講演情報

[14-O-A008-02]「想い」に寄り添う看取りケア~ただいま、ひまわりに帰ってきたよ~

*大石 健司1、玉井 梨恵1、堀之内 初枝1 (1. 愛媛県 介護老人保健施設ひまわり)
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利用者を取り巻く環境や身体状態は一人一人違うため、看取りケアに正解はないが、強いて言うなら利用者や家族に喜んでもらえることが正解だと思う。今回、看取り希望で入所された利用者の想いや希望を聴取することができ、その想いに寄り添い関わりを持つことで、生活への意欲が向上し、ADLやQOLに変化がみられた事例について報告する。
【はじめに】
 看取りとは身体的苦痛や精神的苦痛を緩和し、最期までその人らしく生きることを支援することである。当施設では利用者本人及び家族の意見や意思を尊重し、気持ちに寄り添うことを大切にしている。しかし、家族の意思は確認出来ても、本人から直接意思を確認する事は難しいのが現状である。
 今回、看取りケアを希望されてきたM様の想いや希望を聴取する事ができ、その想いに寄り添い関りを持つことで生活への意欲が向上し、ADL・QOLの変化がみられた事例を報告する。

【事例紹介】
M様 88歳 女性 要介護4
日常生活自立度:C1 認知生活自立度1 HDS-R=16点
現病歴:心不全、リウマチ性多発筋痛症、脳梗塞後遺症、胆管炎、上肝胆管癌疑い、白内障

【入所までの経緯】
 平成21年3月6日より、当施設に併設しているサービス付き高齢者賃貸住宅(以下サ高住)に夫と共に入居し、介護保険の認定も受けず生活されていた。平成30年夫が永眠される。令和4年1月12日歩行困難となり部屋を這われて移動されていた。発熱もあり併設病院を受診した結果、腎盂腎炎及びリウマチ性多発筋痛症と診断され入院となる。その後、令和4年2月3日からリハビリ目的で当施設へ入所し、令和4年5月9日生活動作も自力で行えるようになったため、サ高住の生活に戻った。
 令和4年10月9日に自室で転倒され、発熱、嘔吐、気分不良の訴えがあり体動困難な為、O中央病院へ搬送される。検査の結果、胆管炎と診断され治療目的で入院となる。令和5年1月14日に発熱と左上下肢麻痺が出現。頭部CT・MRIにて脳梗塞と診断され、麻痺は残らなかったものの、寝たきりの状態になり常時酸素1リットルの吸入が必要となる。その後、上肝胆管癌が疑われたが、本人・家族の希望により精密検査は受けず、余命半年の診断を受ける。退院後はサ高住での独居生活に戻ることが難しいため、当施設に看取りケア目的で令和5年5月11日に入所される。

【入所時の状況】
 ADLは食事動作と整容動作に軽介助を要し、それ以外は全介助状態。移動はリクライニング車椅子を使用していた。常時酸素1リットル吸入し、入所された時には「ただいま、ひまわりに帰ってきたよ。またお願いね。」と言われていた。

【取り組みと経過】
 入所後間もなく「よく着ていた上着がなかったかね?」と普段着られていた洋服が欲しいとの要望があった。気分転換も兼ね、以前入居されていたサ高住に行くことを提案した。本人からも「行きたい」と希望があり、職員と相談員が付き添いして荷物を取りに行った。その際に、入所時から気にかけられていたご主人の仏壇に手を合わせることができ、「連れてきてくれてありがとう。お父さんに会えたよ」と涙ぐみ喜ばれた。サ高住の管理人やヘルパーとも再会し、嬉しそうに話されていた。馴染みの方と再開し話されている時の表情は、ひまわりにいる時と比べ、より一層楽しそうであった。サ高住で10年以上生活されていたM様と、なじみの方との関わりを今後も続ける事で、意欲の向上に繋がると考え、サ高住へ継続して訪問することを提案した。その後、少しずつだが本人からの意思表示も増え、ひまわりでの生活にも徐々に変化が見られてきた。
 「外に買い物に行きたい」と近くのスーパーへ外出を希望された。しかし、コロナの影響や本人の体調不良も重なり、思うように外出ができなかった。その為、併設病院の売店へ行くことを提案した。体調をみながら日程を調整し、支援相談員、介護士、管理栄養士が付き添いの元、車椅子に乗り買い物へ行くことができた。「昔は押し車を押してここに買い物に来てたんよ」と笑顔で話し、好きな柿の種を買われ、満足された様子だった。
 病院へ行ったことをきっかけに、長年の主治医に会いたいと希望された。先生に事前に連絡を取り、M様の病院受診の日に会えると返答をいただいた。久しぶりに会話され満面の笑顔で一緒に写真を撮ることも出来た。
 その後も生活に対する意欲が高まり、M様自らの訴えをより多く聞けるようになった。入所当時はリクライニング車椅子での移動だったが、本人の希望もあり標準型車椅子での移動に移行。以前はあまり参加されなかった体操やレクリエーションにも積極的に参加され、他者との交流も増えた。離床時間も徐々に長くなり、常時酸素吸入が必要だったが、日中は酸素を外して生活が送れるようになった。その事により「トイレに行きたい」、「歩いてみたい」と要望が増え、日中のみだがトイレでの排泄が可能となった。同時にリハビリ時のみであるが、前腕支持型歩行器で歩行練習を行い、少しずつ歩行時間が増えた。
 令和5年8月9日に入所申請していた地域密着型特別養護老人ホームに「行ってくるね。次は三本足で帰ってくるね。」と杖歩行を目指し、笑顔で当施設を退所された。

【まとめ】
 今回M様の関わりの中で、利用者の声や想いを聞き、その想いに寄り添う事が看取りケアにおいて最も大切だと改めて学んだ。
 利用者の人生最後のステージに関わる立場として、悔いや後悔をしないためにはどのように関わればいいのか、常に自問自答し、他の職員と相談している。利用者を取り巻く環境や身体状態は一人一人違うため、看取りケアに正解はないが、強いて言うなら利用者や家族に喜んでいただけることが正解だと思う。その為に必要な事は、利用者がどのような人生を歩んできたかの情報収集は勿論のこと、信頼関係を築き利用者が訴えや要望を言いやすい環境を作ることが大切だと考える。そこから得られた「想」いに親身になって考え、そして関わることで初めて利用者様のQOLにアプローチできるのだと考える。
 これからも利用者様、ご家族様から『ひまわりで良かった』と思っていただけるように、利用者の想いに寄り添う施設であり続けるよう努力していきたい。