講演情報
[14-O-D003-06]認知症ケアチームで行ったBPSD改善に繋がった取組み~認知症の尺度を用いた、統一したケアのアプローチ~
*山田 悟1、富士原 諒1、中村 奈津江1 (1. 北海道 医療法人愛全会 介護老人保健施設 アートヒルズ)
認知症ケアチームの関わりにより、認知症の尺度を用いてBPSDが改善した事例を報告する。多職種で検討しケア統一を図りDBD13、VIにて前後データを比較。結果『特別な理由がないのに夜中に起きだす』『同じことを何度も聞く』『活動』の項目が向上。評価を見える化した事で職員の想いや職種による考えの偏りが無くなり多方面から具体的に検討できた。また、統一したケアによって利用者の不安が軽減され職員の業務改善にも繋がった。
【はじめに】
当施設は2021年度より認知症ケアチーム(以下チーム)を発足し、認知症の行動・心理症状(以下BPSD)を有するケア困難事例に対して認知症行動障害尺度(以下DBD13)と意欲の指標(以下VI)のデータをもとに、統一したケアを実施している。今回、チームの関わりによりBPSDが改善すると共に統一したケアの重要性に気付け、職員の業務改善に繋がった2症例について報告する。
【対象者】
A氏:90代女性、アルツハイマー型認知症、要介護1、自立度A1、認知度IIIa。
B氏:90代女性、アルツハイマー型認知症、要介護3、自立度A1、認知度IIIa。
【ケアプラン検討方法】
ケア困難事例に対してチームである多職種で月1回の検討を実施。検討内容を職員へ発信しケア統一を図っていく。役割として介護福祉士は生活状況と出来る支援、作業療法士は身体・精神認知機能及び日常生活動作能力、看護師は疾患及び内服の視点とした。DBD13、VIにてアプローチ前後データを比較し評価を行った。
【経過と結果】
A氏は「帰ってもいいかい。」との発言や食後に「食事はまだ?」と確認する様子がみられていた。説明に一時的に納得するが数分後には同じ内容を繰り返していた。大量のペーパー類をベッド上や服の中に溜め込む状況がみられていた。汚染したペーパーもあるが収集の制止や回収に拒否が強く、介入が難しい状況であった為チームで検討を開始した。
DBD13は33点であり『同じことを何度も聞く』『明らかな理由なしに物を溜め込む』『特別な理由がないのに夜中に起きだす』の項目が該当。VIは9点。自身が40代専業主婦で息子の事を高校生と思っている発言があり、空腹感と息子の食事の心配が帰宅願望や食事の訴えに繋がっていると考えた。ペーパー類収集も専業主婦時代の行動であると考えた。
ケアとしては「お泊りですよ。息子さんも知っていますよ。」「次の食事は〇時です。」と統一した声掛けを行い、家族が用意した好きな飲み物を提供した。また、馴染みの活動として計算問題や編み物をする事とした。ペーパー類収集は制止せず、本人不在時の朝食時や入浴時に回収する事とした。
3ヶ月後の結果は、DBD13は33点→31点で『特別な理由がないのに夜中に起きだす』が改善された。VIは9点→9点。計算問題や編み物は途中で止めてしまい継続ができなかった。また、飲み物の提供は一時的な満腹感、満足感はあったが効果は持続しなかった。ペーパー類の収集は継続しているが不在時に回収と決定した事で本人の拒否なく職員の業務改善も図れた。
B氏はトイレの訴えが頻回で説明するも「私が忘れる訳ないでしょ。ダメなら一人で行きます。」と納得しない事が多かった。トイレ誘導は手引き介助でありB氏への対応に時間を要する状況であった。トイレを待ってもらうと不安が強くなり発言が強くなる事もあった。本人の不安軽減と他利用者への対応が円滑に出来るようチームで検討した。
DBD13は10点であり『同じことを何度も聞く』の項目が該当。VIは6点。トイレの訴えに関しては本人の認識と異なる事でよりトイレに固執してしまうと考えた。更に失禁を恐れて何回もトイレに行こうとしていると考えた。
ケアとしては昔習っていた生け花の動画を観てトイレへの関心が薄まるよう働き掛けた。頻回に訴えが聞かれても制止せずにトイレに案内する事を統一した。
