講演情報

[14-O-A005-01]超強化型老健における在宅復帰と多職種連携支援退所への想いが繋がった。排泄動作獲得までの道のり

*小野 鷹嗣1、川根 美紀1、西山 豪弘1 (1. 香川県 介護老人保健施設みの荘)
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変形性膝関節症により両膝痛が強く、トイレでの排泄が困難な90歳代女性が在宅復帰を目指しリハビリに取り組んだ。生活場面での排泄動作の定着を目標に多職種で情報共有し連携を図った。ADLの介助量が軽減する事で、本人や職員の在宅復帰のモチベーションに繋がった。本人のやる気と自立心の強さが生活リハビリを定着させ在宅復帰が可能となった経過を報告する。
【はじめに】
 当施設は超強化型老健として、入所者の在宅復帰やADL向上のための支援を行っている。今回、膝の荷重時痛によりリハビリが進まなかった利用者を担当し、多職種が協働して支援することで、排泄動作を獲得し在宅復帰に繋がった経緯について紹介する。
【症例紹介】
A氏90歳代女性
疾患名:右大腿骨頸部骨折、両側性変形性膝関節症、高血圧症、慢性心不全、膀胱炎
介護度:要介護3
家族構成:長男夫婦と同居
現病歴:X年Y月Z日自宅のトイレで転倒。Z+7日右大腿骨頸部骨折で入院となる。Z+12日人工骨頭置換術施行。リハビリを開始するが、膝痛から思うような改善がみられず、Y+2ヵ月在宅復帰を目指しリハビリ継続の目的で当施設入所となる。
病前生活:毎日の散歩や畑仕事をしていたが受傷1ヵ月前、急に動けなくなり床を這って自宅内を移動していた。
本人像:定年退職後、足腰が弱らないように散歩や畑仕事、地域活動に積極的に参加していた。人に頼らずに身の周りの事を行う。自分で出来る方法を常に考えて行動する。
本人要望:「脚の力を付けて早く家に帰りたい。」
家族要望:「ポータブルトイレや車椅子への移乗が安全に自立してほしい。」
【リハビリ評価】
身体機能面:起立時、立位保持で両膝痛著明(NRS:8/10)。ROM左右膝関節伸展約-20°。GMT右3、左4。平行棒内での立位保持20秒程度。
認知面:HDS-R 29/30点。難聴があるが、大きな声で日常会話は問題なく行える。リハビリには意欲的。意欲の指標(Vitality Index):7/10点
ADL面:バーセルインデックス(以下、BI)40点。起き上がりはベッド柵を使用し自立。移乗は全介助。排泄は終日オムツ対応。車椅子の自操は自立。
【目標】
短期:トイレ移乗と下衣の上げ下ろしが自立する。
長期:排泄動作が見守りにて行え、自宅で生活ができる。家族と買い物など外出が行える。
【入所中の経過と介入方法】
 入所時:職員2名で排泄介助を行うが膝痛の訴え強く、移乗困難なため終日オムツ対応となる。また、職員が声掛けする前から移乗動作を開始してしまう等、動作性急な場面がみられた。立位の支持性は低く、ベッドから自分で移乗しようとして転落もみられた。そのため、コールマットを設置し移乗時は安全を優先してスライディングボードを用いるようにした。個別リハビリでは、トイレで下衣介助を受ける間、立位保持が出来る事を目標に、下肢筋力増強訓練と起立・立位保持訓練を開始。平行棒内で起立は中等度介助、立位保持は見守りで20秒可能であった。
 入所後3週頃:膝痛持続するため外科受診し関節注射を施行。徐々にではあるが、膝痛が軽減し起立や移乗が軽介助で行えるようになった。その結果、オムツからリハビリパンツに変更し、排便時のみトイレ介助が開始となった。下衣の操作は全介助を要し、排尿時はオムツ対応のままであった。その間、残存機能の向上や過介助を予防することを目的に、iPadで撮影した動画を使用し介助方法の統一を行った。個別リハビリでは、トイレの移乗動作安定を目的に、平行棒内で歩行訓練を実施した。
 入所後13週頃:膝の荷重痛の軽減により、排尿・排便共にトイレ排泄が可能となった。この頃には「一人でトイレができるようになり、早く家に帰りたい」など前向きな発言も多くみられた。意欲の指標(Vitality Index)は、7/10点⇒9/10点に向上した。個別リハビリでは、トイレ時の下衣操作性向上を目的としたバランス訓練を行い、支持物無しの静的立位が取れるようになった。
 入所後20週頃:退所前訪問を行い、トイレを含めた住環境の調整を行った。また居宅訪問時の様子をiPadで動画撮影し、多職種で住環境の情報共有を行い、退所に向けた具体的なゴール設定を行う。この頃には、排泄時の立位バランスが向上し、下衣操作が見守りとなった。介護職員立会いの下で排泄練習を行うなど情報共有を行った。自宅内の移動能力向上を目的として、生活リハビリでトイレまでのピックアップ歩行器での歩行練習を行った。個別リハビリでは開き戸の開閉訓練や、乗用車の乗降訓練を実施した。支援相談員もLINEを用いて家族へ動作能力の連絡を行った。また、退所後の在宅サービス事業への連携を図った。
 退所後:入所から25週後、老健退所し在宅復帰となった。退所時BIは75点。ADL動作の維持向上目的で訪問リハビリが開始となった。排泄は日中トイレ、夜間ポータブルトイレを使用し、排泄自立となり訪問リハビリ終了となった。余暇活動は、長男と近所のうどん店で食事を楽しむ。また、ひ孫の遊び相手をするなど家族との時間を過ごしている。
【考察】
 在宅復帰が可能となる指標においてトイレ動作の可否・移動能力・認知機能・家族の介護力が重要という報告が多数散在している。本症例は、1.トイレ動作・歩行器歩行・玄関の段差昇降能力を獲得できたこと、2.認知機能が良好であったこと、3.家族が協力的であったこと、4.退所時BIが在宅復帰におけるカットオフ値65点を超えたこと、以上の4点から在宅復帰に繋がったと考えられた。
 iPadでの動画の活用により、入所時との動作比較や介助方法の共有が効果的に行われ、在宅で必要な動作を周知する有効な手段となった。排泄動作が可能となった事で在宅復帰が視野に入り、本人のモチベーションが向上した。また、介護職員も在宅復帰が近付いているという意識付けとなった。支援相談員がLINEを用いて家族へ動作時の変化やADL状況を連絡することで、家族も在宅復帰後の生活がイメージしやすかったのではないかと考える。特に移動能力の連絡は家族の意向に強く影響を与えると考えられた。老健からの在宅復帰は家族の意向と介護者の要因が大きく影響するため、ADL能力の改善をこまめに家族に連絡し、多職種と連携することでスムーズな在宅復帰が可能となると示唆された。