講演情報

[14-O-A002-02]当通所リハビリ利用者の口腔の実態と課題への取り組み

*米澤 叔江1 (1. 福井県 特定医療法人千寿会介護老人保健施設アルマ千寿)
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当通所リハビリでは口腔スクリーニングを実施しているが、本来の目的である口腔機能低下の早期発見、維持向上に繋がるケアにまで至っていなかった。原因として、職員の口腔への意識不足、口腔機能低下に対する支援体制不足の2点が挙げられた。そこで、利用者の口腔の実態を把握し口腔への意識を高め口腔ケアを強化すること、早期に口腔へのアプローチが必要な利用者に対し口腔機能向上加算に繋げる体制の構築を目標に取り組んだ。
【はじめに】
令和3年度介護報酬改定より新設された口腔・栄養スクリーニングは、利用者の口腔機能の低下を早期に発見し、適切にケアすることにより、重症化予防、維持、回復などに繋げるための試みである。当事業所においても新設当初より、利用者の口腔機能維持、向上を目的に、口腔スクリーニングを実施してきた。しかし、ケアマネジャーへの情報提供のみにとどまり、利用者一人一人の状態の追究、適切なケアにまで至っていなかった。そこで今回、口腔スクリーニングの結果を追究し、課題に対して職員全体で取り組み、口腔へのアプローチに繋げることができたため、報告する。
【実態調査】
令和5年6月から11月における、口腔スクリーニング対象者83名に対して、口腔スクリーニング9項目について統計した。項目(1)固い物のかみにくさがある52%(2)お茶や汁物によるむせがある31.3%(3)口の渇きがある21.7%(4)噛み合う力(強い33.7%、弱い63.8%、なし2.4%)(5)歯や義歯の汚れ(ない30%、ある58.8%、多い11.2%)(6)舌苔(ない43.4%、ある51.8%、多い4.8%)(7)ブクブクうがい(できる81.9%、やや不十分8.4%不十分9.6%)(8)30秒間咽頭挙上回数(4回以上15.6%、3回29.8%、2回31.2%、1回23.4%)54.6%が嚥下障害の可能性を示す3回未満であった。(9)オーラルディアドコキネシス平均値(パ4.7回、タ4.6回、カ4.3回)96%がパタカいずれかで6回未満となり、舌口唇運動機能低下に該当した。
【課題・目標】
実態調査より、ほとんどの利用者が口腔に何らかの問題や機能低下を認めたが、適切に対処できていないことが課題とされた。そこで、職員の口腔ケアに対する現状を把握し、利用者の口腔機能への意識を高めることを目標とした。また、口腔機能が低下してきている利用者に対して、より口腔へのアプローチができる体制の構築を目指した。
【取り組み内容】
1.職員への情報共有、口腔ケアの強化
口腔ケアに携わる職員に対して、口腔ケアに関する意識調査を実施した。「利用者の歯や義歯の汚れ具合を把握しているか」に対して、大体の利用者で把握している0%、一部の利用者で把握している65%、ほとんど把握していない35%であった。「利用者の義歯の有無を把握しているか」に対して、大体の利用者で把握している6%、一部の利用者で把握している82%、ほとんど把握していない12%であった。また、「口腔ケアの際に舌の汚れの観察をしているか」に対しては、よく観察している6%、時々観察している47%、観察していない47%であった。調査より、口腔ケアに携わりながらも利用者の口腔の状態を十分に把握できおらず、舌の観察やケアを行えていない現状であった。そこで、まずは利用者の口腔の状態を把握できるよう、義歯装着の有無、歯や義歯、舌の汚れ具合を示した一覧を作成し、職員へ周知した。また、舌のケアの必要性や方法を伝達し、口腔ケア時の舌の観察、舌苔のケアの声掛けや介助を統一した。
2.口腔機能向上加算の算定へ繋げる体制強化
ほとんどの利用者は口腔に何らかの問題があったことから、その中でもより改善が必要とされる利用者を選出するため、口腔スクリーニングにて口腔機能低下に該当した利用者かつ、現時点で食事や水分摂取時にむせや詰まりの症状を認める利用者を口腔機能向上加算の対象とすることとした。この2点に該当した利用者は、相談員を通して担当者会議にてケアマネジャーや家族に説明し同意を得て、口腔機能向上加算の算定に繋げる体制を整えた。
【結果】
取り組み内容1に関して、各職員が歯や義歯、舌の汚れの多い利用者を把握できるようになり、汚れの多い利用者は特に観察し、丁寧に口腔ケアを行えるようになった。また、口腔ケア時に舌の観察の機会が増え、職員から汚染状況についての報告もみられるようになった。さらに、舌苔の多くみられた利用者の数名が舌苔の軽減を認めた。
取り組み内容2に関して、選出された口腔機能が著しく低下している6名の利用者のうち3名が口腔機能向上加算の算定に繋がり訓練を開始できた。
【考察】
日々の業務の中で口腔ケアの優先度は低い現状があったが、職員へ情報を発信し口腔への意識を高めたことが、口腔ケアの強化に繋がったと考える。さらに職員の口腔ケア時の関わり方が変化したことによって、一部の利用者ではあるが舌苔のケアの習慣化に繋がり、舌苔が軽減したと考える。また、口腔機能向上加算の算定に繋げる基準を明確にしたことで、口腔スクリーニング実施者は、迷いなく相談員に口腔機能向上加算の対象者として提案ができるようになり、早期に必要なケアの提供に繋がったと考える。
【おわりに】
利用者の口腔の実態を目の当たりにし、口腔への働きかけの重要性を認識した。まずは利用者の口腔に興味を持ち、観察することが口腔ケアの第一歩であると感じた。日々の観察を続けることは、口に関する些細な衰えに気づくことができ、早期に口腔機能へのアプローチを可能にすると感じた。口腔機能の低下が、食べる機能の低下、さらには心身の機能低下にまで繋がる負の連鎖に持ち込まないよう、職員全体で意識的に取り組んでいきたい。