講演情報

[14-O-A007-06]老健で見つけた新しい生活スタイル

*桑田  稔久1 (1. 兵庫県 介護老人保健施設アトレーユうおざき)
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長く独居生活を続けていたが突然の入院により身体状態が急激に低下された方の生活の質が向上した事例について発表を行う。身の回りのことはできる限り自分で行いたいという気持ちと身体状況とのギャップに、他職種と連携しつつアプローチした。ご自身の意向を汲みながら出来ることを少しずつ増やしていった過程について報告する。
【はじめに】長く独居生活を続けていたが突然の入院により身体状態が急激に低下、身の回りのことはできる限り自分で行いたいという気持ちと身体状況との間にギャップがあった方に対して他職種と連携しつつアプローチし、自身の意向を汲みながらできる事を少しずつ増やしていったことで生活の質が向上した事例について発表をしたい。【対象者と入所の経緯】M様 女性 88歳。要介護度4。独居。長男は埼玉県在住。認知症状なし。介護サービスの使用歴なし。令和4年11月S状結腸穿孔、汎発性腹膜炎により救急搬送、緊急手術。人口肛門造設。徐々に回復したが体力の低下や尿管カテーテルの影響によりオムツ対応となるなど急激な身体状態の低下に戸惑っていた。【課題と取り組み】老健施設への入所にあたり「自分のことは自分でしたい」「家に帰りたい」と強く希望していた。その気持ちを尊重し支援していくにあたって複数の課題があった。課題の一つ目は関節痛であった。右大腿骨頭置換術の既往により股関節の可動制限と膝折れのリスクが高かった。移乗動作は可能だが付き添いが必要な状態だった。関節痛への取り組みとして膝への負担を和らげるためにリハビリ課の評価に基づきベッドの高さを通常よりかなり高めに設定、またトイレの便座が低すぎたため専用のかさ上げ便座を使用した。これによりスムーズな異常が可能となった。二つ目の課題は排泄であった。入院中はオムツ対応、当施設への入所当時は定時トイレ誘導、夜間パット交換で対応していた。尿意が回復するにつれてトイレ希望が増えたが頻尿によりトイレは頻回になった。膝折れのリスクが高く職員が必ず付き添うようにしていたが職員を気づかいトイレへ自己移乗する事も度々見られた。排泄への取り組みとしてリハビリ課と連携し動作状況、膝折れのリスクを随時確認、環境を整え安全に配慮しながら段階的に職員の介入度合いを軽減、現在では日中自立、夜間は見守りでトイレへ行けるようになった。三つ目の課題は夜間状況であった。入所直後より夜間1~2時間おきにトイレ覚醒し浅眠状態が続いており看護課と相談し眠前薬が処方された効果は薄かった。夜間状況への取り組みとして夜間浅眠の原因を日中の臥床時間に求め、臥床時間を短縮するなど調整を試みたが、大幅な改善は見られなかった。そんななか本人よりリハビリの時間以外でも運動がしたいと要望がありリハビリ課と相談のうえフロアリハビリを行った。すると徐々にではあるが夜間状況が改善されていった。【現在の本人の状況】日中自立、夜間見守りでトイレでの排泄。パット内への尿失禁もなく職員はストマパウチの交換、内容物破棄のみの介入。夜間は21時に眠前薬を内服し臥床、トイレ覚醒は1-2回程度、6時には自身で起床、という生活リズムを形成。日中の生活動作はほぼ自立、他利用者や職員との関係性も良好、読書や編み物などをして過ごしている。【まとめ】本事例は認知症状なく自身の意向をしっかりと伝えられた方だからこそ各専門職が連携できスムーズな対応、状態向上へとつながったと考える。突然の手術、入院による急激な状態や環境の変化を受け入れ難かった方が老健施設での各専門職との関わりの中で徐々に自分の状態と向き合い在宅の時とは異なる新たな生活リズムを形成できた。日常的に利用者と直接関わり、連携ができる老健という環境であったからこそスムーズに対応することができた事例であると考える。【展望】本人は現在も在宅復帰への意欲を強く持っている。今後も本人の気持ちに寄り添いつつ、より良い対応が出来るよう職員一同努めていきたい。