講演情報
[14-O-A005-05]再び自分らしく生きる―our teamで繋ぐ希望―
*大塚 佳澄1 (1. 東京都 介護老人保健施設 ライフサポートねりま)
寝たきりで人生に絶望していた方が、入所後に再び生きる希望を持つことができた関わりを報告する。各職種の担当は、孤独や不安な気持ちに寄り添い、当たり前の生活を再獲得することで、その人らしさを取り戻す介入を行った。結果、FIM改善、表情は明るくなり、日中の活動性が飛躍的に上昇した。多職種がour teamとして、チームリハビリテーション・ケアを実践し、親身な対応を継続することの重要性を再確認できた事例となった。
【はじめに】
当施設は超強化型老健として、専門職の指導のもと質の高いリハビリを受けられることで在宅復帰を目指すことが使命である。そして、ご利用者様の笑顔を引き出し、自分らしくありたいという願いをかなえるために、日々多職種連携による専門的で親身な対応・ケアを実践している。今回、寝たきりとなったことで生きる希望をなくした方が在宅から入所され、笑顔と自分らしい生活の一部を再獲得することでその人らしさを取り戻し、もう一度生きる希望を持つことができた。その関わりを振り返り、報告する。
【症例紹介】
Y様 90代 女性 要介護5
入所期間:令和5年5月~8月
疾患名:廃用症候群・認知症・狭心症・右大腿骨頸部骨折・胸水貯留
入所経緯:生涯独身。自宅で引きこもる生活をしていた中で、自宅で転倒受傷。ADL低下に至った。早期より入所を勧めてきたが、精神的な落ち込みが強く、活動意欲の減退が顕著にあった。また入所拒否が強く、その後は半年間寝たきりの生活が続いた。次第に精神的不安定な状態に至り、在宅ケア・ヘルパースタッフとの関係は破綻。在宅生活が困難な状況となった。「生きていても仕方がない」と発言が度々聞かれ、生きる希望を無くしていた中、当施設に再入所の運びとなった。
【ケア計画】
・孤独や不安な気持ちに寄り添う
・その人らしい生活を取り戻す
【経過】
入所初日から「早く死にたい、まるで生きる希望がありません」という発言がよく聞かれ、ベッド上で過ごし、リハビリ実施も困難であった。悲観的な訴えや険しい表情、目を閉じていることが多い一方で、「私が寝たきりだから(スタッフは)誰もここに来てくれない」「何もしてくれない」など孤独や不安感からナースコールも頻回にあった。看護・介護は、訴えやコールの都度できる限り傾聴し、訴えがなくとも同室者対応の機会に声掛けをする対応に努めた。主治医は毎日訪室し、全身状態の観察と人となりや生きてきた歴史を引き出すことで精神ケアに努め、チーム間に共有した。リハビリ担当はリハビリ時に、ご本人出身の北海道や函館の話、好きなお花の話をすすめることで気分転換を図った。それぞれがその人の人生に寄り添う関わりをチームで図った。
徐々にチーム以外のスタッフとの関係性が取れるようになり、毎日のリハビリには参加できるようになった。しかし、リハビリ以外の離床では「ベッドに寝かせてください」と気持ちが前に進まず、困難な状況だった。離床のきっかけを掴むためにどうしたらよいか、チームで話し合った。まずは昼食だけでも離床し、食堂にて食事を召し上がることはできないか、看護・リハビリ担当と相談し、リハビリ時間を昼食前に調整。リハビリを終えて離床したまま食堂へ誘導し、食事を召し上がれるよう動機づけをした。また食堂での食事は、「他の方の目が気になる」と発言がよく聞かれたため、同じ食席の利用者との関わりが持てるよう、介護担当は仲介役に努めた。どうしても気後れしてしまい、難しい場合には無理をしない対応を心掛けた。徐々に好きな料理の話をするなど、前向きに食堂での食事ができるようになった。
毎食食堂で食事ができるようになり、離床耐久性が向上してきたことで、次に排泄支援に着目した。始めはトイレ排泄が億劫であり、食後すぐに臥床希望されていた。介護担当は本人の様子を伺いながら、安心する声かけを繰り返し心掛けた。トイレ排泄が成功した際に、「トイレに座った方がしっかりと出している感じがする」という言動があり、そこで全体介入として食後の排泄誘導プランを開始し、周知した。トイレ排泄する意識づけと成功体験を積み重ねることを心掛けた。
