講演情報

[14-O-A004-06]介護施設における日常生活の活性化

*舘 一郎1、渡部 悠貴1、高橋 優香1 (1. 東京都 ウエストケアセンター)
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介護老人保健施設における日常生活の活性化に向け、リハビリスタッフと共同で課題や問題点を検討し、3名の利用者に認知、作業、身体に分けて活動を提供し評価を行った。結果として短期間ではあったが、その中でも身体機能の変化や満足度、活動性において変化がみられた。しかし、妥当性や多職種で継続する難しさは長期間で実施していくことが必要と考え、利用者様の役に立つ介護リハとして取り組んでいけたらと思う。
1.はじめに
介護老人保健施設(以下、老健)における日常生活の活性化に向け、リハビリスタッフと共同で課題や問題点を検討し、3名の利用者に認知、作業、身体に分けて活動を提供し評価を行った。結果として目的としていた機能面において変化がみられた為、ここに発表する。

2.目的
 介護・リハビリで共同し、利用者の日常生活中の活動提供から機能・能力向上を図る。

3.研究方法
<1>対象・目的
A氏:90代前半男性 要介護4
認知機能維持・向上、夜間不眠改善
B氏:90代前半女性 要介護4
日中余暇活動の獲得
C氏:80代後半男性 要介護4
歩行安定性向上

<2>期間
令和6年4月1日~令和6年6月30日
<3>実施内容
A氏:計算プリント・塗り絵
B氏:ネット手芸
C氏:自主トレ・体操
<4>評価方法
A氏:改訂長谷川式簡易知能評価(以下HDS-R)、かな拾いテスト
B氏:HDS-R、カナダ式作業遂行測定(以下COPM)
C氏:握力測定、身体機能評価バッテリー(Short Physical Peformance Battery 以下SPPB)
<5>倫理的配慮
利用者個人を特定出来ない様、人物、表記をA氏、B氏、C氏とした。

4.結果
【A氏】
1)介入方法
日中に計算プリント(簡単な足し算や掛け算等)を中心に実施。徐々に飽きる様子がみられたため、塗り絵等の活動を取り入れ継続して行えるようにした。
2)変化
当初、途中覚醒し朝まで過ごしたこともあったが、薬の調整や日中のうとうとする時間に作業をする時間を設けた事により、夜間良眠の日が増え、日常の会話がはっきりする様子がみられた。 HDS-Rは5月評価時に点数の向上がみられたが、6月評価時は熱発による影響か、集中力低下やつじつまの合わない発言が増加し減点に繋がり、かな拾いテストも同様に減点となった。しかし、以前はリハビリに対して気分にムラがあり拒否される日もみられたが、プリント課題の提供をリハビリスタッフも行うことでA氏と接する機会が増加し、その結果拒否もなくなりリハビリの受け入れに改善がみられた。

【B氏】
1)介入方法
以前はネット手芸を取り組まれていた為、日中活性化を目的に趣味の再獲得を提案。受け入れ良好であり、ティッシュケースやペン立ての作成を行う。
2)変化
以前は居室でTVを観ていることが多く、周りの人からも少し認知機能が低下してきたのではないかと話しが出ていた。活動提供後は長時間集中して作業することが可能であった。完成品を他者にあげることに関して意義を感じており、スタッフへのプレゼントとして作成することで活動性の維持の目的を達成できた。
HDS-Rでは近時記憶の低下が著明であるがその他は大きく変化なし。COPMの結果から、活動に関して楽しい、集中できるといった発言が聞かれ満足度の向上に繋がった。

【C氏】
1)介入方法
 介護・リハビリで考えた集団体操への参加や自主トレを作成して本人に実施してもらった。実施したかを毎日確認・聴取し、記録表に記載した。
2)変化
日常での移動を車椅子使用から歩行器使用に変更した際はふらつきがみられた経験もあり身体活動への意欲が高く、自主的に活動を実施し報告を継続できた。
 握力(右)は少し減少がみられたが、握力(左)は最初の評価より増加がみられている。SPPBのバランス項目では増加や減少がみられたが、歩行ではわずかなタイム縮小がみられた。

5.考察
 日常生活中の個々の取り組みから、目的としていた機能・能力に変化がみられた。介護とリハビリで共同し、それぞれの課題や問題点を分析、個別性の高いプログラムを実施したことで今回の結果に繋がったと考える。
【A氏】
認知機能に関しては「複雑な問題に取り組むよりも簡単な計算をすると脳全体が活性化する」1)とされており、計算問題を行うことは認知機能維持に有用と考えられる。今回は熱発による精神面の不安定さが認知・注意面の評価結果にも影響したが、「一般高齢者の不眠は、精神活動や身体活動の低下による疲労蓄積が不十分であることが原因である」2)とされているように、計算プリントや塗り絵の実施は認知機能へのアプローチと同時に、日中活動量増加および夜間睡眠量の変化に繋がったと考えられる。
【B氏】
高齢期の余暇活動について、「生活の質を向上させるような余暇であることに加え、他者との交流ややりがいを通して自己実現を達成できるような余暇である必要がある」3)とされている。B氏から活動に対し前向きな発言がみられたり、他者に作品をあげることがやりがいとなっていたりする様子からネット手芸に対する満足度の向上に繋がったと考えられる。
【C氏】
 今回のC氏の身体機能評価として、大きな変化は見られなかった。一部バランス・歩行においてプラスの変化が見られたが、元々自主的に歩行器歩行を行っていたことと、評価期間が短期間であったことが、明確な変化のなかった要因として考えられる。介入について「トレーニングを長期間継続することが身体的に虚弱な高齢者の介護予防対策として有用である」4)ことから、C氏の年齢を踏まえると今後も長期的に見ていく必要があると考えられる。

6.結 論
 今回のケースでは、多くの利用者様がいる中で3名を中心とし、短期間で評価・介入を実施した。その中でも身体機能の変化や満足度、活動性において変化がみられた。しかし、短期間や少人数での実施を踏まえると妥当性や多職種で継続する難しさは長期間で実施していくことが必要と考え、利用者様の役に立つ介護リハとして取り組んでいけたらと思う。

引用文献:
1)認知症ケア標準テキスト 改訂5版認知症ケアの実際ΙΙ:各論(p142)
2)脳トレに計算ドリルがおすすめ、音読とセットで認知症の予防と改善に効果的
3)伊佐地由梨ほか「高齢期における余暇活動の効果」
4)3年間の筋力トレーニ ングが高齢者の体力および移動動作能力に及ぼす影響