講演情報

[14-O-A004-01]新たな通リハへ向けた27年目の挑戦~多職種による協力体制の構築により得たもの~

*松崎 朋美1、中部 祐紀1、長尾 雅裕1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設 翔寿苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
PTの視点から通所リハビリとしてリハビリ強化を図り、従来の役割を果たしていくことで利用者の満足度向上を目指し、様々な取り組みを行った。体制や環境の整備と様々な求人活動による人材確保、さらに職員の意識改革により新しい取り組みを開始した結果、利用者の運動に対する意欲の向上を認め、更に稼働率の向上にも繋がった。多職種で協力することで大きな力となり、成果を得ることができたので報告する。
【はじめに】
 当事業所は1996年6月開設、定員60名の施設である。医療法人として有床診療所や回復期病院の他、デイサービスも有する中で2022年10月より通所リハビリとしてデイサービスとの差別化を図り、リハビリに重点を置いた取り組みを強化していくため新たに体制を整え、利用者の機能面のみならず心理面や満足度等のアウトカムを意識し多職種で協力し業務にあたっている。
 今回様々な取り組みを開始し、稼働率の向上もさることながら利用者の運動に対する意欲の向上等を認めたため、具体的な方法や得られた成果について報告する。
【経緯と目的】
 長きに渡ってリハビリ職員と介護職員との間に隔たりがあり、スムーズに連携がされていなかった経緯がある。リハビリ職員の所属に関して、それまでは入所担当・通所担当と分かれていたものの、リハビリ課として1つの課に所属しており、個別リハビリ以外での利用者との関りが希薄であった。介護職員においてはリハビリに対しての熱意よりも利用者を楽しませたい、という想いが強く、取り組みとして行事やレクリエーションに重きが置かれ、デイサービス化している傾向がみられていた。
 今回、通所リハビリとしてリハビリ強化を図り、従来の役割を果たしていくことで利用者の満足度の向上を図ると共に、低迷していた稼働率の向上へ繋がることを目指し様々な取り組みを行った。
【取り組み内容】
1)体制の整備と職員の意識付け
 リハビリ職員の所属に関して、入所と通所リハビリとで所属部署を分け、多職種協働をより発揮できるよう体制を整えた。また部署内でデイサービスとの違いや生活リハビリについて等の勉強会を行い、リハビリ施設として多職種で協力しリハビリに取り組む必要があることや、利用者がリハビリを目的として利用する施設である、ということを明確にした。更に開始時に介護職員主体で利用者の利用目的を確認することで、生活リハビリとしての自立支援やトレーニングなどを行うにあたり、目的を持った関わりができることを目指した。
2)リハビリ室の占有化と新たなマシン機器類の導入
 それまでは通所リハビリと入所の利用者が合同でリハビリ室を使用していたが、1日を通して活用できるようリハビリ室を別々に設けた。またマシン機器を一新し、事前に各利用者の情報を入力しておくことで負荷量や回数等が自動で設定され、介護職員でも安全にトレーニングできるものを選定した。
3)充実したサービス提供のための求人活動
 やりたいことを実現するために協力してくれる職員を増やしていきたいと考え、求人広告の掲示や配布の他、各求人情報媒体の紹介文書の見直しや介護福祉士の養成施設への訪問等の求人活動の強化を図った。またインスタグラムを開設し、日々の利用者のリハビリや余暇活動の様子を投稿する活動も開始した。
4)利用前見学時のリハビリ体験
 リハビリ職員により、SPDCAサイクルによるリハビリの具体的な進め方を説明するとともに、リハビリ体験を導入した。リハビリ体験では身体機能に合わせ新しく導入したマシン体験を中心に実施している。
5)自己選択トレーニングの開始
 リハビリ専門職による個別リハビリとは別に、午後の時間を利用した介護職員によるマシントレーニングを開始した。自己選択トレーニングとしてマシントレーニングを含んだ3種類の運動の中から利用者が行いたい運動を選択し、午後に介護職員中心に選択された各トレーニングを実施している。
【成果】
 目に見える成果として、様々な求人活動により2022年10月から2024年5月までに合計9名の入職者が獲得できた。マンパワーの充実に加え安全に実施できるマシン機器の導入と、さらに介護職員のリハビリに対する意識の変化による相乗効果によって、自己選択トレーニングの実施が可能となった。リハビリ施設の一員であるという意識が高まり、多職種で協力し利用者のリハビリに取り組むことで全体の活気が向上した。
 リハビリ職員が通所リハビリの所属になる前はリハビリ職員の稼働に対する意識が低く、利用前の施設見学において介護職員のみで対応しており、リハビリについての説明が不足していた。リハビリ職員が具体的な説明を行うとともにリハビリ体験を導入してから、実際に見学に来苑した利用者においてほぼ100%利用に繋がっており、特に男性利用者の増加が顕著で、開設以来女性利用者の方が多い状況であったが、現在(2024年4月)は男性利用者の数が上回っている。リハビリについての印象を強く感じてもらえたことで、通所リハビリに抱いていた稚拙なイメージからリハビリ施設である、という認識に変わり利用に繋がったのではと推測できる。
 様々な取り組みを行ってきた中、稼働率では2022年9月において32.19名だった1日の平均利用者数が2024年4月には40.00名への増加が認められた。今回マシン機器類を一新するにあたり、莫大な費用がかかることに強い負い目を感じていたが、収入面だけに着目すると1日の平均利用者数が1名増えることで採算が取れることが分かり、結果8名の増加となったことで導入した価値は大きかったと思う。
【おわりに】
 今回体制を整えるにあたり、それまで介護職員が務めていた責任者がPTとなり、リハビリの視点からアプローチしていく上で、職種の垣根を超え一丸となって協力し合える関係づくりや方針に賛同してもらえるかどうかが最も重要であり課題であった。今までのやり方を変え新しいことにチャレンジしていくことに抵抗を示す職員も少なくなかったが、利用者のためより良いサービスを提供したいという想いは共通していたため、話し合いを重ねることで多職種でリハビリに取り組むことの意味と価値を理解し、方向性が定まったことで大きな力となり今回のようなアウトカムが得られたと思う。これからも利用者が楽しみながら目的を持ってリハビリが続けられるよう進化していきたい。