講演情報

[14-O-A007-01]外国人介護士に伝えたい!~チームケア向上にむけて~

*井出 沙月1、角岡 亜美1 (1. 埼玉県 介護老人保健施設なでしこ)
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外国人介護士の日本語レベルや介護スキルに寄り添った情報共有・介助伝達方法の確立を目的に、介護課への調査を行い、リハビリテーション課目線の伝達方法の見直しと、疾患理解を深めるための勉強会を行った。結果、リハビリテーション課―介護課の連携が深まり、介助方法統一による利用者様のADLの安定に繋がった。今後もADLや環境設定の理由まで共通理解を深め、チームケアの質の向上が図れるよう取り組みを続けていく。
【はじめに】
リハビリテーション課では、利用者様ごとに介助動作や身体状況を他部署と共有するため、カルテや介護ノートの記載、動作やポジショニングの説明付き写真の掲示などを行っている。今回、外国人介護士が介助方法を理解できていなかったことに起因するインシデント報告が挙げられたことをきっかけに、日本語(特に医療用語や言葉のニュアンス)の理解が難しい外国人介護士に対し、日本人介護士と同様の伝達方法を用いることにも課題があったのではないかと考えた。
当施設で働く外国人介護士(7名)は特定技能1号、実務的な介護経験が殆どなく、日本語レベルはN4相当(基本的な日本語を理解できるレベル)であることを知り、【外国人介護士の日本語レベルや介護スキルに寄り添った情報共有・介助伝達の方法】を検討することが、リハビリテーション課と介護課の連携を深め、チームケアの質をより高めていくと考えた。
【目的】
外国人介護士の日本語レベルや介護スキルに寄り添った情報共有・介助伝達方法の確立。
介助方法の統一による利用者様のADL安定、QOLの向上。
【方法】
情報共有・介助方法が統一されない原因を探るため、介護課・外国人介護士への情報収集を行い、結果を踏まえてリハビリテーション課の取り組み(1)、(2)を決定した。
・介護課への聴取
外国人介護士の雇用区分は特定技能1号、日本語レベルはN4相当であり、申し送りを読めないという現状がある。日本人介護士には、単語レベルでゆっくり話す、動作を一緒に行いながら繰り返し説明する、カルテや介護ノートの難しい表現を意訳し口頭で説明するように周知されている。
・外国人介護士の日本語レベル・介護スキルの調査
「片麻痺」「骨折」「認知症」「浮腫」などの単語を漢字・英語・ローマ字のいずれかで読めるか、意味を理解しているか、該当する疾患の利用者様の名前を挙げられるかを調べたところ、漢字を読めた人は一人もいなかった。平仮名や口頭での質問には答えることができ、該当する疾患の利用者様を挙げることもできた。
片麻痺は音の響きから「肩が痛い」と認識している人が殆どであり、伴って、健側・患側の理解ができていないことが分かった。
(1)伝達方法の見直し
漢字を使用した申し送りノートは機能しないことが露呈され、「みぎかたまひ」「ひざいたい」「いじょうのときはみぎからささえる」のように、難しい単語の言い換えや、ひらがな表記で短い簡潔な文を書くようにリハビリテーション課内周知した。
また、移乗時の進入方向が一目でわかるように、ベッド⇔車椅子の移乗の際の床への目貼りや、介助方法を動画で説明すること、動作やポジショニングの方法の伝達には写真とひらがなでのポイント説明を加え、掲示した。
(2)疾患理解のための勉強会の開催
介護経験の浅さや、疾患への理解の乏しさがあり、伝達方法を変更するだけでは目的が達成されないことがわかった。疾患や病態の理解を深めるために、片麻痺体験、移乗の勉強会を開催し、健側や患側を把握することの重要性を知ってもらった。
【結果】
外国人介護士から「ノートが読みやすくなった」「わからないことを確認しやすくなった」「動画が分かりやすい」との意見が聞かれた。
以前介護ノートに記録していた移乗の介助方法の伝達を、再度動画で説明した際も「今までは全介助でやっていたけれど、動画と同じように手すりに掴まってもらえば上手に立てるんだね!」との声も聞かれ、在宅復帰を目指す利用者様の移乗動作の統一が図れるようになった。
勉強会の後、まだ介護歴が浅く移乗介助に不安があった介護士が、日々の業務の中で健側・患側を意識し安全に介助できるようになっていると、先輩介護士からの声も聞かれた。
取り組みから3ヶ月、介助方法の理解不足によるインシデント報告は挙げられていない。
【考察】
ADLの設定や介助方法の伝達を行うにあたり、全体周知の方法が一方通行になっていたことに気づかされた。介助方法を周知できていなかったことから起きてしまったインシデント報告に対し、その反省を次に生かすためのチーム全体での対応が必要となる。外国人介護士に対し、雇用区分や日本語のレベルも把握していなかったため「介護の事や医療用語、日本語もある程度分かっているだろう」という思い込みのまま、伝わっているかどうかのフィードバックを得る機会を持とうとしていなかった。
リハビリテーション課としては、伝達方法に着目し、インシデントの再発防止を試みたが、取り組みの過程で疾患や病態知識をも共通理解として伝達していく必要性に気がついた。
片麻痺体験を通して、利用者様の身体的・心理的不安に気づくことができ、片麻痺という病態に対しての理解や求められるケア、リスクの把握に繋げることができた。
勉強会の開催により、リハビリテーション課―介護課のコミュニケーションが増え、一人一人の介護のスキルを上げることにも繋がった。介助方法が統一されたことに伴って、利用者様のADLの安定性が向上、介助を受ける際の安心感は利用者様のQOL向上に結び付いていく。
今回の取り組みは、チームケアにおけるリハビリテーション課の役割を再考するきっかけにもなった。介護課内で行われている介護、介助指導で得た技術を基盤とし、PT,OTの持つ疾患や病態の知識、利用者様一人一人に対応した介助の方法の伝達を重ねていくことで、より厚みを持ったケアの提供ができると感じた。
今回は介助方法の伝達や利用者様の状態の周知に焦点を当てた取り組みを行ったが、今後の課題として、歩行器具やポジショニング用クッションの選定理由、介助方法の違いなど、ADL設定の内容まで共通理解が持てるよう、疾患理解を深めるための勉強会の開催や、より理解を得やすい伝達の工夫など進めていく必要性を感じている。