講演情報

[14-O-A006-06]ONE TEAM対話から始まる連携

*吉田 有佑1、小倉 佑太2、宮本 章生1、鍋田 圭佑3、剣持 歌織3 (1. 静岡県 介護老人保健施設あみ、2. まつとみクリニック、3. サテライト介護老人保健施設かるむ)
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今回、頚髄損傷によりADL低下が著しかった症例に対しICTの活用方法の見直しと直接的なコミュニケーション、情報共有を意識した結果、トイレでの排泄機能も含めたADL・QOLが著明に改善した症例を経験した。ICT化による業務改善を実感する反面、職員間や他職種とのコミュニケーションや情報共有不足を痛感しチーム医療の重要性を改めて感じたので報告する。
【背景】
近年、電子カルテや見守り機器などICTを取り入れ業務の効率化を図る施設が多く、当施設でも電子カルテや眠りスキャンなどの機器を採用している。新たに加算が新設されるなど、ICTの導入や活用は重要視されており記録がデータ化されることで比較や時系列の把握が可能になった反面、職員間の直接的なコミュニケーションの機会も減少している。また、利用者様の何気ない言動や介助の中での気づきなどの情報が共有出来ていないことも現状の課題として挙げられる。
今回、ICTの活用方法の見直しや直接的なコミュニケーション、情報共有を意識した結果、ADL・QOLの改善をきたした1例を経験したので報告する。
【症例】
A様80代女性、要介護5、HDS-R10点。令和5年7月末に転落により頚髄損傷を受傷し、C3-C7椎弓形成術施行。負傷から7ヵ月経過後の令和6年2月末に当施設入所となった。身体機能として四肢体幹に不全麻痺が認められ、動作全般に介助を要し車椅子乗車は可能だが、座位姿勢の安定性、耐久性低下を認めた。また、食事は自力摂取可能だが、座位時に傾きも強く途中で職員に介助を求めることがある状況であった。
【経過と結果】
身体機能評価と入所後からの記録、眠りスキャンのデータを参考にリハビリ科内で意見交換を実施した。
入所時は体力低下もあり、座位の耐久性も低く離床時間の確保が難しく、食事や入浴以外では臥床していることが多かった。しかし、眠りスキャンのデータではベッド上での体動が多く覚醒している時間が多いことが読み取れた。まず、離床時間の確保、規則正しい生活を送ることを目標にリハビリ介入とシーティングを実施した。しかし、臀部に発赤が認められ褥瘡の悪化が懸念された為、他職種との意見交換を重ねながら慎重に離床時間の拡大を行った。4月末頃になると座位姿勢の改善と耐久性が向上した。その結果、食事場面では自力摂取できることが増え、介助を求めることも減少した。シーティングや姿勢崩れに関しては、記録と口頭で情報共有を行い、職員が共通認識で共通の対応が出来るような環境を整え、支援を継続した。座位姿勢の安定性、耐久性が向上した為、本症例の希望であるトイレに向けた取り組みを開始した。まず、多職種で意見交換と各職種の専門性を活かした知識的なアドバイスと技術的な協力を得た。看護師には肛門周囲の感覚や収縮、皮膚状態の継続的な観察、介護士にはトイレ動作や介助方法について一緒に検討した。また、オムツ使用時の排泄記録から排尿は朝昼夕と毎時間出ているが排便は夕方から夜間帯にかけて出ていることが分かった。介助下ではあるが機能的、動作的にも可能であった為、トイレに関しても4月末から支援を開始した。開始時は、訴えがあった時と入所後の記録から読み取れた夕方に声掛けを行い、トイレ誘導をした。その後、4日後には排尿、10日後には排便が確認できた。トイレでの排泄機会が増え、5月中旬にはオムツからリハビリパンツに変更した。
現在も多職種での情報共有を継続し、日常生活全般で介助量軽減を図っている。
【考察】
一般的に脊髄損傷において機能回復は9ヵ月頃までで、その後は僅かな回復がみられるも概ね12ヵ月程でプラトーに達する事が報告されている。
本症例は頚髄損傷による四肢体幹に不全麻痺が認められる症例で、受傷から7ヵ月後と比較的晩期から介入したにも関わらず、機能改善、ADL改善が認められた大きな要因として2つ挙げられる。一つ目は多職種との細かい情報共有である。多職種と連携し、細かく情報共有を行う事で個別リハビリ以外の時間でも生活リハビリとして離床時間の拡大や姿勢の修正を行うことができた。また、排泄が無かったとしてもトイレに誘導して動作練習を反復することで、通常の排泄状態に近づけることができたと推察される。
二つ目の要因としては、座位姿勢の改善である。座位姿勢は食事場面でのリーチ動作やトイレ動作時の立ち上がり動作など開始肢位となる事が多く、良肢位では圧の分散を図る事が出来る。その為、座位姿勢が改善したことで日常生活の場面でも生活の幅が大きく広がったと考える。
【結語】
今回、多職種と日々の細かい情報共有や利用者様も含めた積極的なコミュニケーションを図ることでADLやQOLの改善をきたした1例を経験した。ICT化が進み業務改善を実感している反面、職員間での直接的なコミュニケーション不足を痛感した。セラピストとしての評価や利用者様とコミュニケーションを図るだけではなく、多職種と連携をとり意見を伝え合うことが非常に重要であり、直接利用者様の生活の変化に繋がっていくと感じた。
今後も看護師、介護士だけではなく、ケアマネジャーや相談員などとも連携し、他職種との関りを増やしていくことで、医療チームとしての結束を強くし、更なるADL・QOL向上やケアの質向上に繋げていきたい。