講演情報
[14-O-D003-07]心理の状態評価表活用による行動・心理症状の変容
*高木 万喜子1、佐藤 美由紀1 (1. 愛知県 老人保健施設七宝園)
通所利用中、孤立し「よくない状態」であった認知症利用者に、他者と交流できることを目的とし段階的ケアを実施した結果、状態に変容があったので報告する。心理的ニーズを4段階で構成、「心理の状態評価表」は3段階尺度にて評価した結果、「よい状態」に変容し集団活動にも参加できるようになった。言動・行動等のサインを症状と決めつけず、意味を見出し共有することは、相互関係を築くうえで必要不可欠であると考えられる。
「はじめに」
施設定員100名認知症対応フロアを有した、定員45名の通所リハビリテーション(以下、通所)では、
多様な疾患を抱えた要介護者が利用し、その疾患の大部分は認知症である。閉じこもり予防・コミュニケーション能力向上・在宅生活継続支援の中で、認知症利用者の視点にたちケアすることが重要である。
認知症利用者は人として扱われることを必要としているため、「よい状態・よくない状態」のサインを見逃さず、心理的ニーズを満たすことが必要である。本症例は、集団活動中に起きた問題回避の対策によって、他者から孤立し「よくない状態」を引き起こしていた。その為「心理の状態評価表」を活用し段階的にケアした結果、行動・心理症状に変容があったため報告する。
「目的」
心理的ニーズが満たされ「よい状態」になり、笑顔で過ごし、他者との交流ができる。
「方法」
1.対象紹介
症例 80歳代後半 女性 アルツハイマー型認知症 要介護5 HDS-R 4点 日常生活自立度B2
机をたたく物を投げる 暴力行為 異食 大声 他者から「うるさい・おかしい」と言われ、
他者から離れて職員の隣に着座し対応
性格は明るく友人も多く社交的、趣味は木目込み人形作り
2.評価方法
1)ケア展開の指標となる心理の状態評価表を作成
状態評価の項目選定は「よくない状態」の指標である「大声を出す」「逸脱行為」「表情」の
上位3項目を1点から3点の3段階尺度で評価した
1か月ごとに全体得点、各項目得点の占める分布割合を評価
最終目標達成の定義 3点/「よい状態」の全体得点が70%以上もしくは、最大得点で評価
2) 利用日に4回定点チェック
3.実施方法
4段階で構成し心理の状態評価表を基準とし、3項目中の1項目以上が達成した場合
次の段階に移行する
「結果」
自分らしさ・結びつき・くつろぎの段階
開始直後は「大声」が多く「表情」は怒り・無表情で、何に対しても拒否的・無気力な状態であった。症例の着座位置は職員の方に向き手が触れる距離にいる、目を合わせて話す・大声があった時は「どうされました?」と、ゆっくり思いを聞くことを繰り返した。
全体得点では1点9%、2点65%、3点26%と落ち着かずにいたが、少しずつ表情の変化もあり職員が離れると大声で「寂しい」や、「トイレに行きたいです」など訴えをするようになった。
開始1ケ月には、声掛けに対しての発語・お風呂に向かう方には「ゆっくり入っておいで」と優しい声かけをされるようになった。家人からの情報では「最近穏やかになり、夜間もよく眠れています」と以前より落ち着いているとのことだった。全体得点も2点10%減少、3点15%と増加、「大声」の1~2点が60%から33%、「逸脱行為」の1~2点が62%から44%、「表情」は1点が15%から6%と変化してきた。
たずさわりの段階
他者交流を目的にリハビリプログラムを実施、表情も穏やか発語もあり知っている曲は歌っていた。他者とじゃんけんをする、意欲的に「〇〇がしたいです」や「大丈夫?」と職員を気遣い、「さようなら」と他者へ挨拶するようになった。開始4ケ月後、得点の多かった2点より3点の方が上回り、「大声・逸脱行為」は3点が85%と高く、5か月目には大きな変化がなかった「表情」も30%を超える結果が出た。
共にあることの段階
