講演情報
[14-O-D004-06]BPSDに対する40Hz変調音声の効果の検証
*武田 行広1、土屋 太陽1、玉江 千聖1 (1. 東京都 介護老人保健施設 国立あおやぎ苑)
40Hzの音声と光刺激によって認知症患者(アルツハイマー型認知症)の認知機能が改善し、画像上も海馬の容積が増加したという論文がMIT(マサチューセッツ工科大学)から発表された。国立あおやぎ苑内の認知症専門棟の患者に対して、40Hzの変調音声による刺激を3か月間行い(光刺激なし、音声のみ)、その前後における様々なパラメーターを比較検証した。
【背景・目的】一般的に認知症には中核症状と周辺症状が存在する。中核症状としては記憶障害、遂行機能障害、集中障害、失語、失認、失行などがあり、それぞれの症状は脳の特定の部位に非可逆的な器質的な変化が生じた際に発症する。一方、周辺症状は脳に変化が生じた訳では無く、認知症中核症状の低下に対する患者本人の心の葛藤がフラストレーションを生み出し、更に周囲からの人としての尊厳を軽視する如き接遇などがこのフラストレーションを増長させ、その累積したストレスが爆発・噴出したものである。周辺症状はBPSDと呼ばれている。その症状には、暴言・暴力・介護拒否・叫び声・焦燥・無気力・無関心・睡眠障害などがあり、介護を提供するものだけでなく、患者さん本人にとっても身体的・精神的重荷となっていることは周知の事である。中核症状に対する薬物療法としてコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の他に、近年レカネマブなどの注射薬も臨床投与が始まり、成績を上げている。その一方で周辺症状・BPSDに対してはエビデンスに裏打ちされた有効な治療のプロトコールは無く、その都度その都度に対処的に薬物療法と非薬物療法で抑えている(あるいは逃げている)のが現状ではないだろうか。介護・看護・リハなどの様々な業種を巻き込んで多職種による介入を試みても、苦渋難行することが多いと思う。そんな折にMIT(マサチューセッツ工科大学)が発表した論文の中に「40Hzの音と光による刺激でアルツハイマー型認知症モデルのマウスにおいて学習能力と記憶能力の向上と神経組織上、アミロイドβおよびリン酸化タウの減少・脳萎縮の改善を認め、更にPhase2の人間を対象とした試行でも、画像上脳萎縮の改善を認めた。」といった記載を目にした。【方法】40Hzガンマ波サウンドスピーカーを使用し、国立あおやぎ苑に入所中の患者を対象に御本人あるいは御家族の同意を得た上で6か月間で数値的あるいは臨床的に変化が生じるかを検証することとした。対象は認知症患者25名(男性4名、女性21名)および一般病床の患者49名(男性9名、女性40名)をコントロール群とした。但し、介護老人保健施設という特性上、定期的にアミロイドCTや、その他のバイオマーカーの検査を対象者全員に行うことは困難なため、HDS-RやDBD-13などの比較的簡易に検査が可能な方法を経時的に実施し、比較対象のパラメーターとした。【結果】HDS-Rは認知症群もコントロール群も6か月間で優位な変化はなかった。しかし、DBD-13はコントロール群では有意な変化は生じなかったが、認知症群では数値的に有意に改善を認めた。【考察】認知症の中核症状の一つである記憶障害に対しての効果は残念ながら未だ見られていないが、BPSDに対する効果は数値的に表れている。何よりも、介護の現場において患者さんもスタッフも明るく朗らかな表情が生まれ始め、以前の罵声が飛び交いがちな現場が著しく改善したのは事実である。40Hzの音声刺激は前頭葉にガンマ波を生じる働きがあるため、BPSDの脱抑制症状に効果を示しているのではないかと考えられる。6か月間での検証のため、今後は期間を延長して更に追跡していく所存である。