講演情報

[14-O-A003-03]虐待の芽チェックリストを活用した取り組み虐待チェックリストの結果から見えてきたこと

*勝部 篤史1 (1. 鳥取県 介護老人保健施設なんぶ幸朋苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
意識改革・高齢者の尊厳あるケアの実践を目的とし、昨年度、事業所でおこなった「虐待の芽チェックリスト」の結果をもとに、きずな委員会を立ち上げた。委員会活動として事業所内で研修、定期的なアンケートの実施、その結果をフィードバックした。冬季の感染流行、人員不足という環境での職員への配慮できる仕組みの必要性もあったが、啓発活動や研修の実施により、意識の改善を認めたので報告する。
はじめに
昨年度、事業所でおこなった「虐待の芽チェックリスト」の結果から、尊厳あるケアの実践と意識の改革を目指し、きずな委員会を立ち上げた。研修、定期的なアンケートを実施、その結果をフィードバックしながら活動した取り組みについて報告する。
研究期間と対象
期間:令和5年6月~令和6年1月     
対象:看護・介護職員 45名
施設概要
ユニット型:4ユニット 定員44床
従来型:2ユニット 定員36床
取り組み
1.【きずな委員会発足】6月
2.【虐待の芽チェックリスト3回/年実施】
6月、9月、1月実施
3.【5項目の選定】
虐待の芽チェックリストを実施した結果を基に回答が多かったワースト5項目を選定 (1)「している(自己評価)」と(2)「見たことがある・聞いたことがある(他者評価)」の数値の変化を確認する。
1.利用者に対して、威圧的な態度、命令口調(「○○して」「だめ!」など)で接していませんか?
2.利用者への声かけなしに介助したり、居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていませんか?
3.利用者のプライバシーに配慮せず、職員同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていませんか?
4.利用者に対して利用者に対して、「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?
5.利用者の呼びかけや、コールを無視したり、意見や訴えに否定的な態度をとったりしていませんか?
4.【5項目対応策の決定】7月
5項目に対して対応策を決定し「5項目対応策一覧」を作成。完成した一覧表は各ユニットのよく見る位置に掲示する。
<5項目対応策一覧(一部抜粋)>項目:利用者に対して「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?対応策:ナースコールが重なる時、対応可能であればインカムを使用して応援要請するか、相手に遅れることを伝える。
5.【対応策実施状況の確認】
5項目の対応策が実施されているか調査するために対応策チェックシートを作成。合わせて、他者評価として「見たこと・聞いたことがある」についても調査実施。毎月実施とし、結果を委員会でフィードバック。
6.【啓発活動】
(1)始業前に5項目の黙読。
職員出入口、職員トイレ等にポスターを貼り意識向上を図る。
(2)高齢者虐待防止研修を実施
結果
1.【虐待の芽チェックリスト実施結果】
「している」の減少が見られ、自己評価として意識して対応が出来ていた。
委員会内で各所から「目撃しても注意できにくい」という意見が多く聞かれ、その理由を確認する為、追加アンケートを実施。以下の意見が聞かれた。
・先輩に対して言いづらい。
・人間関係が悪くなりそうだから。
・その職員に言っても変わらないから。
・自分も該当している部分があるので人のことが言えない。
・伝え方が難しい。
2.【対応策実施状況の確認結果】
「対応策を行えている」項目に対し過半数が継続的に意識して実施できている結果となった。
対応策実施開始直後(8月)の「見たこと・聞いたことがある」について、一時的に数値の上昇が見られたが「委員会の取り組みを意識して回答をした」との意見が多数あった。 
9月と10月は下降を認めたが、11月から1月は再び上昇すると結果となった。
3.【啓発活動】
(1)ポスターの掲示と始業前に5項目を黙読した効果を委員会内で集約し共有。以下の意見が多く見られた。
・研修や5項目の黙読、ポスター掲示することで取り組みを意識できた。
・評価の際、対応策一覧があることで振り返りや見直しができた。
(2)内部研修運営、開催 30名参加
・「対応策についてどのように接して良いかわからない部分があったが、意見交換ができた」(「ちょっと待って」はどうしても言ってしまう。利用者本位は大切であるが、感染対応している職員も大変なので、職員も気にかけてほしい。など)
対応策一覧を掲示していたが、期初では個々に受け止め方が違っており、取り組みをすすめていく中で職員の理解を得ることができた。また、普段思いを伝えられない若年職員からも意見がでたことを含め職員それぞれの思いや考えが聞くことができた。
考察
8月に数値の上昇が見られたが、あらためて意識したことによる変化であり、啓発活動や研修の実施等により、対応策実施が定着する過程で減少傾向となったと考える。
再度11月から1月にかけて数値が上がった原因としては、インフルエンザ、コロナウイルスによる感染症が流行した時期と合致しており、人員不足や感染対応で、対応策の実施がおろそかになった結果と推測できる。
人員不足に加え感染対応を行いながらでは業務負担が増えるのは必然である。尊厳あるケアの実践を行う上で、人員不足や感染対応等の環境下では特に職員側にも配慮できる仕組みが必要であると考えられる。
追加アンケートの結果から職員同士の声かけや注意はできにくい環境もあることが分かる。不適切ケアと思われる行為を目撃しても注意しづらいことがわかったため、継続的に啓発活動を行い継続的な価値観の共有の必要があると考える。
まとめ
この度の取り組みから、数値の変化とともに、個々の意識の向上はみられた。
今後も虐待の芽チェックリスト調査を継続的に実施し、個人の尊厳を守る為に、いかなる状況であっても、虐待に繋がる不適切な言動、関わりを容認しない風土づくりを目指し、話し合っていきたい。
【参考文献】介護職員のための虐待予防チェックノート
第一法規