講演情報

[14-O-A002-06]コロナ禍を経て、虐待防止へ向けた委員会活動の再整備

*瀧澤 貴博1、鈴木 重統1、福江 茉莉1、三浦 航平1 (1. 北海道 介護老人保健施設ゆう)
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コロナ禍において、面会や外部との交流が減少したことにより、社会的に高齢者施設での虐待が増加したことから、当施設でも不適切ケアの予防を図る目的として委員会活動を刷新した。その取り組みとして、セルフケアチェックシートの活用などを実施。結果として、不適切なケアの要因は、職員の意識と職場環境に因果関係があることが判明した。
【はじめに】
高齢化社会の伸展と、それに伴う高齢者虐待の問題が顕在化して久しいが、昨今、特に高齢者施設における虐待事例が事件化し、メディアで報道される頻度も増している。このような高齢者虐待をめぐる社会問題は当施設においても他人事ではなく、当事者として問題に直面する可能性があることを念頭に置き、職員の意識向上、不適切ケアの防止を図る目的として、委員会活動の刷新を図ることとした。今回はその取り組みの内容と職員にもたらした効果について報告する。

【見直しの背景】
・コロナ禍での第3者の視点(家族面会等)の減少により、虐待が増加するという社会的背景があった。
・令和4年度までは新型コロナウィルスの感染対策の為、集合形式での委員会を十分に開催できなかった。また、委員会活動についてもマニュアルや指針の確認に留まり、虐待防止という観点では不十分な活動であった。
以上のことから当施設においても虐待リスクが高まりつつあると判断し、委員会活動を再整備することとした。

【新たな取り組み】
新型コロナウィルスが5類に移行した事から集合形式での委員会を再開。毎月委員会時にテーマを決め下記の通り実施した。
1.指針とマニュアルの共有の徹底化
指針やマニュアルは、慣例として形式的に設置されている事が多く、職員への周知が不十分である事から、管轄の部署・事業所内での周知徹底が図られる事を目的に各会議やミーティングにおいて、議案の提示を義務付け議事録への記載を所属長へ依頼した。これにより、非常勤までの全職員が指針やマニュアルについての共通認識を持つ機会となり、効果については職員アンケートの結果より、意識化の一助になったと考える。
2.法人内研修の深化
オンライン研修会から集合形式の研修へ転換。1回目は尊厳の保持と人格の尊重に対する研修会を外部講師に依頼し開催。内容としては「人が尊厳を持って生きる事の意味」を中心とし、人権や倫理観について理解を深める機会とした。職員からは、人格の尊重や権利擁護の大切さについて、再認識することができたと感想が聞かれた。2回目は、不適切ケアを主とする研修会を委員会の企画にて実施。不適切なケアとその予防策をグループワーク形式で実施した。グループ内では主に他の職員の不適切と思われる対応について意見を出し合い、職員個々の物差しや価値観に違いがあることを理解していただいた。
3.不適切ケア防止啓発ポスターの作成と掲示
接遇や言葉遣いなど日頃のケアについて意識付けをする為、5月・10月・2月の計3回作成。内容の一部に法人内の相談窓口を掲載し、職員や利用者の見やすい場所に掲示した。不適切ケアなどの注意喚起を可視化する目的として掲示したが、他の掲示物やポスターに紛れてしまい、気づかない職員が散見された。結果として、ポスターの認知度は低く、個々の職員の興味や関心の対象とは成り得ず、注意喚起の訴求効果は薄かった。
4.不適切ケアセルフチェックの実施
職員個々が、自身の行動を振り返り自己理解を深める目的として6月・9月・1月の計3回実施。設問内容をa)不適切ケアへの認識、b)職場内の雰囲気に区分し、集約後に委員会にて分析、所属長へフィードバックする形とした。

≪セルフケアチェックの設問と集計結果≫※図1参照
a)不適切ケアへの認識の設問(一部抜粋)
・「ちょっと待って」と言葉がけの認識(1回目15% → 2回目23% → 3回目8%)
・自分の行っている対応が不適切だと思ったことがある(1回目44% → 2回目55% → 3回目39%)
・他の職員の対応が不適切と感じた事がある(1回目52% → 2回目63% → 3回目39%)
b)職場環境の設問(一部抜粋)
・職員同士、相互に尊重し合いながら仕事をしていると思う(1回目88% → 2回目79% → 3回目97%)
・部署内は、気持ちの良い挨拶ができていると思う(1回目89% → 2回目83% → 3回目96%)
・部署内は、相談しやすい雰囲気であると思う。(1回目87% → 2回目75% → 3回目93%)
3回実施したセルフケアチェックの結果を分析すると、職場環境が改善することで、不適切ケアが減少する傾向があり、反対に職場環境が悪化することで、不適切ケアは増加する傾向にあることが分かった。このことから両者は比例の関係にあり、不適切ケアは、職場環境の悪化が一つの発生要因であると考える。

【委員会活動に対する職員アンケートの実施】
以上の新たな委員会活動について、各部署へ不適切ケアに対する意識調査を実施した結果、特に顕著な傾向がある設問と回答は以下となった。
・自身の不適切ケア防止についての意識は高まったと思う → 98%
・他の職員の不適切ケア防止についての意識は高まったと思う → 78%
・部署内での不適切な言動や態度などは減ったと思う → 78%
自身の不適切ケア防止への意識としては98%が高まったと感じており、他の職員の意識についても高まったと感じた職員が、約8割と高い結果となった。

【考察・まとめ】
令和5年度から委員会活動の取り組みを再整備したことで、不適切ケアの防止へ一定の効果はあったと考察する。一方で、セルフケアチェックでは依然4割近くの職員が不適切と考えるケアの存在を認めており、まだまだ取り組みの余地があると考える。今回の分析から、不適切ケアに対する認識は各職員の物差しや価値観に違いはあるものの、職場環境から大きな影響を受ける為、常日頃から良好な職場環境を保つことが、抑止力に繋がることを理解した。
今後も委員会が中心となって、良好な職場環境を維持できるようなシステムを創造していきたいと思う。例えば、体制の健全化や業務の見直し、職員のメンタルヘルス対策や職員教育の強化など、それぞれの職場に合った組織行動を事業所単位でアプローチし、よりよい職場環境の創出と利用者支援の体制を整えていきたいと考える。