講演情報
[14-O-P102-04]ICT導入後の情報共有に関する取り組み
*中村 諭吏子1、佐藤 靖江1、澤村 敦子1、山田 剛1 (1. 三重県 介護老人保健施設みえ川村老健)
当施設では、介護ソフト『ほのぼの』と紙カルテを併用して利用者の各種情報やその他の情報を記録・管理してきた。しかし、申し送りに時間がかかったり、誤って伝わったりする問題も生じていた。そのため、記録と情報管理を『ほのぼの』に一元化することで情報伝達、情報共有の効率化と正確性を高め、それによって、看護・介護ケアの質の向上を目指すこととした。その過程と課題を報告する。
はじめに
当施設では、ケアカンファレンスは、個々の利用者のケアプランの立案や見直し、モニタリングはもちろん、それ以外の様々な情報の提供と共有の場でもある。それらの情報は、以前から介護ソフト『ほのぼの』(以下『ほのぼの』とする)を使用し、R4システムによって共有してきた。それに対し、利用者の日々の状態や看護・介護の状況に関する情報は、一部を除き、紙のカルテで管理され、業務交代時の申し送りによって共有されていた。しかし、職員によっては意図を取り違えることもあった。そのため、時間のかかる申し送りが繰り返されたり、申し送りに時間がとられケアサービスの提供が不十分になったりしていた。そこで、正しい情報がすべての職種に円滑に共有され、看護・介護サービスの質が向上することを目指して、令和5年4月より、以前から部分的に使用していた『ほのぼの』で情報管理を完結させることにした。その取り組み過程と課題を報告する。
目的
情報共有が効率化され情報がすべての職種に円滑に共有される。
期間
令和5年4月から現在継続中
方法
1) 『ほのぼの』を使いやすくするために、従来から使用しているパソコン版に加え、ケアパレットと呼ばれるタブレット端末も導入した。
2)担当職員を決め、先行して、導入方法や導入前後の問題点の洗い出し、改善方法等の検討を行った
3)『ほのぼの』の操作方法習得のための研修会を行った
4)情報はすべて『ほのぼの』に記録するように切り替えた
5)研修会だけでは理解できなかった操作方法等については、担当職員が個別に対応した
6)口頭での申し送りの廃止をした
7)従来、食事摂取量は紙のチェック表に記録後、『ほのぼの』に転記していたが、『ほのぼの』に直接入力とし、紙のチェック表は廃止した
8)紙のワークシートと排泄チェック表の使用は継続した
経過
情報を記録するにあたり、『ほのぼの』の記録カテゴリーは様々あるため、どのカテゴリーにどのような情報を記録するかについてはその都度検討を行った。その結果、職員が入力しやすく、使用頻度も高いケース記録から利用を開始した。その後、『ほのぼの』の使用状況など段階を見ながら他のカテゴリーの利用を検討し追加を行った。現在は、家族からの情報や個別的ケア方法、医師からの指示や検査、受診予定など申し送りノートやワークシートでやりとりしていた情報も『ほのぼの』に入力している。
『ほのぼの』の本格運用開始後、情報共有が強化され、看護職員間で一貫したケアの継続がより確実に実行できるようになった。その一例として、皮膚疾患の利用者の患部をタブレット端末で撮影し、『ほのぼの』に取り込むことで情報共有とケア方法の統一が図れた例がある。
導入開始直後は、パソコンでの記録入力に対し不安を抱く職員がいた。そこで、担当者による個別対応を実施し、現在も継続している。
考察と今後の課題
現在『ほのぼの』に記録していることで一定の情報は共有できているが、すべての情報を『ほのぼの』で一元管理することは、『ほのぼの』に慣れていない職員の不安が大きい。しかし、担当者を決め、個別対応をすることで少しずつ不安は軽減してきている。今後も丁寧に説明し実行していく必要があると考える。
看護・介護の質を向上させるためには、個々の職員が利用者の状況や状態に応じて適切に対応できるスキルを身に付けている必要がある。それと同時に、職員間で利用者の健康状態や利用者家族からの要望、その他の業務に関係する様々な情報を適切に共有しながら業務にあたる必要もあろう。情報共有の正確性やタイミングの適切性は施設のパフォーマンスや職員の仕事の質(ケアの質)に直結するはずである。しかし、職員の勤務時間帯に違いがあり、複数の職種が連携して業務を行うことが日常である老人保健施設では、情報共有は簡単ではない。それを克服するために、ICTの活用が有効だと考える。 とはいえ、どのような伝達手段を用いても、正しい情報共有は伝え手が情報を正確に入力して発信するだけでは成立しない。受け手がどう理解し実行するかによっても結果は異なる。加えて、当施設には外国人介護福祉士が6名在籍しており、日本語習得状況には個人差もある。そのため、発信スキルの習得と同時に受信スキルも習得していく必要があろう。
明治大学の山口生史教授は「職員のメッセージの記号化、言語化コミュニケーションスキルのトレーニングが正確な情報共有には必要である」と言っている。これを実現するためには、伝達する情報を正しく理解するために勉強会などを定期的に開催すること、組織内で情報伝達のルールを定め、職員間の意志疎通の円滑化を図り、情報を目にした時に正しい対応がすぐ導き出せるようにする必要がある。日々の業務における出来事などに関して、正確な情報共有をタイミングよく行うことなくしては質の良い看護・介護実践は困難であり、場合によっては利用者の健康や生命に重大な問題をもたらす可能性すらあろう。しかし、情報共有の重要性を理解できていない職員がいることも現実である。そのような職員をどう教育していくかは今後の課題である。また、さらに大きな課題は、『ほのぼの』の本格運用を契機に「看護・介護の質を向上させるための情報共有システム」を確立していくことである。
