課題も当然変化する。
「老健はこういうものだ」という固定観念がある事自体、私は間違いだと考える。なぜなら老健は、それぞれの地域課題に応じて変化しうる多機能性をもった、世界に類を見ない仕組みだからだ。
地域の課題を知ろうとし、自分たちなら何ができるかをちょっと考えた結果の現状報告として、今回の場をお借りして発表する。
【目的】
・「老健ってこんなもんですよね」と考えている方に、色々できることがあると感じていただきたい
・地域住民の声を直接聞くのは大事だと認識できるようになっていただきたい
・全ての問題を自分だけで解決することはできなくても、ちょっと考えることはできると思っていただきたい
【方法】
・ミニタウンミーティング(前職で同地域で実施していたもの)の継続
・サービス担当者会議の件数調整、会議への本人参加
・情報共有ツールMCSの導入
・40ー50名のフロア利用者全員をスタッフグループでケアしていたのを、昨年秋に個別ケア推進目的でフロア半数の利用者のみ担当するためのチーム編成、及び境界が分かるようハード面も調整を行った
・みなし訪問リハビリを今年4月に訪問看護ステーション化
・訪問診療を主とする診療所を今年4月に開設
【結果】
◎ミニタウンミーティングでは、「訪問診療に来てもらえる診療所がこの地域にはない」「面会予約が取りづらい」等の声を直接聞くことができた
→感染症対策で実施していた面会時間、場所制限を、個々の感染対策は継続した上では今年5月より廃止
→診療所開設を決心
◎サービス担当者会議
→本人が自分の思いを直接伝えることが可能となった
→いつの間にか超強化型になっていた?
◎MCSの活用
→医師不在時の連絡、指示、朝礼の内容をPDF化し、共有
→調剤薬局への処方指示書送信、疑義照会、処方変更した際、定期処方に反映させるための備忘録をスタッフと共有
→施設外専門職との指示書、報告書等の文書やりとり
→在宅チーム員との情報共有
◎個別ケアの推進
→不必要なセンサーコールの廃止(発表あり)
→食物嚥下性肺炎の発生件数減少
→サービス担当者会議で関わるスタッフの発言内容がより具体的に変化
◎訪問リハビリ、訪問看護ステーション化
→訪問看護の地域ニーズは想定していたものよりはるかに大きなものだった(発表あり)
→医療保険の訪問リハが実施できるようになり、介護保険非対象者もリハビリサービスを受けることが可能となった
→訪問リハと短期入所を組み合わせた嚥下訓練(発表あり)
◎診療所開設
→終末期ケアで老健入所中の方が最期の1日をご自宅で過ごせた方のお看取り、逆に訪問診療患者さんが最期を短期入所中にお看取りを行った
→在宅生活時の訪問診療
→収益事業としての期待(目標達成は今年中?)
【考察】地域を知ることの重要性を知るということは、いかに自分たちが地域課題を知らないかにも通ずる。社会は刻々と変化し続けていき、制度は後追いでしかない。なおさら、地域資源が乏しい地域では制度よりもはるか未来の社会である可能性を考えながら接して行く姿勢は重要だと考える。情報共有にかけてはこの20年で著しく進歩したが、慣れれば使い勝手が良いものでもICTアレルギーで手を出さないのは大変もったいない。幅広い視野を持つと同時に、それぞれの人生を過ごしてきたひとりの利用者に少しでも深く向き合うことで解消されていく煩雑な問題もある。そして、この地域には資源がないからサービス提供は無理だから自分とは関係ないと言い放つことは、問題に対して差別していることだと私は考えている。これは地域でも都市部でも同じ、あるいは課題を抱える方の絶対数が多く社会が複雑なのは都市部であるから、この先の未来は都市部こそ難易度が高く、それぞれの努力とお互いの協力体制を組むことが重要なのではないかと、私は思う。
【結語】
それぞれの地域が抱える課題を知り、何かできることがないか考え取り組むことで、その地域に合った老健ができあがり、その影響は地域社会全体に影響するものだと信じている。