講演情報

[14-O-P103-07]介護老人保健施設で働く言語聴覚士の役割について考察

*三好 正真1、坂本 将徳2、笠井 俊男1、駒崎 卓代1、津田 麻子1、津田 隆史1 (1. 岡山県 老人保健施設古都の森、2. 広島都市学園大学)
PDFダウンロードPDFダウンロード
老健におけるSTの配置需要が高まる中、STを配置する施設は少なく、またST分野のみのアプローチでは業務量として少なく非効率的である。ST業務と運動療法を両立する事で、誤嚥性肺炎減少と短期集中リハビリテーション実施加算の算定回数増加を可能としサービスの質向上と施設運営に有益である事が示唆された。ST導入の検討材料となり、老健のさらなるサービスの質や生産性の向上に寄与できればと思う。
【背景】現在、老健におけるSTの配置に対する需要が高いといえる。理由としては、1.専門的な嚥下評価による安全な食事摂取へのニーズ、2.老健における在宅復帰・在宅療養支援機能の促進における算定要件「リハ専門職の配置割合」のST配置条件へのニーズ、3.「口腔機能向上加算」を代表するように口腔機能の改善や管理に関する加算が導入されSTの専門性を活かせる機会が増えたことの3つが挙げられる。これら、1および3は誤嚥性肺炎の予防に効果的であり、2は事業所の経営状態に影響を及ぼすことが推測される。しかし令和4年度日本言語聴覚士協会の調査では、STとして老健・特養で働く者はST全体(会員のみで計算)の約20%と報告されている。有職者16656人のうち20.2%(およそ3331人)であり、全国の特養数1万469施設、老健数4279施設の計14748施設(令和3年)で比べると、現状では老健で働くSTが少ない。私は、急性期病院で4年間在籍し、現在は老健で勤務2年目となる。当施設では初めてのSTとなり、今年には2人目のSTが配置された。老健で勤務する中で特に感じたことは、病院のSTと老健のSTで求められる役割の違いである。病院でのSTの役割は、脳卒中患者に対する訓練(嚥下・言語・構音・音声・高次脳機能訓練)が中心であった。一方、老健においては病院で行ってきたST訓練の対象者が少なく、口腔ケアや嚥下評価・食事形態検討が中心である。誤嚥性肺炎の予防に効果的ではあるが、これらのSTによる専門的アプローチのみだと業務量として少なく空き時間が多い。これらの事から、老健で働くSTの働き方や役割を当施設で行っている取組みを基に紹介する。ST配置を検討する施設関係者様にとっての検討材料に成り得ると考える。【業務内容】現在の業務内容は、「STに特化した業務」と、入職してから指導を受けて実施している「運動療法」である。STに特化した業務として、1.食事評価、2.胃瘻者への楽しみ摂取、3.失語症者への言語訓練、4.口腔衛生の管理が挙げられる。1については、新規入所者の食事評価、嚥下状態が変化した入所・通所利用者の食事評価、食事形態変更を希望された入所・通所利用者の食事評価を行う。2は、楽しみ摂取を希望する入所・通所利用者に対して嚥下評価を実施し可能であれば楽しみ摂取を行う。3は、失語症者に対してコミュニケーション能力の維持・改善のリハビリや普段会話が少ない失語症者のコミュニケーションの場を提供する。4は、入所時の口腔の健康状態の評価を行う。口腔衛生の管理体制で必要な“口腔の健康状態の評価”を入所時にSTが実施し、評価後に現場のスタッフと情報共有を行う。口腔環境を知り、適切な食事形態の検討や誤嚥の予防方法を提案することで専門的なアプローチに繋げる。入職後に指導を受けた運動療法としては、STの専門的訓練の対象ではない運動機能の改善が必要な方に対して、関節可動域訓練や筋力訓練・立位訓練・歩行訓練などを行う。歩行評価やADL評価はPT・OTが実施し、訓練プログラムの設定された目標や訓練方法、訓練時の注意点をPT・OTから指導を受けてSTも実施する。STが運動療法に参加することで利用者に提供可能な運動療法の実施回数を増やし、老健の目的である在宅復帰への可能性を高めることが可能と考えられる。また、単に基本動作の向上のみならず、頭頸部の関節可動域訓練は嚥下関連筋群の拘縮を予防する。また、歩行訓練などによる体幹筋活動は食事中の正しい姿勢を可能にするため、STに関連する嚥下機能の予防にも繋がる。入職時から継続してPT・OTによる運動療法に関する勉強会(座学・実技)を受講し、運動療法に関する知識や技術の獲得を行っている。【結果】当施設にSTが入職する前(令和4年4月~令和5年3月の1年間)と入職後(令和5年4月~令和6年3月の1年間)に当施設から病院へ入院した利用者のうち誤嚥性肺炎で入院した利用者を比較した。入職前で44人の入院者のうち10人(22.7%)が誤嚥性肺炎で入院、入職後で48人の入院者のうち7人(14.5%)が誤嚥性肺炎で入院であった。また当施設は、ST入職前までは短期集中リハビリテーション実施加算の算定回数が週3~6回であり算定回数に変動があった。しかし、STが入職したことで運動療法の提供回数が増加し、安定した短期集中リハビリテーション実施加算の算定が可能になり、現在は週6回の算定と回数が安定した。【考察】STに特化した業務を継続することで、誤嚥性肺炎で入院した利用者数は減少した。このことはSTに特化した業務が誤嚥性肺炎を予防することに寄与したと考える。誤嚥性肺炎の予防は医療費負担(受診費用や薬剤費用)の削減に繋がることのみならず、STが専門的に入所時の口腔状態を評価し食事形態の検討や誤嚥を予防するための助言を行うことは、介護サービスの質の向上にも繋がると考える。入職後に指導を受けた運動療法を実施することで、提供できる運動療法の回数を増加することになった。それにより短期集中リハビリテーション実施加算の算定回数を増やすことにも繋がったと考える。STの教育課程において運動療法のカリキュラムが無いため、すぐに運動療法を実施するのは困難と考えるが、当施設のようにPT・OTの教育や指導の仕組み、自己研鑽における運動療法の継続的な学習があっての実健可能な取り組みであると考える。短期集中リハビリテーションの限られた20分の中で、ST分野の訓練だけでなく利用者それぞれに最も必要な訓練を選択することが、結果として介護サービスの質の向上に繋がると考える。【おわりに】教育や指導の仕組み等の条件は存在するものの、今回の一例がST導入の一助になるとともに、老健のさらなるサービスの質や生産性の向上に寄与できればと思う。