生け花では異食もなく、穏やかな表情で1本1本とても丁寧に取り組み、カレンダー制作は手先が器用で物づくりが好きなこともあり、スムーズに制作に取りかかることができた。作業中は真剣な表情で、職員から1つ1つパーツを受け取っては貼り、カレンダーの裏には自署することが出来た。他者から「変わったね、本当に穏やかになったね」という声も聞かれ、謗る方は誰一人いなかった。半年後には、3点は69%を占め「大声・逸脱行動」は3点が70%以上となった。
共にあること・たずさわりの段階
壁画制作を他者と協力して共同作業に取り組み、パーツを手に取り「1本10円だよー・お仕事ください」など冗談や意欲ある発言、自分から他者に対して手を振り声かけしていた。家人からは「デイから帰ってきたら『今日もにぎやかだったよ』って嬉しそうに話してくれた」と情報もあった。開始8か月後、3点は70%以上を維持し、「表情」以外の項目は75~80%となった。
実施の結果、当初2点が最大得点であったが、3点が70%以上最大得点の「よい状態」となった。
「考察」
「パーソンフッド」とは「ひとりの人として周囲に受け入れられ、尊重されること」で、
パーソッドを保つケアを行なうことで『よい状態』を高めることができると言われている。
当初は行動・言動を認知症の症状と決めつけたことで、本人の価値を低める行為をし『よくない状態』を引き起こしてしまったと考える。本症例の心理的ニーズを重視した段階的ケアは、やすらぎと自分らしさをとり戻し、得意な趣味活動の中で他者とふれ合い、受け入れられたと感じたのではないか。それは「自分らしさ・結びつき・くつろぎ・たずさわり・共にあること」が満たされ価値も高まり安心感が得られ、脳内「オキシトシン」も分泌され、「よい状態」に変容できたのではないかと考える。
言動・行動等のサインを症状と決めつけず、意味を見出し理解し、寄り添い、信頼し共有することという相互関係のもとで、ケアを続けることは必要不可欠である。
今後も、パーソンセンタードケアが提唱する「よくない状態」のサインがみられた場合、満たされていないニーズを見つけ、ケアしていく必要があると考えている。
「結論」 認知症の『行動・心理症状』を呈する方に対し、「認知症の症状である」と思いこまず・決めつけない利用者に対して理解不足や誤りはないかを見極め、「よくない状態」のサインを見逃さないことは必要不可欠である。満たされていないニーズを見つけケアすることは、心地よく過ごしていただけることにつながる
施設定員100名認知症対応フロアを有した、定員45名の通所リハビリテーション(以下、通所)では、
多様な疾患を抱えた要介護者が利用し、その疾患の大部分は認知症である。閉じこもり予防・コミュニケーション能力向上・在宅生活継続支援の中で、認知症利用者の視点にたちケアすることが重要である。
認知症利用者は人として扱われることを必要としているため、「よい状態・よくない状態」のサインを見逃さず、心理的ニーズを満たすことが必要である。本症例は、集団活動中に起きた問題回避の対策によって、他者から孤立し「よくない状態」を引き起こしていた。その為「心理の状態評価表」を活用し段階的にケアした結果、行動・心理症状に変容があったため報告する。
「目的」
心理的ニーズが満たされ「よい状態」になり、笑顔で過ごし、他者との交流ができる。
「方法」
1.対象紹介
症例 80歳代後半 女性 アルツハイマー型認知症 要介護5 HDS-R 4点 日常生活自立度B2
机をたたく物を投げる 暴力行為 異食 大声 他者から「うるさい・おかしい」と言われ、
他者から離れて職員の隣に着座し対応
性格は明るく友人も多く社交的、趣味は木目込み人形作り
2.評価方法
1)ケア展開の指標となる心理の状態評価表を作成
状態評価の項目選定は「よくない状態」の指標である「大声を出す」「逸脱行為」「表情」の
上位3項目を1点から3点の3段階尺度で評価した
1か月ごとに全体得点、各項目得点の占める分布割合を評価
最終目標達成の定義 3点/「よい状態」の全体得点が70%以上もしくは、最大得点で評価
2) 利用日に4回定点チェック
3.実施方法
4段階で構成し心理の状態評価表を基準とし、3項目中の1項目以上が達成した場合
