講演情報

[14-O-P103-03]ICT機器導入によるアンケート調査について

*小泉 英子1、田中 祐人1、中井 由加里1、井村 龍麿1 (1. 奈良県 介護老人保健施設ウェルケア悠)
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ICT機器導入に際し、介護職員ならびに技能実習生に対して業務改善に関するアンケート調査を実施した。その結果、業務改善が見られたとの回答が多く得られた。一方、わずかであるが業務の改善には至らなかったとの回答も見られた。今回のアンケート調査の結果から介護職員、技能実習生ともに大きな差がなく、ICT機器の導入によって業務内容の改善が見られたと回答を得たため、ここに報告する。
【はじめに】 
令和6年度介護報酬改定により生産性向上推進体制加算としてICTの活用促進が新たな事項として追加された。国全体として介護職の人材が不足している中、介護場面におけるICT化が進むことにより業務負担の軽減が期待されている。当施設においても眠りスキャン、インカム、サニタリー利用記録システムを導入し、業務効率の改善による生産性の向上を図り取り組んでいる。しかし、ICTの導入に対し、職員が活用できていなければ、導入に見合った効果が望めない。また、ICT機器の導入や利用についての課題・問題に関して、コスト面に次いで「技術的に使いこなせるか心配である」という点があると報告されている1)。そこで、ICTの導入による効果検証として職員へのアンケート調査を行った。 
なお、アンケート結果の分析は介護職員と技能実習生に分けて行った。技能実習生は異文化、他言語という環境のなか職員間でのコミュニケーションを取り、業務を行う必要がある。そのような状況でICTという新たなシステムに適応して業務を行うことは容易ではないと考えたためアンケート結果に影響を及ぼすかを検討した。
【方法】 
対象者は当施設内職員51名(介護職員:39名、技能実習生:12名)とし、ICT機器の導入後においてアンケート調査を行った。アンケートはGoogle Formsを用いて作成し、個人が特定されることのない無記名式であることを説明し、アンケートへの回答を求めた。 
アンケートの質問項目は
(1)ICT機器の導入により業務内容が改善されたと感じるか〈以下:質問項目(1)〉
(2)業務時間に余裕ができたと感じるか〈以下:質問項目(2)〉
(3)利用者との関わりの変化
以上の3つの質問項目とした。
(1)ICT機器の導入により業務内容が改善されたと感じる程度について「とても良くなった」「良くなった」「変わらない」「悪くなった」「とても悪くなった」の5段階で、また、その内容について自由記述にて回答を得た。(2)業務時間に余裕ができたと感じるかについては質問項目(1)において「とても良くなった」「良くなった」と回答した者を対象に、ICT機器の導入により業務時間に余裕ができたと感じる程度について「とても感じる」「感じる」「変わらない」「悪くなった」「とても悪くなった」の5段階で、また、その内容について自由記述にて回答を得た。(3)利用者との関わりの変化については質問項目(2)において「とても感じる」「感じる」と回答した者を対象に、利用者との関わりの変化について「とても変わった」「変わった」「変わらない」の3段階で、また、その内容について自由記述にて回答を得た。
【結果】
ICT機器の導入により業務内容が改善されたと感じるかに関して介護職員の結果は「とても良くなった」17.9%「良くなった」66.7%「変わらない」15.4%「悪くなった」0%「とても悪くなった」0%となった。改善されたと感じたICT機器はインカム27名、眠りスキャン21名、サニタリー利用記録システム6名となった。改善されたと感じた内容は時間の短縮が17名、業務の簡略化が22名、安全な業務の遂行が16名、管理が楽になるが1名、スタッフとの連携が取りやすいが1名となった。改善されていないと感じた理由としては「インカムの音がノイズとなり、対面での会話が聞き取りづらくなってしまう」「業務内容は変わらない」が挙げられた。技能実習生の結果は「とても良くなった」16.7%「良くなった」75%「変わらない」8.3%「悪くなった」0%「とても悪くなった」0%となった。改善されたと感じたICT機器はインカム5名、眠りスキャン8名、サニタリー利用記録システム1名となった。改善されたと感じた内容は時間の短縮が4名、業務の簡略化が2名、安全な業務の遂行が7名となった。
業務時間に余裕ができたと感じるかに関しては、質問項目(1)の回答により介護職員33名が回答し、「とても感じる」3%「感じる」69.7%「変わらない」27.3%「悪くなった」0%「とても悪くなった」0%となった。業務時間に余裕がないと感じた理由としては「ICT機器を利用しても人員不足は変わらない」が挙げられた。技能実習生10名の回答では「とても感じる」20%「感じる」70%「変わらない」10%「悪くなった」0%「とても悪くなった」0%となった。
利用者との関わり方の変化について質問項目(2)の回答により介護職員24名が回答し、「とても変わった」0%「変わった」83.3%「変わらない」16.7%となった。関わり方の変化の内容としては「利用者との関わる時間の増加」「介護に時間をかけて行える」「安全に介護を行える」「スタッフ間の連携の向上」「接遇改善」が挙げられた。技能実習生10名の回答では「とても変わった」20%「変わった」80%「変わらない」0%となった。関わり方の変化の内容としては「素早く対応に向かうことが可能となった」「安全に介護が行える」が挙げられた。
【考察】 
結果から介護職員と技能実習生ではICT機器への適応の程度は大きな差がみられなかった。また、介護職員の15.4%、技能実習生の8.3%はICT機器導入後も業務内容は変わらず、改善に至らなかったという回答に関して、U字の法則が関係していると考える2)。U字の法則とは、新たな取組を開始してから業務内容の改善に至るまでには取組に適応する期間が必要であり、その期間は一時的に業務効率が低下してしまうという法則である。アンケート調査はICT機器の導入から4ヶ月目に実施しており、ICT機器への適応期間であるため業務改善に至らないと回答した職員がいたことが示唆された。
【参考文献】
1)公益財団法人介護労働安定センター:令和4年度介護労働実態調査;事業所における介護労働実態調査結果報告書
2)厚生労働省:介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン