講演情報
[14-O-A006-04]低栄養改善に向けて~本人と多職種協働での取り組み~低栄養改善、チームケア、シェアド・リーダーシップ
*宮下 香1、山越 博正1、前澤 美奈子1、高江洲 二三四1、加藤 秀明1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設 アルカディア)
低栄養状態があり、ADLが低下していた事例に対し多職種協働で取り組んだ結果、状態改善に繋がったため報告する。4つの大きな身体状態・意欲の変化に焦点を当て場面に応じたチームケアを行った。その結果、寝たきり状態から短距離歩行が可能になるまでのADL改善を認めた。今後も今回の経験をもとにチームケアの充実を図りたい。
【はじめに】
高齢化に伴い低栄養状態の利用者が増加し、その結果サルコペニアが進行して嚥下障害を併発する事例をしばしば経験する。当施設では8年前より誤嚥性肺炎対策や低栄養改善に向けて様々な取り組みを行ってきた。今回は低栄養状態で嚥下障害があり、ADLが低下していた事例に対し多職種協働で取り組んだ結果、ADL改善や意欲向上に繋がったため、特に介入した4つのフェーズに焦点を当てて報告する。
【症例及び目的】
Y氏:70歳代,男性,要介護4,病名:嚥下障害,下肢に軽度麻痺あり
身長:158cm ,体重:39.2kg,BMI:15.7,MNA-SF:5ポイント(低栄養),BI(Barthel Index):20,上腕周径:20cm,下腿周径:24.5cm,握力:8.3kg,SARC-F:8点(サルコペニアの疑い)
入所時より低栄養状態であり、誤嚥リスクも高かった。本人のニーズは「座って形のあるものが食べたい。歩くことが難しくても車いすを使って自分で動きたい」であった。これを達成するため、本人と各職種が協働で低栄養改善・ADLの改善に向けて以下の取り組みを行った。
【方法・経過及び結果】
第1フェーズ「低栄養状態の改善、早期離床」
問題点:嚥下障害があり自分で食事ができない、長時間の食事摂取が難しい、寝たきり・全介助
管理栄養士:ペースト食、全粥、水分とろみ付き3%にて提供を開始した。経口的栄養補助(以下ONS)は短時間で確実にエネルギー・たんぱく質摂取を促す目的から、熊本リハビリテーション病院で使用されている熊リハパワーライスのレシピを参考にMCTオイル10g・プロテインパウダー3gを昼夕2回ずつ添加する方法を検討した。医師の許可、本人・家族の同意も得られたため添加を開始し、味に違和感がないかなど確認しつつ食事摂取量・身体状況を観察した。
理学療法士:食事摂取量を観察しながらベッドサイドでの機能訓練を開始した。リクライニング車いすを導入した。
看護・介護職員:完全側臥位法での安全な食事介助を実施した。ベッド周りの環境整備(エアーマット導入)を行った。車いすを使用し、少しずつ離床の機会を増やした。
結果:食事は問題なく全量摂取可能となった。体重も少し増加した。徐々に座位が保てるようになった。
第2フェーズ「肺炎発症、ADL低下防止」
問題点:肺炎を発症したことによる状態悪化の懸念
医師・看護・介護職員:肺炎の早期治癒に向けてこまめな身体管理を行った。完全側臥位・フィニッシュ嚥下の方法を統一化し、誤嚥予防に努めた。
管理栄養士:医師より食事摂取の許可は得ていたため、以前と同様の食事を提供した。食事摂取量、検査値、身体状況等の観察を行った。
理学療法士:身体状況・食事摂取量を把握し、ベッドサイドで廃用症候群の進行予防に努めた。
結果:各職種の早期対応により肺炎は治癒し、ADLを維持する事が出来た。
第3フェーズ「食事内容の変更、座位での食事摂取」
問題点:嚥下状態の再評価、嚥下内視鏡検査(以下VE)、座位での安全な食事摂取
管理栄養士:座位で過ごせる時間が増え、発語もしっかりしてきた段階で、本人・家族の同意を得て外部歯科医師によるVEを施行した。検査結果より90度座位でのソフト食の自力摂取が可能となった。ONSは継続した。
理学療法士:食事摂取量に見合った訓練内容で、筋力の向上を図った。VEの結果を踏まえ、座位のポジショニングを行った。
看護・介護職員:座位での自力摂取が可能となったため、誤嚥しないよう見守りつつ、ホールにて職員・他利用者との積極的な交流を図った。
結果:「形のあるものが食べたい」を達成することができた。他利用者と一緒に食事ができる喜びを生み出すことができた。
第4フェーズ「車いすでの移動、活動範囲の拡大」
問題点:自走できる車いすの選定、トイレでの排泄、ベッドから離れた生活
看護・介護職員:立位が可能となったことで動作が安定したため、こまめにトイレでの排泄を促した。また、生活の中心をベッドサイドからホールへと移すことで、車いすの自走と他者との交流を促した。
理学療法士:自走しやすい車いすをレンタルして導入した。ベッドマットレスを起居動作が行いやすいタイプに変更した。動作の安定を図るべく訓練を行った。また体力・筋力の向上に伴い、歩行器を使用した歩行訓練を開始した。
管理栄養士:空腹感を訴えられたため、主食を大盛りに変更した。
結果:「車いすを使って自分で動きたい」を達成することができた。本人の意欲がさらに向上した。
最終結果
体重:42.0kg(+2.8kg),BMI:16.8,MNA-SF:9ポイント(低栄養のおそれあり),BI:55(+35),上腕周径:20.5cm,下腿周径:24.8cm,握力:13.3kg(+5kg),SARC-F:6点
栄養状態、移乗動作、トイレ動作、歩行動作に改善がみられた。
【考察及びまとめ】
当事例では、その時々の問題改善に向け、各職種が様々な手段を取り入れて密に関わった。その結果、本人は「入院していた病院へ歩いて行って皆をびっくりさせたい。喉の検査をしていろんな物が食べたい」と前向きな発言をするようになり、栄養状態やADLも改善させることができた。本人も含め目標を全員で共有し、フェーズごとでリーダーを変えたこと、問題に対して各職種が専門性を活かした手段(ONS・完全側臥位法・VE等)を取り入れたことが状態改善に繋がったと考えている。それはまさしく、指揮者なしでメンバー全員がリーダーシップを共有しながら演奏を行うことで有名なオルフェウス管弦楽団のように、場面ごとにリーダーが移り変わることで各々のスキルや視点を活かしあえるシェアド・リーダーシップ型のチームアプローチであった。また、このようなチームケアが実現できたのは、普段から各職種が垣根を超えて話し合い、お互いを信頼しあえる職場環境があったからではないかと考える。この経験をもとに、今後も多職種が各々の強みを尊重し合い、活かしあえる関係を維持し、利用者の低栄養状態改善に努めていきたい。
高齢化に伴い低栄養状態の利用者が増加し、その結果サルコペニアが進行して嚥下障害を併発する事例をしばしば経験する。当施設では8年前より誤嚥性肺炎対策や低栄養改善に向けて様々な取り組みを行ってきた。今回は低栄養状態で嚥下障害があり、ADLが低下していた事例に対し多職種協働で取り組んだ結果、ADL改善や意欲向上に繋がったため、特に介入した4つのフェーズに焦点を当てて報告する。
【症例及び目的】
Y氏:70歳代,男性,要介護4,病名:嚥下障害,下肢に軽度麻痺あり
身長:158cm ,体重:39.2kg,BMI:15.7,MNA-SF:5ポイント(低栄養),BI(Barthel Index):20,上腕周径:20cm,下腿周径:24.5cm,握力:8.3kg,SARC-F:8点(サルコペニアの疑い)
入所時より低栄養状態であり、誤嚥リスクも高かった。本人のニーズは「座って形のあるものが食べたい。歩くことが難しくても車いすを使って自分で動きたい」であった。これを達成するため、本人と各職種が協働で低栄養改善・ADLの改善に向けて以下の取り組みを行った。
【方法・経過及び結果】
第1フェーズ「低栄養状態の改善、早期離床」
問題点:嚥下障害があり自分で食事ができない、長時間の食事摂取が難しい、寝たきり・全介助
管理栄養士:ペースト食、全粥、水分とろみ付き3%にて提供を開始した。経口的栄養補助(以下ONS)は短時間で確実にエネルギー・たんぱく質摂取を促す目的から、熊本リハビリテーション病院で使用されている熊リハパワーライスのレシピを参考にMCTオイル10g・プロテインパウダー3gを昼夕2回ずつ添加する方法を検討した。医師の許可、本人・家族の同意も得られたため添加を開始し、味に違和感がないかなど確認しつつ食事摂取量・身体状況を観察した。
