講演情報
[14-O-P103-04]「排泄ケアの見直しから得られたこと」
*塩川 竜也1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設さつきの里あつぎ)
排泄介助において、決まった時間にトイレ誘導やオムツ交換を一斉に行っていた。排泄介助が業務に占める割合が多く、そこに人員がとられるため、利用者が落ち着かなくなる時間帯に見守りの人員が手薄となり事故件数が増えていた。逼迫していた業務を改善するため、排泄介助を見直し成果を上げることができた。業務を見つめ直し、利用者個々の視点に立ち返ることで改善の余地があることに気づけた。
【はじめに】
3大介護のうちの一つである排泄介助は、昼夜問わず介助が必要になる為、食事介助・入浴介助に比べ介助の回数が多いことが特徴である。
さつきの里あつぎの認知症専門棟では、自ら尿意を感じて「トイレに行きたい」と訴える利用者が少なく、毎食後、決められた時間に画一的に排泄介助を行っていた背景がある。排泄介助の回数が多いことは、ケアの質の向上であると考えられていた。しかし排泄介助に要する時間が長く、そこに人員を割くことから、フロアでの見守りの人員が不足し、転倒・トラブルなどの事故件数が多くなってしまう現状があった。
この状況を改善するため、排泄介助の見直しを目的に業務改善を検討した。すると排泄介助の時間短縮だけでなく、事故件数の減少、利用者の生活の質の向上にも繋がることができた。その取り組みから得られた経過を報告する。
【課題】
認知症専門棟では、毎食後や起床時・就寝前と決まった時間にトイレ誘導やオムツ交換を一斉に行っていた。朝は陰部洗浄・就寝前はオムツの装着など排泄介助が業務に占める割合が非常に多くなっていた。排泄介助に人員が取られる為、フロアの見守りをする人員が少ない状況にあった。特に夕方から夜間にかけては落ち着かなくなる利用者が多くなることから、転倒・転落事故や利用者同士のトラブルなど、他の時間帯よりも事故件数が集中していた。排泄介助に掛かる時間が長いことは、職員の身体的負担や介助が中々終わらないという心理的負担も大きくなっていた。
【取り組み・経過】
まず「自ら訴えることのできない利用者」のトイレ誘導は、起床時・毎食後・午前・午後のおやつ後、就寝時などに誘導を行っていたが、過去のデータから、トイレでの排尿が行なえている時間をピックアップし、排尿が殆ど見られない時間は廃止した。利用者ごとに個別で決めた時間でトイレ誘導を行い、トイレでの排尿がなく、パッドにも濡れていないなど、排尿感覚が長くなる場合は、次の誘導時間を早め、誘導の間隔はその日の利用者の状況に応じて柔軟に時間を前後して対応した。
次に、1日5~6回実施しているオムツ交換の回数を夜間睡眠時間の確保や利用者の身体的負担を軽減するため、1日3~4回の交換回数に減らせないか検討した。利用者毎に尿量測定すると、使用していたパッドの吸収量や質を考えると、交換回数を減らすことにより尿量オーバーになり衣類までの失禁や、皮膚トラブルが生じてしまう懸念があった。その為、パッド1枚あたりのコストは上がるが、より多くの吸収量があり、パッド内の湿潤・摩擦も軽減できる商品を検討した。メーカーからのデモ品を実践し、懸念していた尿漏れやスキントラブルなどもみられなかった。交換回数を減らすことにより、パッドの使用枚数が現在使用している物より減り、コスト面の増加もないことが分かったため、メリットの方が多く、使用物品の変更を行った。
【結果】
業務改善に取り組む以前は、一日あたり、排泄介助に要していた時間は約770分であったが、取組後は約620分となり、150分の時間を削減することができた。150分の時間の獲得の影響は大きく、落ち着かない利用者へ職員が寄り添う時間が増えた。そのことは帰宅願望や不穏症状の緩和に繋がり、夕食後の転倒・転落・トラブルなどの事故が月平均2.8件から1.8件に減少した。また皮膚が脆弱な方や疲労感が見られる利用者に対し、午前、午後ともに60~120分程度、臥床時間を設ける事ができ、ケアの質の向上にも繋がった。更に、排泄介助に要する時間が減少した事で逼迫していた業務が緩和され、職員の肉体的・心理的負担軽減にも繋がり心に余裕を持った対応が行えるようになった。
【考察・まとめ】
今回の取り組みでは、トイレ誘導やオムツ交換を個々に合わせた適切なタイミングを考えることにより、個別ケアの重要性を振り返るよい機会ともなった。必要だと思っていた画一的な排泄介助は個々の状況に合わせた介助を行うことで大幅な時間短縮に繋がり、利用者に寄り添うことで事故防止やケアの質を向上させるという大きな成果を上げることができた。