3ヶ月後、DBD13は10点→9点となり『同じことを何度も聞く』に改善がみられた。VIの点数は6点→7点と『活動』の項目で向上がみられた。生け花の動画は「綺麗だね。懐かしい。」と発言がみられ一時的に注意を逸らす事は出来た。トイレに行く事を制止しない事で穏やかな表情が増えていった。更に頻回にトイレへ行く事で活動量が増え、移動が手引き歩行から付き添い歩行にまでに向上。下衣操作も見守りとなり自分でできる事が増えた。
【考察】
今回、DBD13、VIで不穏行動に焦点を当てて原因を探りアプローチをした。職員で統一したケアを継続的に行った結果、BPSD改善に繋がった。また、データを取りケア前後の評価を見える化した事により、職員の想いや職種による考えの偏りが無くなり多方面からアプローチ内容を具体的に検討できた事も改善に繋がったと考える。
認知症の人は様々な理由から、かたくなな気持ちになる事がある。ネガティブ要因を減らしポジティブ要因を増やす関わりを同時に行う事で認知症の人の心が安定する。1)と言われている。今回ネガティブ要因であった「空腹感と息子の食事の心配、失禁に対しての羞恥心」に対してのアプローチと、ポジティブ要因である「ペーパー類の収集を認める、行きたい時にトイレへ都度案内する」という本人を尊重したアプローチを同時に行った。その事で満足感や安心感が向上しBPSD改善に繋がったと考える。
A氏はアプローチ後『特別な理由がないのに夜中に起きだす』に改善がみられた。認知症の人は不眠時の精神的側面として、心配事があると寝床に入っても気になって眠れない等の悪影響が発生する。2)と言われている。就寝時や中途覚醒時にペーパー類が近くにある事が安心した入眠に繋がったと考える。
今回の2症例では、繰り返しの訴えに応える事で対応に時間がとられ、他利用者の不利益になるのではと懸念する声も聞かれていた。しかし、統一したケアによって、利用者の不安が軽減され職員の業務改善にも繋がり、結果、他利用者との関わりにも影響はない事がわかった。
【結語】
今回の2症例を通して、ケア困難事例であっても一人一人の背景にあったケアを検討し統一した関わりを持った働き掛けを行う事で、より良いケアに繋がる事が分かった。
これからも利用者の尊厳を保ち穏やかでその人らしい生活が送れるよう、一人一人に認知症ケアが提供できる支援をしていきたい。
【参考文献】
1)中央法規「介護専門職の総合情報誌おはよう21」2024.3、2-21.
2)中央法規「介護専門職の総合情報誌おはよう21」2022.12、4-23.
当施設は2021年度より認知症ケアチーム(以下チーム)を発足し、認知症の行動・心理症状(以下BPSD)を有するケア困難事例に対して認知症行動障害尺度(以下DBD13)と意欲の指標(以下VI)のデータをもとに、統一したケアを実施している。今回、チームの関わりによりBPSDが改善すると共に統一したケアの重要性に気付け、職員の業務改善に繋がった2症例について報告する。
【対象者】
A氏:90代女性、アルツハイマー型認知症、要介護1、自立度A1、認知度IIIa。
B氏:90代女性、アルツハイマー型認知症、要介護3、自立度A1、認知度IIIa。
【ケアプラン検討方法】
ケア困難事例に対してチームである多職種で月1回の検討を実施。検討内容を職員へ発信しケア統一を図っていく。役割として介護福祉士は生活状況と出来る支援、作業療法士は身体・精神認知機能及び日常生活動作能力、看護師は疾患及び内服の視点とした。DBD13、VIにてアプローチ前後データを比較し評価を行った。
【経過と結果】
A氏は「帰ってもいいかい。」との発言や食後に「食事はまだ?」と確認する様子がみられていた。説明に一時的に納得するが数分後には同じ内容を繰り返していた。大量のペーパー類をベッド上や服の中に溜め込む状況がみられていた。汚染したペーパーもあるが収集の制止や回収に拒否が強く、介入が難しい状況であった為チームで検討を開始した。
DBD13は33点であり『同じことを何度も聞く』『明らかな理由なしに物を溜め込む』『特別な理由がないのに夜中に起きだす』の項目が該当。VIは9点。自身が40代専業主婦で息子の事を高校生と思っている発言があり、空腹感と息子の食事の心配が帰宅願望や食事の訴えに繋がっていると考えた。ペーパー類収集も専業主婦時代の行動であると考えた。