理学療法士:食事摂取量を観察しながらベッドサイドでの機能訓練を開始した。リクライニング車いすを導入した。
看護・介護職員:完全側臥位法での安全な食事介助を実施した。ベッド周りの環境整備(エアーマット導入)を行った。車いすを使用し、少しずつ離床の機会を増やした。
結果:食事は問題なく全量摂取可能となった。体重も少し増加した。徐々に座位が保てるようになった。
第2フェーズ「肺炎発症、ADL低下防止」
問題点:肺炎を発症したことによる状態悪化の懸念
医師・看護・介護職員:肺炎の早期治癒に向けてこまめな身体管理を行った。完全側臥位・フィニッシュ嚥下の方法を統一化し、誤嚥予防に努めた。
管理栄養士:医師より食事摂取の許可は得ていたため、以前と同様の食事を提供した。食事摂取量、検査値、身体状況等の観察を行った。
理学療法士:身体状況・食事摂取量を把握し、ベッドサイドで廃用症候群の進行予防に努めた。
結果:各職種の早期対応により肺炎は治癒し、ADLを維持する事が出来た。
第3フェーズ「食事内容の変更、座位での食事摂取」
問題点:嚥下状態の再評価、嚥下内視鏡検査(以下VE)、座位での安全な食事摂取
管理栄養士:座位で過ごせる時間が増え、発語もしっかりしてきた段階で、本人・家族の同意を得て外部歯科医師によるVEを施行した。検査結果より90度座位でのソフト食の自力摂取が可能となった。ONSは継続した。
理学療法士:食事摂取量に見合った訓練内容で、筋力の向上を図った。VEの結果を踏まえ、座位のポジショニングを行った。
看護・介護職員:座位での自力摂取が可能となったため、誤嚥しないよう見守りつつ、ホールにて職員・他利用者との積極的な交流を図った。
結果:「形のあるものが食べたい」を達成することができた。他利用者と一緒に食事ができる喜びを生み出すことができた。
第4フェーズ「車いすでの移動、活動範囲の拡大」
問題点:自走できる車いすの選定、トイレでの排泄、ベッドから離れた生活
看護・介護職員:立位が可能となったことで動作が安定したため、こまめにトイレでの排泄を促した。また、生活の中心をベッドサイドからホールへと移すことで、車いすの自走と他者との交流を促した。
理学療法士:自走しやすい車いすをレンタルして導入した。ベッドマットレスを起居動作が行いやすいタイプに変更した。動作の安定を図るべく訓練を行った。また体力・筋力の向上に伴い、歩行器を使用した歩行訓練を開始した。
管理栄養士:空腹感を訴えられたため、主食を大盛りに変更した。
結果:「車いすを使って自分で動きたい」を達成することができた。本人の意欲がさらに向上した。
最終結果
体重:42.0kg(+2.8kg),BMI:16.8,MNA-SF:9ポイント(低栄養のおそれあり),BI:55(+35),上腕周径:20.5cm,下腿周径:24.8cm,握力:13.3kg(+5kg),SARC-F:6点
栄養状態、移乗動作、トイレ動作、歩行動作に改善がみられた。
【考察及びまとめ】
当事例では、その時々の問題改善に向け、各職種が様々な手段を取り入れて密に関わった。その結果、本人は「入院していた病院へ歩いて行って皆をびっくりさせたい。喉の検査をしていろんな物が食べたい」と前向きな発言をするようになり、栄養状態やADLも改善させることができた。本人も含め目標を全員で共有し、フェーズごとでリーダーを変えたこと、問題に対して各職種が専門性を活かした手段(ONS・完全側臥位法・VE等)を取り入れたことが状態改善に繋がったと考えている。それはまさしく、指揮者なしでメンバー全員がリーダーシップを共有しながら演奏を行うことで有名なオルフェウス管弦楽団のように、場面ごとにリーダーが移り変わることで各々のスキルや視点を活かしあえるシェアド・リーダーシップ型のチームアプローチであった。また、このようなチームケアが実現できたのは、普段から各職種が垣根を超えて話し合い、お互いを信頼しあえる職場環境があったからではないかと考える。この経験をもとに、今後も多職種が各々の強みを尊重し合い、活かしあえる関係を維持し、利用者の低栄養状態改善に努めていきたい。