講演情報

[14-O-Q001-08]社会福祉法人に属する一老健施設の現状と課題

*江崎 卓弘1 (1. 福岡県 金隈老人保健施設 フラワーハウス博多)
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社会福祉法人立の老健は全国老健の16%程度で、医療機関は通常併設されない。フラワーハウス博多は開設後30年経過、入所定員138人の社会福祉法人に属する老健である。近年のコロナ禍と高齢者施設の増加などに伴い高齢者の老健利用は減少、入所者のADL低下、病態悪化により積極的なリハビリができる入所者は減少したように感じる。本稿ではコロナ禍における当施設の振り返りと課題について報告する。
【はじめに】
 フラワーハウス博多(以下、フラワーハウス)は福岡市博多区、隣接する大野城市との境界、にあり、平成2年開設、定員138人の社会福祉法人清風会の超強化型老健(令和6年5月現在)です。利用者の居室は2階~6階にあり、4人部屋 30室・2人部屋 8室・1人部屋2室です。法人内に医療機関はありません。近年の多様な高齢者施設の増加や新型コロナ感染症と気候変動の影響に伴う高齢者死亡数の増加などにより老健施設の利用者は全国的に減少しています。本発表ではコロナ禍におけるフラワーハウスの振り返りと課題について報告します。

【現状】
1.入所者の変化
 令和3年度の年間平均入所者数は127.7人、令和4年度は128.8人、同年上半期のベッド稼働率は95~96%を維持していましたが、下半期は86~92%に低下しました。令和5年度の平均入所者数はさらに低下し116.3人、ベッド稼働率も81~87%に下がりました。年度別の〔(入所者数)-(退所者数)〕は令和3年度〔165-151=+14〕、令和4年度〔154-167=-13〕、令和5年度〔160-161=-1〕で過去2年間は退所者数が入所者数を上回っています。
退所の要因となる(看取り死亡+急変に伴う急性期病院入院)の年度別件数は、令和3年度73件、令和4年度82件、令和5年度88件と増加傾向にあります。この原因はコロナ禍等における高齢者の身体機能低下や病態の悪化が考えられます。令和6年度4月、5月の実績は営業活動と(死亡+入院)件数の減少により、入所者数は退所者数を上回り、平均入所者数は4月119.5人、5月124.3人と回復傾向です。
2.情報通信技術(ICT)と介護ロボットの導入
 過去2年間の情報通信技術(ICT)導入は、LANによる処方箋発行、各種会議等の資料配布、車両の予約管理、職員の食事注文などですが医療介護関連領域では未だ不十分です。
フラワーハウス初の介護ロボットは、昨年度福岡県の補助金を獲得し、本年3月関係メーカーに「見守りロボット」を発注、現在稼働中です。このほか7月には通常の入浴ができない入所者のための「ミスト入浴ロボット」を導入しました。今後、介護ロボットの有効性が施設内で実証されていけば、生産性向上に向けた新たな電子化、ロボット導入を計画します。
3.施設風土と環境整備
 厚生労働省は生産年齢人口の減少に伴う高齢者介護の労働力不足のため『業務電子化、介護ロボット導入などによる効率化』を推進し、さらに近年では生産性向上を目指し幅広い事業を展開しています。普及が進まないのは、『古くからこの業界に関わってきた施設は(1)これまで技術的な研修で育成され、最近の新しい研修内容に馴染めない。技術的なことは職員各自に依存されやすい、(2)介護は他の業界と比べて教育指導体制が遅れ、人材育成が不十分』などがあるようです。
 フラワーハウスも同様ですが、基本的に職場環境は働きやすくあるべきで、利用者に必要なリハビリも老健の性質上重要です。開設後30年経つ施設で新たな取り組みを始めるには職員自身が職場の問題・課題を知ることが大切ですが、既存のやり方に満足している職員には容易ではありません。少しずつ、繰り返し、その必要性を発信し、職員自身が考え実践していくことが重要と考えています。

【課題】
1.施設利用者の獲得策
 これからの老健は、地域の高齢者に貢献できる活動を展開、独自性を発揮し、地域の他職種と協力していくことと理解しています。活動を通し利用者を開拓する中で施設がすべきことは、施設の電子化、効率化、充実したリハビリ訓練、利用者・職員双方にとって充実した施設の環境整備です。
入所者・職員に快適な環境を提供し、デイケアを充実させ利用者を増やし、それに続く短期入所(Short‐Stay)、さらに入所、看取りへとつなぐことのできる施設を目指し、独自性を対外的にアピールすることで地域に貢献していくことが必要です。
2.必要な空間の拡充
 30年前の施設をこれからの老健に相応しい形に変えることは最重要課題で、ポイントは空間(スペース)を増やすことです。利用者が快適に訓練できるリハビリ室、落ち着いて食事できる場所、排泄に必要な利用しやすいトイレ、感染症発生時に利用可能な隔離室、事業継続計画(BCP)に必要な物品の収納場所、会議、研修、面談等に必要な多目的室、そして何よりも職員がくつろいで過ごせる休憩室が整備できれば多忙な業務も快適にこなせ、入職希望者も期待されます。しかし法人として老健の建て替え計画は当分ありませんので、先ずは機能性、効率性を目指した環境整備から始めます。
3.長期入所者の取り扱い
 老健の入所期間は3か月~6か月程度と言われ、この間は入所者が身体機能向上を目指し在宅復帰や社会参加につながる重要なリハビリ期間です。同時に施設にとっても有意義なサービス提供期間で、入所後3ヶ月は短期集中リハビリ加算もとれます。しかし、フラワーハウスには入所後6か月以上の利用者が少なくとも70名おられ(令和6年4月現在)、このうち介護度1,2は26名、介護度4,5は32名です。長期入所の理由は特養待機、他施設とのリピート、看取り対応などがありますが、一度に多数の利用者が退所するのでなく、できれば計画的退所を徐々に進め、同時に新規入所や短期入所の利用者を増やせるよう模索中です。

【まとめ】
 老健の主な役割は在宅復帰、在宅生活支援です。このために必要なリハビリ訓練を行い、訓練するために必要な栄養をとることができる地域の利用者を獲得していくことが老健の地域貢献と考えています。特に併設する医療機関をもたないフラワーハウスでこれを実践するには、利用者が生活しやすく、職員が働きやすい環境を整備し、施設独自のサービスを提供すると同時に、地域の高齢者をデイケア、短期入所、一般入所に繋いでいける施設運営が必要と考えています。