講演情報

[14-O-P102-03]200床超え大規模老健の在宅強化型へのチャレンジ

*佐治 浩功1 (1. 愛知県 介護老人保健施設メディコ阿久比)
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平成30年改定の頃、稼働率を重視し、政策で求められている老健の役割をあまり実践できていなかった。そのため、改正直後は基本型でスタートした。在宅強化型を目指すと稼働率が低下し、運営が不安定になると考えていたが、老健の役割を取り組む中で「加算型」「在宅強化型」に移行することができた。200床を超える大規模な老健でも在宅強化型となり、安定して類型維持ができたことを報告する。
【はじめに】
当施設は214床の大規模な老健であり、愛知県の知多半島二次医療圏のほぼ中心に位置している。近隣の介護老人保健施設は在宅超強化型の老健もあり、当施設は比較的中長期的な入所を希望される利用者の方が多くいるのが現状である。
在宅復帰在宅療養支援機能指標計算書が導入された平成30年頃は、稼働率を重視し、在宅復帰や看取りケアを重視せず、政策が老健に求める役割を実施できていなかった。そのため、改正直後は基本型のスタートだった。在宅強化型を目指すと稼働率が低下し、老健運営に支障をきたすと考えていた。老健に求められる役割を取り組む中で「加算型」「在宅強化型」に移行することができた。200床を超える大規模な老健でも在宅強化型となり、安定して類型維持を果たすに至るまでのチャレンジを報告する。
【取り組み】
稼働率を落とさず、在宅復帰率を高めるにはどうすれば良いか考えた。平成30年4月、稼働率97.68%、自宅退所2件、病院退所14件、特養退所1件、看取り0件、在宅復帰率11.7%、回転率6.6%だった。回転率が高かったこともあり、入所前後訪問指導、退所前後訪問指導を実施することで指標点数40点以上は比較的安易にクリアーした。しかし在宅強化型を目指すには、病院退所件数で得ている回転率が課題となった。病院退所、特養退所を減らし、在宅件数を増やすために、施設看取りに取り組んだ。看取り件数が増えることで、病院退所が大きく減少し、特養退所も減少した。病院退所が減少したため、回転率の年度平均は10%から7%に低下した。入所定員214床で回転率5%以上を目指すためには、1月入退所合計22件必要となる。令和1年度時点での月の退所内訳は、少ない月でも病院5件、特養1件あった。退所件数11件を目指すと、月の在宅復帰5件となり、在宅復帰率45%をクリアーする道筋が見えた。入所担当の役職者と支援相談員で目標数値を設定した。取り組みから約1年で指標計算60点をクリアーし、在宅強化型となった。その後、要介護4、5の割合も徐々に増え、リハビリスタッフを増員し、訪問リハビリを開設し、指標計算が加点され、64~66点で安定することができた。
【結果】
看取り件数は、令和1年度 14件から25件に増加し、令和5年度は41件であった。病院退所件数は、令和1年度146件から66件に減少し、その後80件台で安定した。また特養退所は、令和1年度23件から14件へ減少した。それらの影響を受け、令和1年度最高14%、平均10.2%だった回転率は、令和2年度以降、稀に10%を超える月もあったが、平均7%台で推移した。看取り件数が増え、病院への退所件数が減少したことで、在宅復帰率は、令和1年度31%から令和2-3年度は平均40%以上を達成した。令和4年度は新型コロナにより指標計算書の除外申請をした月が多く、参考値として難しいが、令和5年度は2月を除き、除外申請なく、在宅復帰率95%以上を達成している。平成30年度指標点数48点からスタートし、令和1年6月に初めて60点を達成した。8-9月50点に低下するも、10月以降60点以上を維持し、最高点72点にも達した。稼働率について、令和2年度はムラがあり、平均93%台に低下したが、令和3年度には96%台に回復、令和4年度94%台、令和5年度95%台となった。令和4年度以降は、何度もコロナクラスターを経験しながらも、年平均2%程度の低下で在宅強化型を維持できたことは期待以上の結果だった。
【考察】
200床以上の老健は在宅強化型以上を目指さずとも、スケールメリットがあるため、稼働率重視であったとしても収益上の問題はない。そのため、基本型から加算型になれた際、無理のない範囲で指標計算書の得点を重ねることが運営上一番良い選択肢と考えていた。取組みの中で、看取り体制整備後の仮説を立てて変化を確認し、当施設に合ったルートを導き出せたことが、在宅強化型成功の鍵となったと考える。元々、胃瘻や吸引者割合が5%程度あったため、リハビリ人員や居宅サービスの実施数が整っていなくても、指標60点を達成する後押しにもなっている。リハビリ人員や居宅実施数の体制整備で得られる指標点数が、加点の余力となり、その後の安定した在宅強化型に繋がった。
【まとめ】
施設規模に関わらず、総合的な取り組みをしている老健が評価されることに間違いはない。そのためには、各専門職がそれぞれの役割を理解することが重要で、その役割を明確に示す手段として、指標計算書を活用することができる。
15年程前、当時の上司から政策に基づいた運営の重要性を教わった。政策に基づいた老健運営ができるよう毎年少しずつ、各専門職のスキルや資質向上、受入れ範囲の拡充などを図ってきた。その結果が今にある。
指標計算書は、介護報酬改定を重ねる毎に厳しくなることも予測される。LIFE要件のブラッシュアップ、資格要件、医療対応など、今取り組むべきことは多々ある。その中で、現在は所定疾患の算定範囲拡充に取り組んでいる。尿路感染症の算定件数は多いが、肺炎については年数件程度に留まっている。医師が安心して老健施設内で肺炎治療ができるよう、そして入所者自身やその家族の想いが医療・介護サービスに繋がるよう、ACPの整備と検査・治療体制のアップデートを図っている。今後も政策介護に基づいた老健運営を行い、今回は在宅強化型だったが、更に上の類型報告ができるよう邁進したい。