講演情報
[14-O-P104-06]意識調査より見直したヒヤリハットの共有方法と学び方
*岡田 芽衣1、原 大樹2 (1. 鳥取県 介護老人保健施設なんぶ幸朋苑、2. 錦海リハビリテーション病院)
なんぶ幸朋苑のリハビリ部門では、短時間で記入して報告数の増加を図れるよう2022年10月にヒヤリハット報告書の書式を変更した。変更前に比べ報告件数の増加を認めたが、増加した報告書の確認を各自がタイムリーに行えているか、報告が業務改善につながっているか疑問に感じた。より良い取り組みとしていくために現状把握が必要と考え、リハビリ職員へ意識調査を実施した。結果から見えた課題と新たに始めた取り組みを報告する。
はじめに
日常場面のひやりとしたことを挙げ、危険に対する気付きを共有することは事故防止につながることが知られている。なんぶ幸朋苑のリハビリ部門(以下、当苑)では、短時間で記入して報告数の増加を図れるよう2022年10月にヒヤリハット報告書の書式を変更した。その結果、書式変更前の1年間において5件であった報告数が、変更後の1年間においては265件へ増加した。目的としていた報告数の増加は認めたが、各自が報告書をタイムリーに確認して業務改善につなげられることが重要であり、記入して終わりという状況になっていないか疑問に感じた。より良い取り組みにしていくために現状把握が必要と考え、リハビリ職員へ意識調査を実施した。調査結果から見えた課題と新たに始めた取り組みについて報告する。
対象と方法
ヒヤリハット報告に関する意識調査としてアンケートを作成し、当苑に勤務するリハビリ職員22名を対象として実施した。ヒヤリハット報告書の書式変更後にあたる2022年10月1日から2023年9月30日までの1年間におけるヒヤリハット関連の活動状況を調査対象とした。アンケートは無記名であり、13項目の選択回答形式による設問および自由記載欄で構成された内容であった。アンケート内容は自身の業務や経験についての設問5項目、報告書の様式や記入についての設問4項目、報告の共有についての設問4項目であった。倫理的配慮として、対象者へ研究の主旨や目的を説明し同意を得た上で実施した。
結果
アンケートの回答率は100%であった。
(1)自身の業務や経験について
・主たる業務を行っている部署(施設11名、在宅11名)
・業務中にひやりハッとした経験はあるか(はい21名、いいえ1名)
・インシデント報告レベルの事故の当事者となった経験はあるか(はい15名、いいえ7名)
・報告書の記入は自身の業務の見直しに役立っていると感じるか(はい18名、いいえ4名)
・他者の報告書を読み、自身の業務を見直した経験はあるか(はい18名、いいえ4名)
(2)報告書の様式や記入について
・報告書を記入しているか(毎回している2名、毎回ではないがしている18名、したことがない2名)
「その時、その日のうちにと思うが時間が経つと書くことを忘れる」「同じ事象の場合は書いていないことが多い」「口頭でのみの報告としてしまうことがある」
・報告書を書くことに対し抵抗はあるか(抵抗がある3名、抵抗はない19名)
・報告書の書式について変更が必要か(現状の書式が良い9名、変更が必要13名)
・どのような点で変更が必要か(自由記載)
「ハード面とソフト面に分けても良いのでは」「場所や事象など分類の仕方をわかりやすくする」「今後の対応について明確にしていないため、対応策まで記入した方が良い」
(3)報告の共有について
・報告書を他職員へ周知できているか(十分周知できている7名、あまり周知できていない12名、周知できていない3名)
・報告書の閲覧頻度はどれくらいか(毎日0名、1週間に1回10名、1ヶ月に1回11名、読んでない1名)
・現在の周知方法について問題点や改善点はあるか(自由記載)
「数が多すぎて把握できない、大事な情報が埋もれてしまう」「確認までに時間がかかる」「パソコン上など管理場所、供覧場所の変更が必要」
・ヒヤリハット報告を活用するための今後の取り組みについて(自由記載)
「報告内容の検討、要因分析や対応策の検討」「申し送り時に報告し合う」
考察
約8割の職員が報告書をもとに自身の業務を見直した経験があり、報告書の記入ならびに確認を行うことは業務改善に寄与していると考えられた。しかし、9割以上の職員が業務中にひやり・ハッとした経験を持ちながらも、毎回報告書を記入している職員は全体の約1割に留まっていた。「時間が経つと書くことを忘れる」「同じ事象の場合は書いていない」といった回答から、ヒヤリハット情報が共有されないまま日々の業務が遂行されているリスクがうかがわれた。
報告書を確認する頻度について約半数の職員が1ヶ月に1回と回答した。当苑のリハビリ職員は各自が所属する事業所で業務を行うため、紙の報告書へ記載して特定の場所で保管する方法では全員の確認し終えるまでに時間がかかると考えられた。改善策として情報共有用のアプリケーションソフトウェア(サイボウズOffice)を用いて報告書の入力と確認を行う方法へ変更した結果、各事業所の端末より実行できるようになり、全員の確認完了までの所要期間が短縮した。
医療事故につながる可能性のある問題点を把握して効果的な安全対策を講じるためには、全職員を対象とした事故事例やヒヤリハット事例などの報告体制を構築し、その結果得られた知見を組織全体で学び続けることが重要とされている。書式変更を必要とする理由に挙がった「対応策まで記入した方がよい」という意見は考えて学ぶ機会になると考えられ、対応策も考えて報告書へ入力するルールへ変更するとともに、学び合う目的にて月1回のリハビリ職員会議内で数例をピックアップして再発防止策を協議するよう変更した。
