講演情報
[14-O-P101-04]介護機器導入による成果と課題意識統一への道
*田中 政行1 (1. 東京都 音羽えびすの郷)
我々の施設には、HUGやリフトなどの機器を導入しているが、介護現場ではしばしば職員が新しいものの受け入れに躊躇することがある。躊躇する職員が、介護機器の導入によりどのような変化を見せ、ご利用者や職員の肉体的にはどのような改善が起こっていくのか。また、躊躇する職員も含めた生産性の向上への意識改革への道のりを発表したい。
ここ数十年で日本人の平均身長、平均体重は飛躍的に増加した。それに伴い介護現場でもご利用者の平均身長や体重が増加していて、移乗技術の改善だけでは、職員の身体的な負荷を防ぐことが難しくなっている。我が施設でも、職員は大体腰痛を抱えていて、それによる突発的な休みも多く、お互いにかばい合いながらも、体力をすり減らしている現状がある。本年4月から導入された生産性向上推進委員会の設置に先駆け、当法人でもHUGや床走行型リフトを導入し、ご利用者と職員の肉体的負担の軽減を図っている。世間では早くから「ノーリフティング」などの言葉が行きかってはいるが、残念ながら当施設では、ゼロではないが、介護職員を「介護機器オペレーター」と呼べるほどの介護機器の導入はこれまでなかった。今回、5フロアの内の1フロア(20人満床)にほぼ同時にHUGと床走行型リフトを導入してもらい、使う事にしたのだが…。介護職員全員がもろ手を挙げて喜んでくれるかと思いきや、「決まった事なら従いますが、私個人は介護機器で移乗をすることには反対です。」との声が聴かれた。「現在腰が痛いわけでもなく、毎日の業務が負担とも思っていない。」との事で、若くて華奢なその職員は一見頼もしいまでのきっぱりとした口調で宣言した。しかし、今後介護を必要とする高齢者の数は増加し、介護士の数は今より増えないと言われているなかで、これが職員みんなの継続的な雇用を助けることにはならない事が明白な以上、何とかみんなに介護機器の良さを分かってもらい、多少時間がかかってもこの方法が最善だと認識してもらう必要があると決心し、我がフロアの意識改革に乗り出すことになった。それに、我がフロアは職員の高齢化が進んでおり、定年後の再雇用者が3人もいるのだ。職員が希望する限り、一日でも長く働いてもらえる環境づくりが絶対に必要だと考えた。まず、第一に職員が新しいものを一度必ず否定したくなるのは、単にその品物や使いかたを知るのが面倒くさいからだ。二番目に、直接やる方が早いからだ。だからまず、職員に徹底的にHUGとリフトの使いかたを説明し、まずは使ってもらう事から始めた。何度も使っているうちに、漠然としたややこしさは払しょくされてきたようだ。しかし、スピードの問題はなかなか解決しなかった。全介助のご利用者で、毎日最低4往復はリフトでの移乗がある。トイレ介助は少なくとも、一日6回。最初はリフトでの移乗の安全性を考え、使用時には二人介助とした。ただでさえ、時間がかかることがネックなのに…。職員のイライラが伝わってくる。このままだと、せっかく導入してもらった機器が宝の持ち腐れに!そこで、次に行ったのが、職員に使いかたを伝えたときに一部の職員に行った、試乗である。職員全員に「乗る側」を試してもらい、人力での移乗の時の他人との距離や持ち上げられる恐怖を感じることなく、しかも、どこにも違和感を感じずに移乗できることに皆が驚いてくれた。そして、みんなの中に、多少時間はかかっても、ご利用者があれほど楽ならば仕方がないという空気が産まれた。そして、時間の短縮の方だが、リフトと使う方は一つの居室に移動して頂き、せめて居室間のリフトの移動の時間を短縮した。これが、かなり効果的で時短に役立った。こうして、起こった問題に知恵を絞って解決していく過程で、他の問題が見えてくることもあるが、みんなの意見が一つになっていく事も実感できた。 今後は、機器操作の熟練度を増し、使い始めの頃よりは時間も短縮していくと実感している。また、工夫して使っていくうちに機器に対する愛情の様なものが職員全体に芽生え始めている。課題もまだたくさんあるが、今後も新しい機器を多く導入してもらい、柔軟な姿勢でご利用者と職員の健康を維持していきたい。