講演情報

[14-O-A001-05]外出支援から得られた意欲社会資源を使用し、生活のフィールドを拡げよう

*水口 聖1、佐藤 美穂2、後藤 京美2、佐藤 綾子2、田中 希海2、中村 佑奈2 (1. 山形県 老人保健施設のぞみの園、2. サテライト老健のぞみ 通所リハビリテーション)
PDFダウンロードPDFダウンロード
通所リハビリテーション利用時によるリハビリの成果を、実際の生活の場面に求めた結果(屋外活動)、利用者の社会的役割の再獲得に繋がった。また、「計画されたリハビリ」よりも「自主的な目標設定によるリハビリ」により、リハビリ成果更には生きる意欲が向上した。
【はじめに】
 当通所リハビリテーション(以下通所リハビリ)は平均介護度1.43自立度の高い事業所となっている。マシントレーニングや自主訓練を主とした個別リハビリをメインとし、活動量を維持するとともに、事業所に併設する公園を活用した屋外歩行リハビリや作業活動に取り組んでいる。しかし、利用者の中には意欲的にリハビリに取り組むが、自宅で家族により活動を制限されるケースも少なくない。今回廃用が進行し、寝たきりになる間際だった方が、通所リハビリを利用して体力や筋力が回復し、ニーズをもとに、自分で通院や買い物などに出掛けられる事を目的とした外出支援を報告する。
【利用者情報】
 U様  男性 83歳 要介護1 火・木の週2回の利用 妻と二人暮らし
 現病歴:パーキンソン病、廃用症候群
【経過】
 ガラス工場に勤め、70歳まで勤務。退職後の生活では、余生と称しただ横になりテレビを見るだけの生活で昼夜逆転となる。また、転倒への恐怖心から入浴も週に1回のシャワーのみ、軟らかい食事や菓子を好むようになり、体重が減少し義歯も不整合となる。生活の不活発と栄養状態の低下により、30分の座位も維持できないほど廃用したことで、娘達の説得により令和3年12月より通所リハビリの利用に至った。
 利用開始から休まず利用を続け、マシントレーニングやバランス訓練などを自主的に取り組み、体力や筋力も少しずつ向上してきた。しかし、通所利用時以外は寝て過ごす為、昼夜逆転し、通所利用中も眠そうな様子が見受けられた。
 同時期に利用を開始したE様と将棋を楽しまれ、E様もパーキンソン病で、自分と似ている症状であることからお互い打ち解けていった。
 通所利用時は自主トレのメニューを黙々とこなし、E様と「一緒にカラオケや外食に行きたい。」と話しながら屋外歩行に取り組まれていた。免許を返納し交通の手段となっていたのはタクシーであったが、片道1500円かかってしまう現状があり、外出を控えざるを得なかった。パーキンソン病という持病から、人生を謳歌するどころか、人生を諦めた思いが強く感じられた。活動性のある生活を再び過ごしてもらいたいと思い、市内循環バスを利用しての外出を提案した。「そんなバスがあることも知らなかった。乗れるか分からないが、バスに乗って出かけられれば、カラオケに行けるかも。」と外出に意欲的な言葉が聞かれた。
【調査】
 市内循環バスのコースや支払い方法などを調べ、職員が実際に体験乗車を行い、その結果を踏まえて市内循環バスの利用を提案し、職員と共に試乗を行った。
【結果】
 昇降時は手すりが付いているので、スムーズに昇降できていた。パーキンソン病の為、バスの狭い椅子では立ちあがりにくく、『待たせてはいけない』というプレッシャーからか、さらに動きにくくなったことを担当のリハビリ職員に伝え、椅子からの立ち上がりの練習をリハビリ項目に追加してもらった。
 バスにはもう一人では乗れないと諦めていたが、今回公共の乗り物に乗れたことで自信がつき、「カラオケに行こう」とE様に誘われ、二人でバスを利用しカラオケに行くことを計画した。
【展開】
 計画は以下の通りにした。お互いの自宅からそれぞれのバスに乗り駅で待ち合わせ。降車時に帰りのバスの時刻を確認し、歩いてカラオケ店まで移動した。カラオケ店まで何分かかるのかの測定と歩行の状態確認を行った。一般の歩道は自転車とのすれ違い等、U様の危険認知を高めた。歩行時、U様は信号に気を取られ自転車に気がつかずぶつかりそうにもなった。「外に出ないと自分の時間だけ止まっていたみたいだ。外に出ないとだめなんだな。」と、何度も話していた。帰り際、E様と「次はラーメンだ。」と意欲的に話されていた。
【身体的変化】
 市内循環バスの乗車に向け、長距離歩行を可能するため、マシントレーニングや筋力強化、バランス強化を行った。
 TUG:R6年4月→20秒9 5月→18秒3 6月→17秒2
 10m歩行:R6年4月→15秒41 5月→12秒31 6月→12秒56
 椅子からの立ち上がりや、座る動作についてもリハビリを継続していた為、TUGのスタートもスムーズに行えるようになってきた。10m歩行では、杖歩行されていたが、5月からは杖を使用せず独歩での計測となっている。
【考察】
 今回の外出支援の結果、ケアプランに沿って計画されたリハビリ内容に取り組むことは最低限の身体機能低下防止に繋がる。さらに利用者自身のニーズ、そのためにどうなりたいかを明確に認識された場合、自分で必要な情報を把握し自主的に活動する。お互いに同じ目的に向かって取り組める為、目標達成の可能性も高くなる。
【まとめ】
 普段からバスで外出しているE様が、「一緒にカラオケに行こう」と誘いながら、何度もバスの乗り方を説明していた。そんな二人の様子が楽しそうで羨ましくもあり、周囲の利用者もU様にバスの乗り方を教えてほしいと頼んでいる様子が見られた。「自分にも出来るのかも」という期待に溢れ、他利用者の意欲も引き上げられた。
 バスを利用しての外出は身体機能の向上だけでなく、「他者のためになる」という役割が自信になり、外出支援中カラオケ店で一緒になった高校生に「兄ちゃん、学校さぼったらダメだよ」と、人生の先輩として諭すことで社会的役割の獲得に繋がった。
 今回の支援を通し、通所リハビリでの身体機能の回復と同時に、人生を諦めていたU様が屋外活動により、多くの人とのふれあいから刺激を得て、生きる意欲へと繋がった。私たちの提供するサービスは身体的なリハビリだけでなく、それを生かす「場」の提供こそが心身機能の向上に繋がることを実感した。今後も、利用者個々の役割を引き出すアプローチをし、長年生活してきた地域で役割を見出し、一人ひとりの想いに寄り添っていきたいと思う。