おわりに
現段階では、まだ紙の申し送りノート、ワークシート、排泄チェック表などの使用が継続しているが、今後は『ほのぼの』に移行していく予定である。更には、今後多くの職員が『ほのぼの』での入力に慣れるまでに、まだ確立していない文書や書式を完成させ、段階を見て追加していきたい。
当施設では、ケアカンファレンスは、個々の利用者のケアプランの立案や見直し、モニタリングはもちろん、それ以外の様々な情報の提供と共有の場でもある。それらの情報は、以前から介護ソフト『ほのぼの』(以下『ほのぼの』とする)を使用し、R4システムによって共有してきた。それに対し、利用者の日々の状態や看護・介護の状況に関する情報は、一部を除き、紙のカルテで管理され、業務交代時の申し送りによって共有されていた。しかし、職員によっては意図を取り違えることもあった。そのため、時間のかかる申し送りが繰り返されたり、申し送りに時間がとられケアサービスの提供が不十分になったりしていた。そこで、正しい情報がすべての職種に円滑に共有され、看護・介護サービスの質が向上することを目指して、令和5年4月より、以前から部分的に使用していた『ほのぼの』で情報管理を完結させることにした。その取り組み過程と課題を報告する。
目的
情報共有が効率化され情報がすべての職種に円滑に共有される。
期間
令和5年4月から現在継続中
方法
1) 『ほのぼの』を使いやすくするために、従来から使用しているパソコン版に加え、ケアパレットと呼ばれるタブレット端末も導入した。
2)担当職員を決め、先行して、導入方法や導入前後の問題点の洗い出し、改善方法等の検討を行った
3)『ほのぼの』の操作方法習得のための研修会を行った
4)情報はすべて『ほのぼの』に記録するように切り替えた
5)研修会だけでは理解できなかった操作方法等については、担当職員が個別に対応した
6)口頭での申し送りの廃止をした
7)従来、食事摂取量は紙のチェック表に記録後、『ほのぼの』に転記していたが、『ほのぼの』に直接入力とし、紙のチェック表は廃止した
8)紙のワークシートと排泄チェック表の使用は継続した
経過
情報を記録するにあたり、『ほのぼの』の記録カテゴリーは様々あるため、どのカテゴリーにどのような情報を記録するかについてはその都度検討を行った。その結果、職員が入力しやすく、使用頻度も高いケース記録から利用を開始した。その後、『ほのぼの』の使用状況など段階を見ながら他のカテゴリーの利用を検討し追加を行った。現在は、家族からの情報や個別的ケア方法、医師からの指示や検査、受診予定など申し送りノートやワークシートでやりとりしていた情報も『ほのぼの』に入力している。
『ほのぼの』の本格運用開始後、情報共有が強化され、看護職員間で一貫したケアの継続がより確実に実行できるようになった。その一例として、皮膚疾患の利用者の患部をタブレット端末で撮影し、『ほのぼの』に取り込むことで情報共有とケア方法の統一が図れた例がある。
導入開始直後は、パソコンでの記録入力に対し不安を抱く職員がいた。そこで、担当者による個別対応を実施し、現在も継続している。
考察と今後の課題
現在『ほのぼの』に記録していることで一定の情報は共有できているが、すべての情報を『ほのぼの』で一元管理することは、『ほのぼの』に慣れていない職員の不安が大きい。しかし、担当者を決め、個別対応をすることで少しずつ不安は軽減してきている。今後も丁寧に説明し実行していく必要があると考える。
看護・介護の質を向上させるためには、個々の職員が利用者の状況や状態に応じて適切に対応できるスキルを身に付けている必要がある。それと同時に、職員間で利用者の健康状態や利用者家族からの要望、その他の業務に関係する様々な情報を適切に共有しながら業務にあたる必要もあろう。情報共有の正確性やタイミングの適切性は施設のパフォーマンスや職員の仕事の質(ケアの質)に直結するはずである。しかし、職員の勤務時間帯に違いがあり、複数の職種が連携して業務を行うことが日常である老人保健施設では、情報共有は簡単ではない。それを克服するために、ICTの活用が有効だと考える。 とはいえ、どのような伝達手段を用いても、正しい情報共有は伝え手が情報を正確に入力して発信するだけでは成立しない。受け手がどう理解し実行するかによっても結果は異なる。加えて、当施設には外国人介護福祉士が6名在籍しており、日本語習得状況には個人差もある。そのため、発信スキルの習得と同時に受信スキルも習得していく必要があろう。
明治大学の山口生史教授は「職員のメッセージの記号化、言語化コミュニケーションスキルのトレーニングが正確な情報共有には必要である」と言っている。これを実現するためには、伝達する情報を正しく理解するために勉強会などを定期的に開催すること、組織内で情報伝達のルールを定め、職員間の意志疎通の円滑化を図り、情報を目にした時に正しい対応がすぐ導き出せるようにする必要がある。日々の業務における出来事などに関して、正確な情報共有をタイミングよく行うことなくしては質の良い看護・介護実践は困難であり、場合によっては利用者の健康や生命に重大な問題をもたらす可能性すらあろう。しかし、情報共有の重要性を理解できていない職員がいることも現実である。そのような職員をどう教育していくかは今後の課題である。また、さらに大きな課題は、『ほのぼの』の本格運用を契機に「看護・介護の質を向上させるための情報共有システム」を確立していくことである。
おわりに
現段階では、まだ紙の申し送りノート、ワークシート、排泄チェック表などの使用が継続しているが、今後は『ほのぼの』に移行していく予定である。更には、今後多くの職員が『ほのぼの』での入力に慣れるまでに、まだ確立していない文書や書式を完成させ、段階を見て追加していきたい。