講演情報

[14-O-A003-06]“その人らしさ”が光る きらきらプランを!~水やりでつながる喜びと達成感~

*矢作 優香1、辻 陽介1 (1. 奈良県 介護老人保健施設若草園)
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機能面の向上や、ケアの充実といった内容だけでなく、 “その人らしさ” や“したいこと”にスポットを当てたケアプランを立てたい!という思いのもとに、多職種それぞれが深くアセスメントして、“ぽかぽかカンファ”を開催した。今回、昔から生活の一部であった花や野菜の栽培を取り入れたプランを追加したことで、ご利用者様の素敵な笑顔や、感情表出が増えただけでなく、職員にとっても良い効果があったので紹介する。
【はじめに】
ケアプランはこれまで、身体機能向上の為の歩行練習や体操、生活リズムを整える為の日課活動への参加の促し、排泄・食事・口腔衛生のケアなどの内容がほとんどであり、さらにコロナの影響で活動に制限が掛かり、画一的なものになりがちであった。そんな中、施設として『 “ぽかぽか”した空間、“きらきら”光る喜びにあふれた施設になる』というブランドコンセプトを掲げて、さらにご利用者様の満足度を高めていくこととなった。ケアプランにおいても“その人らしさ”をしっかりとらえて、ご利用者様のしたいことを可能な限り実現できる内容を追加する取り組みを行った。そこで良い効果があった事例を紹介する。

【対象者の情報】
A様/女性 92歳 要介護度4 B2-llla 
既往歴:認知症、右大腿部骨幹部骨折(移動は車椅子を使用し、自操は困難)
日中の様子:自分から話したり行動したりすることがなく、静かに雑誌を眺めて過ごしておられる。
認知面:MMSE1点、FAB0点 表情変化少なく感情表出も少ない。話しかけても返答がほとんどない。
生活歴:土を触ることが好きで田や畑によく通っていた。花の苗をお店に買いに行き自宅に植えていた。
希望:
(A様)ご本人から直接希望を聞くことは難しかったが、過去の会話では園芸についての発言が聞かれたことがあった。
(家族)年に1回は短期間の在宅復帰ができるように身体機能を維持してほしい。食べる事、季節を感じる事を大切にしてほしい。畑仕事が好きだった。

【ケアプランの方法】
〈目標と内容の設定〉
目的:楽しみを見つけ活動的な生活を送る。短期間の在宅復帰を定期的に続けることができる。
目標:思いや感情を言語表出できる 
実施項目:花の栽培、毎日水やりを行い、活動の中で会話を多く持つ
1)アサガオの栽培
期間:令和5年6月~令和5年8月
手順:種植え→支柱建て→毎日の水やり
・途中で職員が写真入りの『アサガオ成長日記』を作り、活動を覚えていられるよう工夫した。
・12月にはアサガオのつるを利用し、クリスマスリースを作った。
2)大根の栽培
期間:令和5年9月~令和5年12月
手順:種植え→間引き→水やり→収穫し栄養科へ出荷して調理してもらう。    
・アサガオと同じく『大根成長日記』を作成した。    
・栄養科に出荷後、『大根の煮物』となり、みんなに紹介して昼食で食した。

【効果・結果】
〈本人〉
・MMSE:3点(2点向上) FAB:3点(3点向上)
・アサガオを見て「綺麗やなぁ」「大きくなったなぁ」など発語が出るようになった
・ベランダで水やりを行っていた為、季節感を感じることができ、「寒い!」といった反応や、網戸についたさなぎに気づき「さなぎや!」と発語があった。
・種植えの際、初めは「こんなんかなんわー」など消極的な発言があったが、土を触っている間に昔を思い出したのか、途中からは職員の声掛けや促しがなくても手際よく行うことができた。
・日中の傾眠が減り、成長日記を見返していることが多く、何を育てているかの問いかけに対し「アサガオ」と答えることができ短い時間ではあるが記憶に留めることができた。
・職員から「大根を収穫したら何して食べますか?」の問いに対し、「せやなぁ、何がええかな」と短い言葉ではあるが質問に対し考えている姿勢が見られた。
・大根の収穫時は「次はここか?」「よいしょ!」と自ら手を伸ばしており、笑顔見られた。
・自分で育てた野菜を収穫し、栄養科に出荷し昼ご飯として提供できたことで達成感につながった。

〈家族(息子様)〉
身体面の低下や認知症の進行などに不安をもっておられたが、リハビリの様子や日記を見てもらうと「入所時は母がこんな風に生活できると思ってなかった。好きな土や植物に触れて楽しんでくれて良かった。」と喜ばれ、その後の短期間の在宅復帰に対しても前向きに検討して下さるようになった。

〈職員〉
・花の水やりを一緒に行うことで必然的に職員とのコミュニケーションを取る機会が多く取れた。
・表情変化や感情表出が増え、A様の日常の些細な変化に気づくようになった。
・成長日記が話の種となり、そこからのコミュニケーションが増えた。
・A様のケアプランや変化を見て、他のご利用者様にも色々な活動を提供していきたくなった。
・目標設定に向けて掘り下げて情報収集を行い、共有していくことがスキルアップにつながった。
・ケアプランに関わった職員に対しアンケートを行ったところ、12名中10名がこの取り組みに良い効果があったと答えた。

【考察】
成長日記を作成したことにより視覚からの情報が持続したこと、職員からの声掛けが増えたこと、また、水やりを毎日欠かさず行うことで、短期記憶の保持につなげることができた。また、自らの表出が少なかったA様が、発語や笑顔が増えたことは大きな変化であった。“アサガオが綺麗に咲いた喜び”と、収穫した大根を昼食時に煮物として提供された際に、みんなに紹介され称賛を得られたことで“達成感”を感じていただくことができた。今回の取り組みは視覚だけでなく触覚や嗅覚など色んな感覚が刺激されたことで様々な反応が得られたと考えられる。
今回きらきらプランの立案に向けて各職種が工夫して情報収集を行い、時間をかけてじっくり話し合えたことで“その人らしさ”が光るプランが実施できた。それによって個々のアセスメントのスキル向上につながったことも良い効果の1つであったと考える。
実際にご利用者様にしてみたいことや、もう一度したいことを聞くと、「若い頃はできていたけど今はできないわ」「もうやりたいことなんてないねん、できへんし」と消極的になることが多いが、どのような疾患があっても環境や方法の工夫を行い、出来る限りしたいことが実現できるように支援し、今後も施設が“ぽかぽか”した空間となり、“きらきら”光る喜びあふれる場所になるように取り組んでいきたい。