講演情報

[14-O-A003-02]身体拘束に対する職員の意識変化身体拘束って必要なの?

*藤原 弘基1、岸渕 智彦1 (1. 兵庫県 社会福祉法人明石恵泉福祉会 介護老人保健施設恵泉)
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当施設の認知症専門棟(100床)において、長年に渡って拘束ゼロに取組んできたがこれまで達成することができなかった。この度、身体拘束における考え方が職員本位となっていたことや利用者本位で「その人らしさ」を大切に考えていく必要性などに気付いたことから身体拘束廃止に向けて職員間で協議を繰り返し、様々な取り組みを行い「身体拘束ゼロ」というより良い結果をもたらしたので報告する。
(はじめに)介護保険施設等においては身体拘束が原則として禁止、身体拘束を事故防止対策として安易に正当化する事なく高齢者の立場にたって、その人権を保障しつつケアを行うという基本姿勢がある。当施設は、認知症専門棟100床、一般棟86床で運営している。認知症専門棟において、身体拘束が禁止となってから身体拘束ゼロを目標に掲げて取組んできたが目標達成に至らなかった。令和4年8月から身体拘束が本当に必要であるのか職員全員で話し合い、身体拘束をゼロにするにはどうすれば良いのかを協議し、身体拘束廃止に向けた取組を行っていく中で、職員の意識が変化し「身体拘束ゼロ」というより良い結果をもたらしたので報告する。(目的) 認知症の周辺症状に対する職員の知識不足と「本人の安全確保のために身体拘束は必要」「職員不足等から身体拘束廃止は不可能」といった消極的な考えから、利用者の想いや尊厳が軽視されていた。また、これまでは職員主体の現場となっており、利用者が生活の主体と考えられる「人」になる為には「今」の意識を変えていかなければならないと考えた。そして、個人個人が身体拘束に対して危機感を持ち、お互いにそのケアや対応が間違っているのではないかと言い合える職場にならなければならない。まずは、職員の身体拘束に対する意識変化を目的として取り組んだ。(取組内容) 取組期間 令和4年8月~令和5年4月 まず、拘束具を使う事は、身体への様々な弊害を生む事を詰所会やカンファレンスを通じて共有した。当初は「見守りの人数が足りないからできないのでは」「転倒させてしまうかもしれない」などの否定的な意見があったが、業務改善を行ったり、多職種で見守りする職員の人数を増やしたり、リスクマネジメントについて繰り返し協議した。また、定期的に実施する拘束虐待廃止研修への参加や生活期リハビリテーションの活動を実践していった。そして、カンファレンスの中で「この人の安全ベルト除去は可能ではないか」など職員から積極的な意見が出てくるようになり、拘束具除去に至ったケースをきっかけに、新規で入所される利用者には基本的に安全ベルトの使用はせず、入所初期の利用者に詰所前にベッドを置いて見守りをする対応もしないという事を決めた。以前から長期間安全ベルトを使用している利用者についてもADLを観察しながら、問題があれば対応を考え使用時間を徐々に減らしていき最終的に除去した。身体拘束解除後に起こってしまった事故に関しては、身体拘束を解除したため事故が起こったのではなく、何らかの原因があり起こった事故であると捉え、原因と対策をカンファレンスで話し合い、対策を実践する事で再発防止に努めた。この事から利用者のBPSDや事故分析を行う事の大切さを学び、利用者のケアは多職種との連携が必要不可欠であると考え、相談員・ケアマネから家族へリスクや身体拘束は行わないという事を説明し、看護、介護職員も身体拘束を行わない事を実践するために身体拘束の弊害や自尊心を守る事の大切さを学びなおした。また、事故予防の為に拘束具ではなくセンサーマットや見守りカメラ、眠りスキャンの活用で環境面を調整した。(結果) 身体拘束廃止直後に転倒事故が起きてしまった際には「拘束具を使用しなくなったから事故が起こってしまった」というマイナスの意見もあったが、拘束具を除去した時の利用者の表情や動きなどから、生き生きとした様子が伺え、拘束による不自由さやストレス、苦痛などを感じさせていた事や、それらの苦痛を訴えられずにいたのだと強く感じた。また、職員の拘束に対する意識が低く、不適切なケアが多く存在しているという事に気づき職員ファーストの考えではなく、利用者ファーストの考えで「その人らしさを大切に考えていく必要があるのでは?」という意識も芽生え始めた。その結果、身体拘束は緊急やむを得ない場合の三つの要件を満たしていないと絶対にしてはいけないことであり、安易に身体拘束に頼ることもいけないのだという意識変革に至った。「身体拘束件数の推移」・取り組み初期(令和4年8月)安全ベルト19件  つなぎ服5件  詰所前対応11件・取り組み中期(令和5年2月)安全ベルト2件  つなぎ服1件  詰所前対応4件・取り組み後期(令和5年4月)安全ベルト・つなぎ服・詰所前対応者0件(考察) 施設は利用者が主体の生活の場だが、職員主体の場となっていた。しかし、職員自身が自分を振り返り、身体拘束があたりまえではない事に気づき「変えていこう」という発信が増え意識の変化がみられた。職員の考え方、捉え方が変わる事で利用者主体の考え方に繋がり、利用者の強みにフォーカスする事ができ、本当に身体拘束が必要なのかを深く考えられた。このような変化がサービスの質の向上に繋がっていくのだと考える。 これまでのケアが当たり前という考え方から脱し、認知症専門棟を理由に言い訳をしない事、心の余裕を作り出す業務を考えていく事、事故の分析と対策をしっかりと行っていく事、生活期リハビリテーションの考え方でポジティブに考えていく事、新しい知識を増やしていく事が今後の課題となる。 (おわりに) 「その人らしさ」の大切さを考え「職員主体でいいのか」「利用者の尊厳はどこに行ったのか」を深く考えていくと身体拘束が本当に必要なのか疑問が湧いてくる。そのように深く考える事が不適切ケアの改善に繋がり、引いては利用者の安全安心に繋がっていく。 利用者に対して「やってあげる」の「FOR」の考えではなく「一緒に考えてやっていく」という「WITH」の考えで丁寧にケアを行い、本人の想い・家族の想い・職員個々の想いをしっかりと共有していき、地域に最も必要とされる福祉施設、地域でナンバーワンの施設を目指していく。