今後も意識調査を継続して状況の確認と改善策の検討を進めていき、提出された報告書を分析してヒヤリハットの傾向を共有するなど事故防止に向けた学びの充実も図っていきたい。
日常場面のひやりとしたことを挙げ、危険に対する気付きを共有することは事故防止につながることが知られている。なんぶ幸朋苑のリハビリ部門(以下、当苑)では、短時間で記入して報告数の増加を図れるよう2022年10月にヒヤリハット報告書の書式を変更した。その結果、書式変更前の1年間において5件であった報告数が、変更後の1年間においては265件へ増加した。目的としていた報告数の増加は認めたが、各自が報告書をタイムリーに確認して業務改善につなげられることが重要であり、記入して終わりという状況になっていないか疑問に感じた。より良い取り組みにしていくために現状把握が必要と考え、リハビリ職員へ意識調査を実施した。調査結果から見えた課題と新たに始めた取り組みについて報告する。
対象と方法
ヒヤリハット報告に関する意識調査としてアンケートを作成し、当苑に勤務するリハビリ職員22名を対象として実施した。ヒヤリハット報告書の書式変更後にあたる2022年10月1日から2023年9月30日までの1年間におけるヒヤリハット関連の活動状況を調査対象とした。アンケートは無記名であり、13項目の選択回答形式による設問および自由記載欄で構成された内容であった。アンケート内容は自身の業務や経験についての設問5項目、報告書の様式や記入についての設問4項目、報告の共有についての設問4項目であった。倫理的配慮として、対象者へ研究の主旨や目的を説明し同意を得た上で実施した。
結果
アンケートの回答率は100%であった。
(1)自身の業務や経験について
・主たる業務を行っている部署(施設11名、在宅11名)
・業務中にひやりハッとした経験はあるか(はい21名、いいえ1名)
・インシデント報告レベルの事故の当事者となった経験はあるか(はい15名、いいえ7名)
・報告書の記入は自身の業務の見直しに役立っていると感じるか(はい18名、いいえ4名)
・他者の報告書を読み、自身の業務を見直した経験はあるか(はい18名、いいえ4名)
(2)報告書の様式や記入について
・報告書を記入しているか(毎回している2名、毎回ではないがしている18名、したことがない2名)
「その時、その日のうちにと思うが時間が経つと書くことを忘れる」「同じ事象の場合は書いていないことが多い」「口頭でのみの報告としてしまうことがある」
・報告書を書くことに対し抵抗はあるか(抵抗がある3名、抵抗はない19名)
・報告書の書式について変更が必要か(現状の書式が良い9名、変更が必要13名)
・どのような点で変更が必要か(自由記載)
「ハード面とソフト面に分けても良いのでは」「場所や事象など分類の仕方をわかりやすくする」「今後の対応について明確にしていないため、対応策まで記入した方が良い」
(3)報告の共有について
・報告書を他職員へ周知できているか(十分周知できている7名、あまり周知できていない12名、周知できていない3名)
・報告書の閲覧頻度はどれくらいか(毎日0名、1週間に1回10名、1ヶ月に1回11名、読んでない1名)
・現在の周知方法について問題点や改善点はあるか(自由記載)
「数が多すぎて把握できない、大事な情報が埋もれてしまう」「確認までに時間がかかる」「パソコン上など管理場所、供覧場所の変更が必要」
・ヒヤリハット報告を活用するための今後の取り組みについて(自由記載)
「報告内容の検討、要因分析や対応策の検討」「申し送り時に報告し合う」
考察
約8割の職員が報告書をもとに自身の業務を見直した経験があり、報告書の記入ならびに確認を行うことは業務改善に寄与していると考えられた。しかし、9割以上の職員が業務中にひやり・ハッとした経験を持ちながらも、毎回報告書を記入している職員は全体の約1割に留まっていた。「時間が経つと書くことを忘れる」「同じ事象の場合は書いていない」といった回答から、ヒヤリハット情報が共有されないまま日々の業務が遂行されているリスクがうかがわれた。
報告書を確認する頻度について約半数の職員が1ヶ月に1回と回答した。当苑のリハビリ職員は各自が所属する事業所で業務を行うため、紙の報告書へ記載して特定の場所で保管する方法では全員の確認し終えるまでに時間がかかると考えられた。改善策として情報共有用のアプリケーションソフトウェア(サイボウズOffice)を用いて報告書の入力と確認を行う方法へ変更した結果、各事業所の端末より実行できるようになり、全員の確認完了までの所要期間が短縮した。
医療事故につながる可能性のある問題点を把握して効果的な安全対策を講じるためには、全職員を対象とした事故事例やヒヤリハット事例などの報告体制を構築し、その結果得られた知見を組織全体で学び続けることが重要とされている。書式変更を必要とする理由に挙がった「対応策まで記入した方がよい」という意見は考えて学ぶ機会になると考えられ、対応策も考えて報告書へ入力するルールへ変更するとともに、学び合う目的にて月1回のリハビリ職員会議内で数例をピックアップして再発防止策を協議するよう変更した。
今後も意識調査を継続して状況の確認と改善策の検討を進めていき、提出された報告書を分析してヒヤリハットの傾向を共有するなど事故防止に向けた学びの充実も図っていきたい。