【結果】
悲観的な発言や不安の訴えが減り、次第に離床時間が増え、食堂へ移動して毎食食事が摂れるようになった。「今日はご飯がいつもより美味しく感じました」と前向きな発言も聞かれるようになった。食後のトイレ誘導では「トイレに座った方がしっかりと出している感じがする」という言動があり、日中トイレ意欲も増え、日中トイレ排泄が定着した。テープ式オムツ対応からリハビリパンツへの変更をした。午後の余暇時間では、集団体操や音楽レクレーションに参加することができるようになり、おやつの時間では同席の方と談笑も見られるようになった。日中の離床時間が増えたことで身体機能面に加え、表情も明るく変化し、リハビリでも積極的に歩行に挑戦、車椅子の自走もわずかだが可能となり、日中の活動性は飛躍的に改善していった。
しかし、8月になり大腸ガス貯蓄による腹満から食欲低下となり、次第に全身状態悪化。酸素投与開始。ご本人から「最後までここに居させてください。最後はここで皆さんと一緒に安心して過ごしたいんです」とのお言葉を頂き、当施設でのお看取りを希望された。ご本人の意思を尊重する方針でより安楽に過ごせるよう、リハビリや食事など離床の方法も日々チームで検討・介入していった。最後はキーパーソンとご本人の話し合いにより緩和治療目的で転院。他院でご逝去された。
【考察】
その時々の状況に合わせて、本人の気持ちに寄り添う対応を行いながら、一方で人間らしさ、その人らしさとは何かという部分で、チーム相談し、考えながら介入を心掛けた。結果、利用者様はスタッフとの関わりの中で、徐々に前向きに生活できるようになり、もう一度生きる希望を持つことができたのではないかと考える。ご本人とスタッフ双方がお互いを家族のように信頼し尊重し合うことで、心を通わせた時間が安心感を産み、信頼関係を育み、再び笑顔で輝ける時間、命を輝かせる時間を共有できたのではないかと考える。多職種がour teamとして、チームリハビリテーション・ケアを実践すること、それぞれが専門的で親身な対応を継続することの重要性を再確認できた事例となった。
当施設は超強化型老健として、専門職の指導のもと質の高いリハビリを受けられることで在宅復帰を目指すことが使命である。そして、ご利用者様の笑顔を引き出し、自分らしくありたいという願いをかなえるために、日々多職種連携による専門的で親身な対応・ケアを実践している。今回、寝たきりとなったことで生きる希望をなくした方が在宅から入所され、笑顔と自分らしい生活の一部を再獲得することでその人らしさを取り戻し、もう一度生きる希望を持つことができた。その関わりを振り返り、報告する。
【症例紹介】
Y様 90代 女性 要介護5
入所期間:令和5年5月~8月
疾患名:廃用症候群・認知症・狭心症・右大腿骨頸部骨折・胸水貯留
入所経緯:生涯独身。自宅で引きこもる生活をしていた中で、自宅で転倒受傷。ADL低下に至った。早期より入所を勧めてきたが、精神的な落ち込みが強く、活動意欲の減退が顕著にあった。また入所拒否が強く、その後は半年間寝たきりの生活が続いた。次第に精神的不安定な状態に至り、在宅ケア・ヘルパースタッフとの関係は破綻。在宅生活が困難な状況となった。「生きていても仕方がない」と発言が度々聞かれ、生きる希望を無くしていた中、当施設に再入所の運びとなった。
【ケア計画】
・孤独や不安な気持ちに寄り添う
・その人らしい生活を取り戻す
【経過】