次の段階に移行する
「結果」
自分らしさ・結びつき・くつろぎの段階
開始直後は「大声」が多く「表情」は怒り・無表情で、何に対しても拒否的・無気力な状態であった。症例の着座位置は職員の方に向き手が触れる距離にいる、目を合わせて話す・大声があった時は「どうされました?」と、ゆっくり思いを聞くことを繰り返した。
全体得点では1点9%、2点65%、3点26%と落ち着かずにいたが、少しずつ表情の変化もあり職員が離れると大声で「寂しい」や、「トイレに行きたいです」など訴えをするようになった。
開始1ケ月には、声掛けに対しての発語・お風呂に向かう方には「ゆっくり入っておいで」と優しい声かけをされるようになった。家人からの情報では「最近穏やかになり、夜間もよく眠れています」と以前より落ち着いているとのことだった。全体得点も2点10%減少、3点15%と増加、「大声」の1~2点が60%から33%、「逸脱行為」の1~2点が62%から44%、「表情」は1点が15%から6%と変化してきた。
たずさわりの段階
他者交流を目的にリハビリプログラムを実施、表情も穏やか発語もあり知っている曲は歌っていた。他者とじゃんけんをする、意欲的に「〇〇がしたいです」や「大丈夫?」と職員を気遣い、「さようなら」と他者へ挨拶するようになった。開始4ケ月後、得点の多かった2点より3点の方が上回り、「大声・逸脱行為」は3点が85%と高く、5か月目には大きな変化がなかった「表情」も30%を超える結果が出た。
共にあることの段階
生け花では異食もなく、穏やかな表情で1本1本とても丁寧に取り組み、カレンダー制作は手先が器用で物づくりが好きなこともあり、スムーズに制作に取りかかることができた。作業中は真剣な表情で、職員から1つ1つパーツを受け取っては貼り、カレンダーの裏には自署することが出来た。他者から「変わったね、本当に穏やかになったね」という声も聞かれ、謗る方は誰一人いなかった。半年後には、3点は69%を占め「大声・逸脱行動」は3点が70%以上となった。
共にあること・たずさわりの段階
壁画制作を他者と協力して共同作業に取り組み、パーツを手に取り「1本10円だよー・お仕事ください」など冗談や意欲ある発言、自分から他者に対して手を振り声かけしていた。家人からは「デイから帰ってきたら『今日もにぎやかだったよ』って嬉しそうに話してくれた」と情報もあった。開始8か月後、3点は70%以上を維持し、「表情」以外の項目は75~80%となった。
実施の結果、当初2点が最大得点であったが、3点が70%以上最大得点の「よい状態」となった。
「考察」
「パーソンフッド」とは「ひとりの人として周囲に受け入れられ、尊重されること」で、
パーソッドを保つケアを行なうことで『よい状態』を高めることができると言われている。
当初は行動・言動を認知症の症状と決めつけたことで、本人の価値を低める行為をし『よくない状態』を引き起こしてしまったと考える。本症例の心理的ニーズを重視した段階的ケアは、やすらぎと自分らしさをとり戻し、得意な趣味活動の中で他者とふれ合い、受け入れられたと感じたのではないか。それは「自分らしさ・結びつき・くつろぎ・たずさわり・共にあること」が満たされ価値も高まり安心感が得られ、脳内「オキシトシン」も分泌され、「よい状態」に変容できたのではないかと考える。
言動・行動等のサインを症状と決めつけず、意味を見出し理解し、寄り添い、信頼し共有することという相互関係のもとで、ケアを続けることは必要不可欠である。
今後も、パーソンセンタードケアが提唱する「よくない状態」のサインがみられた場合、満たされていないニーズを見つけ、ケアしていく必要があると考えている。
「結論」 認知症の『行動・心理症状』を呈する方に対し、「認知症の症状である」と思いこまず・決めつけない利用者に対して理解不足や誤りはないかを見極め、「よくない状態」のサインを見逃さないことは必要不可欠である。満たされていないニーズを見つけケアすることは、心地よく過ごしていただけることにつながる