講演情報

[14-O-A004-08]退院後も自立した生活がしたい~復職からその後~

*坂入 綾子1 (1. 茨城県 介護老人保健施設ごぎょうの里)
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今回は、高校教師として勤務されていたK様が、右被殻出血から左片麻痺や高次脳機能障害を抱えながらも復職を希望し、リハビリに取り組みながら無事高校教師として復職された経過、今後の目標設定、当施設老健職員との関わりなどを報告します。
《はじめに》
 当施設は、1997年11月に開設され、今年で27年目となる。

《事例紹介》
*氏名 K・K様
*年齢 59歳
*性別 男性
*主病名 右被殻出血
*既往歴 高血圧、左大腿骨転子部骨折
*要介護1
*日常生活自立度A1
*職業 県立高校国語教師
2020年4月、勤務中に左手が動かなくなり救急搬送され、右被殻出血との診断を受ける。入院し保存的に加療され、重度の左片麻痺、感覚障害、左半側空間無視、高次脳機能障害は注意障害、抑制、思考力の低下がみられた。

《経過》
 左片麻痺、高次脳機能障害があり在宅生活困難で2020年9月に他施設老健に入所となる。麻痺は重度でしたが日常生活はほぼ自立され、2021年1月に自宅復帰するも転倒。左大腿骨転子部骨折にて入院。2021年3月、再度他施設老健に入所となる。移動は車イスとなるが、日常生活は自立された為、2021年7月再度自宅復帰となる。ご本人は、病気後も教師として復職することを希望されていた。復職にあたり、茨城県高次脳機能障害支援センターの相談サポートを受け、2021年8月に県立高校の教師として復職出来ることとなる。それと同時に当施設の訪問リハビリを利用開始となる。

《復職後》
 病気前に勤務されていた高校に無事復職されることとなり、週4日の授業を受け持つなどして勤務開始となる。ご本人より2階の職員室まで杖歩行がしたい、立位で板書がしたいと希望があり、実際にリハビリ職員が勤務先の高校に同行し、環境の確認を行う。訪問リハビリでは環境面で対応が出来ない為、当施設の通所リハビリに切り替える事となる。
 高校の階段の手すりが片側のみで、当時の身体機能では自立での昇降は困難な為、車イスを使用し安全に移動できるよう1階に職員室の配置が決まる。
 リハビリのメニューに職員用の階段を使用しての階段昇降や、立位で板書するための立位バランス練習を実施し、徐々に立位バランスの向上がみられ、授業中立位での板書ができるようになる。階段昇降は転倒のリスクが高く、自立には至らなかった。
 復職から約2年半勤務していたが、以前よりも徐々に事務的な作業が難しくなり、テストの採点〇×の判断が遅くなったと感じるようになる。また、左麻痺がある為キーボードの入力が不便であることもあり、定年まで残り2年あるが、ご本人の希望もあり早めの退職となる。

《退職後》
 暇を持て余しています、とご本人は笑っている。何か出来ることはないかと話し合った結果、共通の話題であった今年度の大河ドラマの内容についての補足や背景を教えてくださるようになる。更に、職員や他ご利用者を相手に今までの経験や知識を活かして、簡単な古典の授業を始めてくださるようにもなる。また、スマホのアプリを使用して脳トレを実施し、毎日課題をクリアすることを目標に取り組んでいる。退職後もこういった場を設けることで、ご本人の活気にも繋がっている。

《今後のプラン》
 現在、弟様と同居生活をしているが、ゆくゆくは独りで生活したいと希望があり、また、車イスでの生活ではなく、杖で歩行できるようになりたいと意欲を持ちリハビリに励まれている。家事作業全般において弟様がサポートしてくださっており、今後は独りで生活していく為に洗濯動作や調理など作業の出来ることを増やし、少しずつ自立した生活を目指していこうとご本人と話している。

《まとめ》
 元々その方が生活していた居場所に戻すということと、新たにその方が必要とされる環境での生活を支援していくことが、私たちの役割なのだと改めて感じた。施設職員との情報共有だけでなく、地域の様々な事業所との連携を大切にしながら様々なご利用者に対する自立支援に繋がるよう、その方に合わせた柔軟な対応をしていく。また、ご利用者に寄り添い、適切な支援ができるよう努めることが大切であると感じている。