講演情報

[14-O-P104-04]ICT GO!~ICTの運用を軌道に乗せるまで~

*杉山 瑠美1、佐藤 瑛介1 (1. 静岡県 介護老人保健施設こみに)
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入所フロアの業務効率化と安全性向上を目的にICT化を図った。2021年9月電子記録システムを導入後、ICTワーキンググループを発足。2022年6月LINEWORKS、2023年12月居室内見守りカメラ・センサーマット・インカムを導入。記録電子化で情報共有が円滑になり、センサーマットと見守りカメラで安全性が向上。インカムを使用することで業務効率化が図れた。ICT化は現場の声を反映させることで進展。今後は機器の活用精度向上を目指す。
【はじめに】
 入所フロアにて業務効率化と安全性向上を目的にICT化を図る上での取り組みと現状の事例を含めて紹介する。

【取り組み】
(1)立ちはだかるイメージと進まないICT化
 ICTという横文字を使用するだけで、職員は「壊してしまう」「データが消えてしまうのでは」等と、不安視する発言が多く聞かれた。10代から70代と幅広い職員が勤務する職場の中で、「パソコン」「タブレット」などのICT機器への抵抗もかなり強かった。ICT化を進めるため2021年9月に入所フロアに電子記録システムを導入したものの、役職者のみで運用方法の検討を行っていたこともありほぼ運用されずに半年が経過した。
(2)発想の転換
 2022年6月、各フロアからICTが得意な現場の職員総勢15名(看護師・介護職員・リハビリ職員・事務職員)を選抜しICTワーキンググループ(以下ICTワーキング)を発足。月一回の会議の場で、何が問題で電子記録システムが運用できないのか話し合いを重ねた。これまでは電子記録システムを施設で実際に使用している様々な紙の記録と同様のものにカスタマイズして運用しようと考えていた。その話し合いの中で、実際に使用する現場職員より「カスタマイズしなくても電子記録システムの既存の記録フォームに記録の方法を合わせればいいだけじゃないか」との意見が出た。苦手意識の強い現場職員を気遣い、紙で記入していた状態と変わりなく使用できるように、可能な限りカスタマイズを行うことを考えていたが、現場職員が「やれる!」といったこの一言で考えが一変。この発想の転換で施設内ICT化が一気に加速し、食事・排泄・処置等の記録が電子化された。また、ICTが苦手な職員でもマニュアル通りに入力するだけで記録ができるように記録方法を細かく記載したマニュアルを作成した。
 ICTワーキング発足と同時にLINEWORKSの運用も開始。各委員会・部署毎にグループを作成し情報共有を図った。また、社内の設備予約、掲示板での様々なお知らせ、カレンダーで入退所情報をアナウンスする等、情報共有ツールとして非常に有効なものとなった。
(3)生産性向上推進体制加算Iの算定へ
 2023年12月、補助金を活用し、入所全フロアにセンサーマット・居室内見守りカメラ・インカムを導入した。電子カルテ化に非常に時間がかかったため活用に不安があったが、ICTワーキングのメンバーを中心に準備を進め、各フロア職員は特に抵抗感なく導入・運用することができた。また、2024年5月から生産性向上体制加算Iを算定することもできている。
(4) 事例(電子カルテ化・センサーマット・居室内見守りカメラ・インカム)
 1.電子カルテ化
 電子カルテ化以前は、毎朝1階に席がある相談員やリハビリ職員が各フロアに出向き、手書きの申送り事項を確認。家族からの問い合わせについても、一旦折り返す旨を伝え2階・3階の各入所フロアまで上がりそのご利用者の病状等を把握後連絡していたが、記録が電子化されたことで、1階の職員は常に最新の情報について記録システムを介して知ることが出来、問い合わせについても即座に回答できるようになった。
 また、救急搬送時にナースがタブレットを持参することで、最新の情報を搬送先の病院で確認出来るようになった。
 2.センサーマットの活用
 夜間、センサーマットを活用することで、生存確認から状況確認へと巡回の内容が変更となった。ただし、巡回の回数については導入前と同様に行っている。
 また、起き上がりセンターが反応しアラートで通知されるため、以前は事故に繋がっていた行為が事故が起こる前に未然に防げたというケースも増えている。
 3.居室内見守りカメラ
 精神疾患のあるご利用者が、夜間居室内トイレに行った後転倒し壁に顔面を強くぶつけてしまった事故があった。その際ご利用者は「誰かに後ろから強く押された」と訴えた。居室内見守りカメラは2週間録画機能があるため、すぐに確認。ご自身での転倒であったことが証明でき、ご家族にもその旨を伝えた。ご利用者の安全だけでなく、働く職員を守るためにも非常に有効なものであることを実感した事例であった。
 4.インカムの活用
 インカム導入前は、広いフロアで連絡を取りたい職員を探し回る必要があったが、インカムを活用することでご利用者の介助をしながら他の職員と連絡を取ることができ、業務効率化に繋がった。また、入浴介助時、介護職員が処置の為に看護師を呼ぶ際今までは電話を使用していたが、インカムを使用することですぐに看護師と連絡を取ることが可能となった。また、面会時、1階事務所からご家族が来所した旨をフロアに伝える際、以前はナースステーション内の内線電話に連絡していたが、直接インカムで知らせることで、勤務する全職員に一括で伝達でき、情報共有も行えるため非常に便利に使用している。
 2階新館は、ABフロア・Cフロアと離れた場所にあるため、朝・晩の申送りを一括にてインカムで行うことで業務効率化を図ろうとしたが、耳で聞こえる情報だけでは申送りの内容が頭に入っていかず、これについては断念した。

【今後の展望】
 様々なICT機器を導入したが、まだ完璧に使いこなせるようにはなっていない。今後はそれぞれのICT機器の活用精度をもっと上げていきたい。そして、安心した入所継続・安心して勤務できる職場作りを目指していきたい。