ケアとしては「お泊りですよ。息子さんも知っていますよ。」「次の食事は〇時です。」と統一した声掛けを行い、家族が用意した好きな飲み物を提供した。また、馴染みの活動として計算問題や編み物をする事とした。ペーパー類収集は制止せず、本人不在時の朝食時や入浴時に回収する事とした。
3ヶ月後の結果は、DBD13は33点→31点で『特別な理由がないのに夜中に起きだす』が改善された。VIは9点→9点。計算問題や編み物は途中で止めてしまい継続ができなかった。また、飲み物の提供は一時的な満腹感、満足感はあったが効果は持続しなかった。ペーパー類の収集は継続しているが不在時に回収と決定した事で本人の拒否なく職員の業務改善も図れた。
B氏はトイレの訴えが頻回で説明するも「私が忘れる訳ないでしょ。ダメなら一人で行きます。」と納得しない事が多かった。トイレ誘導は手引き介助でありB氏への対応に時間を要する状況であった。トイレを待ってもらうと不安が強くなり発言が強くなる事もあった。本人の不安軽減と他利用者への対応が円滑に出来るようチームで検討した。
DBD13は10点であり『同じことを何度も聞く』の項目が該当。VIは6点。トイレの訴えに関しては本人の認識と異なる事でよりトイレに固執してしまうと考えた。更に失禁を恐れて何回もトイレに行こうとしていると考えた。
ケアとしては昔習っていた生け花の動画を観てトイレへの関心が薄まるよう働き掛けた。頻回に訴えが聞かれても制止せずにトイレに案内する事を統一した。
3ヶ月後、DBD13は10点→9点となり『同じことを何度も聞く』に改善がみられた。VIの点数は6点→7点と『活動』の項目で向上がみられた。生け花の動画は「綺麗だね。懐かしい。」と発言がみられ一時的に注意を逸らす事は出来た。トイレに行く事を制止しない事で穏やかな表情が増えていった。更に頻回にトイレへ行く事で活動量が増え、移動が手引き歩行から付き添い歩行にまでに向上。下衣操作も見守りとなり自分でできる事が増えた。
【考察】
今回、DBD13、VIで不穏行動に焦点を当てて原因を探りアプローチをした。職員で統一したケアを継続的に行った結果、BPSD改善に繋がった。また、データを取りケア前後の評価を見える化した事により、職員の想いや職種による考えの偏りが無くなり多方面からアプローチ内容を具体的に検討できた事も改善に繋がったと考える。
認知症の人は様々な理由から、かたくなな気持ちになる事がある。ネガティブ要因を減らしポジティブ要因を増やす関わりを同時に行う事で認知症の人の心が安定する。1)と言われている。今回ネガティブ要因であった「空腹感と息子の食事の心配、失禁に対しての羞恥心」に対してのアプローチと、ポジティブ要因である「ペーパー類の収集を認める、行きたい時にトイレへ都度案内する」という本人を尊重したアプローチを同時に行った。その事で満足感や安心感が向上しBPSD改善に繋がったと考える。
A氏はアプローチ後『特別な理由がないのに夜中に起きだす』に改善がみられた。認知症の人は不眠時の精神的側面として、心配事があると寝床に入っても気になって眠れない等の悪影響が発生する。2)と言われている。就寝時や中途覚醒時にペーパー類が近くにある事が安心した入眠に繋がったと考える。
今回の2症例では、繰り返しの訴えに応える事で対応に時間がとられ、他利用者の不利益になるのではと懸念する声も聞かれていた。しかし、統一したケアによって、利用者の不安が軽減され職員の業務改善にも繋がり、結果、他利用者との関わりにも影響はない事がわかった。
【結語】
今回の2症例を通して、ケア困難事例であっても一人一人の背景にあったケアを検討し統一した関わりを持った働き掛けを行う事で、より良いケアに繋がる事が分かった。
これからも利用者の尊厳を保ち穏やかでその人らしい生活が送れるよう、一人一人に認知症ケアが提供できる支援をしていきたい。
【参考文献】
1)中央法規「介護専門職の総合情報誌おはよう21」2024.3、2-21.
2)中央法規「介護専門職の総合情報誌おはよう21」2022.12、4-23.