介護職の業務はどの業務も重要で常に時間のやりくりが迫られている。しかし、「必要だ」と思っていた業務も見つめなおすことで改善の余地があることに気づくことができた。今後もこの視点を大切にし、質の高いケアを目指し業務改善に取り組んでいきたい。
3大介護のうちの一つである排泄介助は、昼夜問わず介助が必要になる為、食事介助・入浴介助に比べ介助の回数が多いことが特徴である。
さつきの里あつぎの認知症専門棟では、自ら尿意を感じて「トイレに行きたい」と訴える利用者が少なく、毎食後、決められた時間に画一的に排泄介助を行っていた背景がある。排泄介助の回数が多いことは、ケアの質の向上であると考えられていた。しかし排泄介助に要する時間が長く、そこに人員を割くことから、フロアでの見守りの人員が不足し、転倒・トラブルなどの事故件数が多くなってしまう現状があった。
この状況を改善するため、排泄介助の見直しを目的に業務改善を検討した。すると排泄介助の時間短縮だけでなく、事故件数の減少、利用者の生活の質の向上にも繋がることができた。その取り組みから得られた経過を報告する。
【課題】
認知症専門棟では、毎食後や起床時・就寝前と決まった時間にトイレ誘導やオムツ交換を一斉に行っていた。朝は陰部洗浄・就寝前はオムツの装着など排泄介助が業務に占める割合が非常に多くなっていた。排泄介助に人員が取られる為、フロアの見守りをする人員が少ない状況にあった。特に夕方から夜間にかけては落ち着かなくなる利用者が多くなることから、転倒・転落事故や利用者同士のトラブルなど、他の時間帯よりも事故件数が集中していた。排泄介助に掛かる時間が長いことは、職員の身体的負担や介助が中々終わらないという心理的負担も大きくなっていた。
【取り組み・経過】
まず「自ら訴えることのできない利用者」のトイレ誘導は、起床時・毎食後・午前・午後のおやつ後、就寝時などに誘導を行っていたが、過去のデータから、トイレでの排尿が行なえている時間をピックアップし、排尿が殆ど見られない時間は廃止した。利用者ごとに個別で決めた時間でトイレ誘導を行い、トイレでの排尿がなく、パッドにも濡れていないなど、排尿感覚が長くなる場合は、次の誘導時間を早め、誘導の間隔はその日の利用者の状況に応じて柔軟に時間を前後して対応した。
次に、1日5~6回実施しているオムツ交換の回数を夜間睡眠時間の確保や利用者の身体的負担を軽減するため、1日3~4回の交換回数に減らせないか検討した。利用者毎に尿量測定すると、使用していたパッドの吸収量や質を考えると、交換回数を減らすことにより尿量オーバーになり衣類までの失禁や、皮膚トラブルが生じてしまう懸念があった。その為、パッド1枚あたりのコストは上がるが、より多くの吸収量があり、パッド内の湿潤・摩擦も軽減できる商品を検討した。メーカーからのデモ品を実践し、懸念していた尿漏れやスキントラブルなどもみられなかった。交換回数を減らすことにより、パッドの使用枚数が現在使用している物より減り、コスト面の増加もないことが分かったため、メリットの方が多く、使用物品の変更を行った。
【結果】
業務改善に取り組む以前は、一日あたり、排泄介助に要していた時間は約770分であったが、取組後は約620分となり、150分の時間を削減することができた。150分の時間の獲得の影響は大きく、落ち着かない利用者へ職員が寄り添う時間が増えた。そのことは帰宅願望や不穏症状の緩和に繋がり、夕食後の転倒・転落・トラブルなどの事故が月平均2.8件から1.8件に減少した。また皮膚が脆弱な方や疲労感が見られる利用者に対し、午前、午後ともに60~120分程度、臥床時間を設ける事ができ、ケアの質の向上にも繋がった。更に、排泄介助に要する時間が減少した事で逼迫していた業務が緩和され、職員の肉体的・心理的負担軽減にも繋がり心に余裕を持った対応が行えるようになった。
【考察・まとめ】
今回の取り組みでは、トイレ誘導やオムツ交換を個々に合わせた適切なタイミングを考えることにより、個別ケアの重要性を振り返るよい機会ともなった。必要だと思っていた画一的な排泄介助は個々の状況に合わせた介助を行うことで大幅な時間短縮に繋がり、利用者に寄り添うことで事故防止やケアの質を向上させるという大きな成果を上げることができた。
介護職の業務はどの業務も重要で常に時間のやりくりが迫られている。しかし、「必要だ」と思っていた業務も見つめなおすことで改善の余地があることに気づくことができた。今後もこの視点を大切にし、質の高いケアを目指し業務改善に取り組んでいきたい。