講演情報

[14-O-P103-02]事業所間連携による人材創出~半休の導入に向けて~

*島田 実紀1 (1. 栃木県 介護老人保健施設やすらぎの里八州苑)
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もはや人材不足は社会全体の問題であるが、当施設では入所と通所の業務フローを再確認することでスタッフの柔軟な運用を試みた。その結果として、部署間の垣根を越えて業務を協力し合う関係が構築でき業務負荷の分散化に成功した。加えて、シフトに融通性が生まれ有給が取得しやすくなっただけでなくこれまで導入が困難であった半休制度を開始することができた。人材確保自体がますます困難となる現在、有効な取り組みと考えた。
【はじめに】
 現在、生産人口の減少に伴いほぼすべての業界で人手不足が深刻となっており、われわれ介護業界においても大きな問題となっていることは周知の事実である。令和3年度の介護労働安定センターが行った退職理由は「結婚・妊娠・出産・育児」が25%、「職場の人間関係」16.6%、「将来の見込みが立たなかった」15%であった。当施設では子育て世代の職員が多く、就業を継続してもらうためにもそのようなスタッフが働きやすい環境を整備することは重要な課題であった。一方で、子育て世代が多い職場では、子供の体調不良等に起因する子育て世代スタッフの突発的な休みや早退がしばしば発生する。これが頻回となると残されたスタッフの業務負荷が増大し、結果として子育て世代とそれ以外のスタッフの分断を惹起させる大きな原因となり得る。これらを解決すべく、まずどのような場面で人員不足からの業務負荷増大が発生しているのかを調査した。そのうえで、通所事業所と連携してスタッフを融通してもらい、高負荷な時間帯の業務を一部分担してもらう取り組みを開始した。その結果、人員不足に起因するスタッフの負担は軽減され業務に余裕が生まれた。さらに、人員に余力が出たことで休みを取りやすい環境となり、これまで導入が困難であった半休の制度まで導入することが可能となった。取り組みの内容について考察とともに報告する。

【取り組み】
 現場における日常業務の中で人員が不足しやすい1)時間帯と2)曜日を精査した。
 1)まず時間帯については14時30分から16時までの1時間30分間が特に人員不足が発生しやすいことがわかった。その時間の業務は、排泄介助、入浴介助、おやつ介助、入所者家族の面会の対応など業務が複数重なっていることに加え、上述のような子育て世代スタッフの早退などが加わると負荷が集中しやすいことが原因として挙げられた。一方で、通所業務のフローを再確認すると、一日の業務の中で最もマンパワーが必要となる「送迎」と「入浴」に照準をあてて出勤の人数を調整されており、その業務が終了するタイミングであるため比較的人員にゆとりがある時間帯であった。そのギャップに着目して入所利用者のケアの一部、具体的には排泄介助を分担してもらうこととした。
 2)曜日に着目すると、特に日曜日に出勤する人数が少なく業務負荷が生じていることがわかった。子育て世代のスタッフは、子供に休みを合わせざるを得ない場合が多いことが原因である。一方で通所事業所では、もともと日曜日が固定休となっているスタッフが大多数で、平日に休日をつくるために有給消化をしているものも少なくなかった。そのようなミスマッチがあることに着目し、むしろ日曜日に出勤を希望している通所スタッフに声をかけ、入所スタッフの一員として日曜日に出勤してもらい公休を平日にあててもらうこととした。

【結果】
 午後の排泄介助においては、通所スタッフの加入によりこれまでよりも多い人数でケアにあたることが可能となった。そのため、職員ひとりひとりの負担が減っただけでなく、ケアにあたる時間に余裕が生まれたことでケアの質も向上した。また、日曜日にも通所スタッフが業務を分担してもらうことで、これまで日曜日出勤可能なスタッフに集中していた業務負荷がある程度分散可能となり、シフトに一定の平等性が生まれた。このような業務負荷が集中する場面がある程度解消されたことで、これまでよりも出勤しなくてはならないスタッフは逆に減少した。そのため、シフト作成自体が以前よりも容易となり、スタッフが希望するタイミングで有給が取りやすくなった。さらにはこれまでシフト作成の煩雑さから導入できていなかった半休も付与することが可能となった。

【考察】
 今回の一連の取り組みの中で、新たに半休制度を導入できたのは大きな成果であった。これまで半休については何度も議論されていたが、これまでのスタッフ数では現場のケアに必要な人数を確保することに重きを置いていたため、シフト作成が事実上不可能であり見送られてきた経緯があった。導入による恩恵は子育て世代のスタッフだけでなく、介護が必要な家族がいるスタッフや、病気のため通院が必要なスタッフなどにも波及し、就業継続のしやすさを実感してもらうことができた。
 一方で、入所利用者のケアを分担してもらう通所スタッフからも肯定的な意見が少なくなかった。通所サービスの利用者は入所利用者よりも介護度が低いことが多いため、陰部洗浄したり看護師とともに褥瘡処置を行ったりなど、これらの経験が少ないスタッフのスキルアップに寄与したためである。また、入所利用者が在宅復帰する際にすでに顔見知りの関係が構築できていることが増え、スムーズに通所サービスに移行が可能となるメリットも感じられた。
 すでに介護業界以外でも人手不足が顕在化しており、事業所の人員が不足しているからといって十分な数のスタッフを確保していくことは容易ではない。そのため、限られたリソースの中で効率的な運営が必要である。その一方で、就業を継続していくにあたりさまざまな制約のあるスタッフも少なくなく、製制約があっても働きやすい職場環境の整備も重要となっている。これらを両立することのできた通所事業所との業務連携は非常に有効であると感じた。加えて、業務連携をする目的と意義をスタッフそれぞれが理解してもらえるよう努めることも必要なことである。現在当施設では、これまでと逆に入所スタッフが通所事業所の入浴介助を分担することもあり、部署の垣根を越えて協力できる体制が整いつつある。人員基準や勤怠の調整など管理職側の負担は大きいが、今後は同様の取り組みを法人全体に広げることでよりよい職場環境をつくりだしたいと考えている。