講演情報

[14-O-P104-05]替えて変わった記録の生録記録システム導入がもたらした効果と課題に関する考察

*海老原 秋子1、萩原 航希1 (1. 宮崎県 並木の里)
PDFダウンロードPDFダウンロード
当施設では従来の手書き一辺倒の看護介護記録を改め、今春より電子記録システムを導入した。当初は慣れない職員もいたが、使いこなしていくうちにその利便性を実感するようになった。しかし今後に向けた課題も少なくない。データを生かし、在宅復帰・在宅療養支援機能が向上するのか?これまでの当施設におけるICT化への取り組みおよび職員アンケートの結果も踏まえ現状と課題を報告する。
【はじめに:光回線導入前】
 当施設は宮崎県のほぼ中心にある入所定員80名、通所定員60名の介護老人保健施設である。農村地帯に立地する当施設には令和3年春まで光回線が通っておらず、当時契約中のADSLを施設内の23台の端末が一度に使用すると通信がしばしば停滞。解決策としてモバイルルーター3台を別途契約し、必要な部署に貸し出して対応していた。
 このような状況下で迎えたコロナ禍、感染対策強化の観点から、集合方式での話し合いの開催が困難となり、その代替手段としてビジネス用SNS、チャットワークを導入。遅い通信速度でも支障がない、テキストベースでの情報共有を図った。
【光回線導入後】
 令和3年春、待ち焦がれた光回線が開通、速度低下の懸念が無くなった。Zoom等によるテレビ会議の開催が可能になったことはもとより、これまで参加できなかった全国研修会等にもオンラインで受講できるようになった。この通信環境の改善を待って、記録システムの導入への取り組みが始まった。
【従来の手書きによる記録】
 それまでのカルテは、フェイスシートやケアプラン、リハビリテーション計画書等、一部はパソコンで作成したものを印刷し添付していたが、ほとんどの記録は手書きに頼っていた。
 またカルテは29種類の書類で構成され、そのそれぞれに氏名(14回)、生年月日(7回)、ADL(6回)など、何度も同じ事項を書き入れなければならないという手間があることも確認された。
 さらにカルテは一利用者に一冊のため、記録を書いたり、見たりする作業を同時に複数の職員が行えず、「カルテの取り合い」も日常的に発生していた。
 【記録システムの導入に向けて】
 記録システム導入にあたっては、「宮崎県介護現場におけるICT導入支援事業費補助金」を活用した。また本格導入に先立ち、入所部職員を対象にした事前説明会を、専門業者を招いて実施した。
 【記録システムいざ導入、からのアンケート調査】
 準備期間を経て今年春からいよいよ記録システム「ケアパレット」を導入、運用が始まり、これまでと記録の風景が一変した。その使用感、効果などについて確認するため、職員アンケートを実施した。なお当施設としては初めて紙媒体ではなく、Googleフォームによる調査形式を採用した。
(1)導入を聞いた時の所感:「記録が楽になる」「情報をすぐ確認できる」「ケアの質が向上する」など、肯定的な意見が大半を占める一方「どんなシステムか想像がつかない」との意見もあった。
(2)導入後の感想・賛否:75%が「タブレットで撮影し、記録できる」という使い勝手の良さを挙げ、「記録が楽になった」「情報をすぐ確認できる」も過半数を占める一方、手書きの書類が残っていることに不便性を感じる声もあった。また全体の75パーセント強が「導入して良かった」と答え「悪かった」の回答はなかった。
(3)システムの理解、タブレット操作:ほとんどの職員がシステムを理解し、操作も「手書きより早くなった」と回答した一方、過半数の職員がログインからシステム立ち上がりの時間をストレスに感じる者が多かった。また以前のような「カルテの取り合い」はなくなったものの、「タブレットの数が十分ではない」と感じていた。
(4)導入による成果:記録システム導入により4割弱がケアの質が「高まった」と回答したのに対し、残る6割弱のほとんどが「どちらとも言えない」と回答。また「多職種との連携強化」については意見が割れた。さらに「記録システムが在宅復帰・在宅療養支援に役立っているか」の問にも6割弱が「どちらとも言えない」と答え、残る4割強は賛否が拮抗した。
(5)導入して良かったことに関する自由記述の設問では、「誤字脱字がなくなった、クセのある字を読む無駄な時間がなくなった。修正がすぐに出来てよい」「画像の共有はケアの改善につながっている」「その場でバイタル入力ができる」「どこにでも端末を持って行って記録できる」「日本語の勉強に役立っている」などの回答が寄せられた。
(6)悪かったことについての自由記述では、「導入が一部で、まだまだ紙データで動くものがありかえって煩雑になっている。入力ミスの確認作業は業務負荷となり本来の導入効果を妨げている」「記録に集中して利用者の見守りが不足していると感じる。職員がチラチラ利用者を見ながらタブレットをカチャカチャしているのは気分の良いものではない」「アップデート中や回線トラブル時には記録・確認が一切できない」「誤入力が増えた」「あまり字を書かなくなったので漢字を忘れそうだ」などの意見があがった。
【まとめと考察】
 ICT環境の整備が遅れていた当施設だが、コロナ禍による逼迫性および国や県による後押しを得て、ICT化への胎動がようやく始まった。
 職員アンケートにもあった通り、記録システムの導入に関しては、肯定的に受け入れられ、操作にも大きな支障はなかったものの、ケアの質の向上はもとより、介護老人保健施設の使命である在宅復帰・在宅療養支援機能の向上に寄与しているとは言い難い。
 時あたかも当施設は今年1月に「基本型」から「加算型」への変更が受理されたところであり、同機能のより一層の強化は至上命題である。したがって、記録システムの導入はあくまでもそのための一手段であって目的ではない。書き残すためだけの「記録」ではなく、データを生かした「生録」にする必要性を職員ひとりひとりが認識し、多職種が連携を密にし、利用者一人ひとりのニーズに即した自立支援型ケアの実践を通じ、在宅復帰・在宅療養を強力に推し進める老健施設に成長発展を遂げるために、今後記録システムをどのように活用していくか、先進施設の事例等からも学びを得ながら取り組みの充実強化をはかっていきたい。