講演情報

[14-O-P101-02]通所リハビリにおけるアルボース版MEWSの取組み

*高橋 直美1、清水 久人1、青木 大悟1、藤田 真介1、美原 恵里1 (1. 群馬県 介護老人保健施設アルボース)
PDFダウンロードPDFダウンロード
通所リハビリ利用者が意識消失、発熱など状態が急変した場合、これまで医師や看護師に報告する明確な基準はなかった。今回、バイタルサインを用いた早期警戒スコアのNEWSを改編したアルボース版MEWSを作成し、医師への報告基準の明確化を図り、重度化予防のため早期対応の取組みをはじめた。その結果、看護師だけでなく介護福祉士やリハビリ専門職も利用者の状態変化に対して適切に対応、医師へ報告できるようになった。
[はじめに]人口の高齢化に伴い、在宅で生活している介護老人保健施設の利用者の中にも複合的な疾患を有し、全身状態が安定していないケースも少なくない。通所リハビリテーション(リハビリ)の現場においても、利用者の心停止や呼吸停止などの緊急処置を要すること、意識消失・発熱・嘔吐・血圧低下・疼痛・麻痺など、状態が急変することを日常的に経験する。通所リハビリは、医師や看護師、介護福祉士、リハビリ専門職等の多職種で構成されたチームで運営しているが、病院等の医療機関と比較して医師や看護師の配置は少ない。そのため、サービス提供時間内における利用者の急変や状態変化が起きた際、第一発見者となるのは介護福祉士やリハビリ専門職となることが多い。介護福祉士やリハビリ専門職では急変や状態変化時のフィジカルアセスメントが不十分となる場合がある。また、軽微な状態変化の場合には医師への報告を躊躇することもある。このような状況を踏まえ、介護福祉士やリハビリ専門職が急変や状態変化を発見した際に医師へ報告するための指標を統一し、報告内容を標準化することが必要と思われた。早期に患者の急変を察知する評価指標として、日常的に観察可能なバイタルサインを用いた早期警戒スコア(EWS:Early Warning Score)がある。英国で開発されたNEWS(National Early Warning Score)や改編されたMEWS(Modified Early Warning Score)は、本邦の多くの病院で院内迅速対応システム(RRS:Rapid Response System)発動基準の一つとして導入されており、介護分野でも入所施設での導入事例がある。しかし、通所リハビリでの実績報告はなく、今回、通所リハビリの利用者が状態変化を起こした際に医師へ報告するための指標として、NEWSを改編、アルボース版MEWSを作成して導入したので報告する。
[取組み内容]アルボース版MEWSは、英国で開発されたNEWSを基に、報告すべき意識状態、呼吸数、SPO2、心拍数、収縮期血圧、体温の数値を新たに定め、酸素投与の有無については削除した。通所リハビリに所属する看護師、介護福祉士、リハビリ専門職には、アルボース版MEWSのスコアの評価方法、医師への報告基準(スコア3点以上)、状態変化時の記録用紙への記載方法について勉強会を令和6年2月および4月の2回開催した。なお、アルボース版MEWSは令和6年3月1日が使用開始した。
[方法]令和6年3月1日から令和6年6月30日の記録用紙を基に、状態変化が起きた延べ件数、状態変化者の年齢、性別、要介護度、原疾患、状態変化の種類、医師への報告件数、および医師への報告までの時間を調査した。また、通所リハビリに所属する職員に対して、アルボース版MEWS導入に対する感想を聞き取り調査した。
[結果]利用者に状態変化が起きた延べ件数38件、平均年齢77.0±6.16歳、男性23人、女性15人、平均要介護度3.0±1.28、原疾患の内訳は脳血管疾患16人、特定疾患13人、運動器疾患6人、認知症2人、内分泌疾患1人、状態変化の種類は意識障害11件、疼痛7件、血圧低値3件、呼吸苦2件、発熱1件、血圧高値1件、嘔吐1件、その他12件、医師への報告件数(スコア3点以上)は13件、医師への報告までの平均時間は16.3±10.8分であった。アルボース版MEWSの導入後、介護福祉士からは「指標があることで伝達することが明確になって安心できる」、「何をするのかが分かって、状態によって医師に連絡するかの判断がしやすくなった」との意見があがった。リハビリ専門職からは「曖昧だった判断基準が整い、早期対応が可能になった」、「状態変化が漏れなくスピーディーに評価できるので安心できる」と意見があがった。
[考察]利用者が急変した場合、重度化防止の観点から早期対応が求められる。今回、アルボース版MEWSを導入したことにより、利用者が状態変化した際に医師や看護師へ報告する基準が明確になり、スムーズで的確な報告をすることができるようになった。また、利用者の状態変化を発見した介護福祉士やリハビリ専門職は、即座にバイタル測定および測定結果のカルテ記載をすることで、医師や看護師への報告だけでなく、家族やケアマネジャーとの情報共有もスムーズに行えるようになったことにより、医学的な視点を持つことができ介護の質も上がったように感じられる。当施設では施設内における利用者の急変時に職員誰もが対応できるようにすることを目的に、平成19 年より毎年、全職員を対象としたBasic Life Support(BLS)の講習会を開催してきた。しかしながら、軽微な状態変化への対応については、看護師の経験に頼ってきた。石崎らの報告によると、後期高齢者の約8割は2疾患以上の慢性疾患を併存、約6割が3疾患以上の慢性疾患を有していると報告されている。また、当施設の併設医療機関は障害者施設等一般病棟を有しているため、当施設の利用者には神経難病等の全身状態が変化しやすい方も少なくない。急変や状態変化時には、早期に適切に対応することが求められ、今回の取組みのように職種に拘わらず、共通した判断基準を設けることが重要だと思われる。このような体制整備は、必要に応じて専門的な医療機関への受診に繋げるなど、医療介護連携の強化に結び付き、利用者の急変に対して重度化防止のメリットがあると考えられる。
[結語]利用者の状態変化を警告する評価指標として、アルボース版MEWSを作成した。医師や看護師に報告する基準が明確なり、医師への報告がスムーズに行うことができ、状態変化の早期対応が可能となった。全職員に共通した判断基準を設け、状態変化時の早期対応の体制整備が重要だと思われる。