入所初日から「早く死にたい、まるで生きる希望がありません」という発言がよく聞かれ、ベッド上で過ごし、リハビリ実施も困難であった。悲観的な訴えや険しい表情、目を閉じていることが多い一方で、「私が寝たきりだから(スタッフは)誰もここに来てくれない」「何もしてくれない」など孤独や不安感からナースコールも頻回にあった。看護・介護は、訴えやコールの都度できる限り傾聴し、訴えがなくとも同室者対応の機会に声掛けをする対応に努めた。主治医は毎日訪室し、全身状態の観察と人となりや生きてきた歴史を引き出すことで精神ケアに努め、チーム間に共有した。リハビリ担当はリハビリ時に、ご本人出身の北海道や函館の話、好きなお花の話をすすめることで気分転換を図った。それぞれがその人の人生に寄り添う関わりをチームで図った。
徐々にチーム以外のスタッフとの関係性が取れるようになり、毎日のリハビリには参加できるようになった。しかし、リハビリ以外の離床では「ベッドに寝かせてください」と気持ちが前に進まず、困難な状況だった。離床のきっかけを掴むためにどうしたらよいか、チームで話し合った。まずは昼食だけでも離床し、食堂にて食事を召し上がることはできないか、看護・リハビリ担当と相談し、リハビリ時間を昼食前に調整。リハビリを終えて離床したまま食堂へ誘導し、食事を召し上がれるよう動機づけをした。また食堂での食事は、「他の方の目が気になる」と発言がよく聞かれたため、同じ食席の利用者との関わりが持てるよう、介護担当は仲介役に努めた。どうしても気後れしてしまい、難しい場合には無理をしない対応を心掛けた。徐々に好きな料理の話をするなど、前向きに食堂での食事ができるようになった。
毎食食堂で食事ができるようになり、離床耐久性が向上してきたことで、次に排泄支援に着目した。始めはトイレ排泄が億劫であり、食後すぐに臥床希望されていた。介護担当は本人の様子を伺いながら、安心する声かけを繰り返し心掛けた。トイレ排泄が成功した際に、「トイレに座った方がしっかりと出している感じがする」という言動があり、そこで全体介入として食後の排泄誘導プランを開始し、周知した。トイレ排泄する意識づけと成功体験を積み重ねることを心掛けた。
【結果】
悲観的な発言や不安の訴えが減り、次第に離床時間が増え、食堂へ移動して毎食食事が摂れるようになった。「今日はご飯がいつもより美味しく感じました」と前向きな発言も聞かれるようになった。食後のトイレ誘導では「トイレに座った方がしっかりと出している感じがする」という言動があり、日中トイレ意欲も増え、日中トイレ排泄が定着した。テープ式オムツ対応からリハビリパンツへの変更をした。午後の余暇時間では、集団体操や音楽レクレーションに参加することができるようになり、おやつの時間では同席の方と談笑も見られるようになった。日中の離床時間が増えたことで身体機能面に加え、表情も明るく変化し、リハビリでも積極的に歩行に挑戦、車椅子の自走もわずかだが可能となり、日中の活動性は飛躍的に改善していった。
しかし、8月になり大腸ガス貯蓄による腹満から食欲低下となり、次第に全身状態悪化。酸素投与開始。ご本人から「最後までここに居させてください。最後はここで皆さんと一緒に安心して過ごしたいんです」とのお言葉を頂き、当施設でのお看取りを希望された。ご本人の意思を尊重する方針でより安楽に過ごせるよう、リハビリや食事など離床の方法も日々チームで検討・介入していった。最後はキーパーソンとご本人の話し合いにより緩和治療目的で転院。他院でご逝去された。
【考察】
その時々の状況に合わせて、本人の気持ちに寄り添う対応を行いながら、一方で人間らしさ、その人らしさとは何かという部分で、チーム相談し、考えながら介入を心掛けた。結果、利用者様はスタッフとの関わりの中で、徐々に前向きに生活できるようになり、もう一度生きる希望を持つことができたのではないかと考える。ご本人とスタッフ双方がお互いを家族のように信頼し尊重し合うことで、心を通わせた時間が安心感を産み、信頼関係を育み、再び笑顔で輝ける時間、命を輝かせる時間を共有できたのではないかと考える。多職種がour teamとして、チームリハビリテーション・ケアを実践すること、それぞれが専門的で親身な対応を継続することの重要性を再確認できた事例となった。