講演情報

[14-O-A008-03]「トイレでの事故報告がゼロになるまで」

*松原 隆行1 (1. 千葉県 医療法人徳洲会介護老人保健施設成田富里徳洲苑)
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トイレで起きてしまう事故をなくす事を目的とし、便座に着座された利用者様にコールを押して頂けるよう手紙を渡す対策を実践し、これまで押す事のなかった利用者様がコールを押してくれるようになった。タイマーを設置し安全な見守りを行えるようにしたところ、便ショックにより意識消失された利用者様を早期に発見できた対策を講じ令和5年10月から現在に至るまで、トイレでの事故報告がゼロになった二つの対策について報告する。
【はじめに】
当施設には4フロアあり、私はその内の在宅復帰を目指す利用者様が多く入所されている、入所者数50床のフロアに在籍しています。利用者様の多くは、会話による意思疎通が良好で、自立度の高い方々ではありますが、トイレでの立ち上がりやズボンの上げ下ろしには一部介助が必要であり、認知により短期の記憶が難しい利用者様も多く生活されています。介護職員は、本人のペースで過ごされる利用者様のご要望にお応えする業務に追われ、特に食後は、フロアにある7つのトイレのコールが鳴り止まない状況の中、コールを押す事無く立ち上がる利用者様の見守りが必須となっていました。そんな状況の中トイレでの転倒や、便ショックにより意識消失された利用者様の発見が遅れるなどの事故報告が上がり、その再発防止策としてあげられた対策を講じたところ、トイレによる事故がなくなったという事案を報告します。
【目的】
トイレでの転倒を防ぐ事。血圧の変動により意識が遠のくなど、何らかの理由によりコールが押せなくなった利用者様を早期に発見する事。利用者様のプライバシーを可能な限り保護する為の取り組み。
【方法】
対象者:トイレを使用される利用者様(自立の利用者様を除く)。
1.トイレ動作に介助を要する方で、コールを押す事を忘れてしまうご利用者様に対して、「立ち上がる前にコールを押して下さい。」と書いたお手紙を、トイレに着座された際に手渡しする対応を実施。
2・全てのトイレにマグネット式のタイマーを表のドアに常備し、職員はトイレから離れる際に1分~3分のアラームをスタートさせる。職員はタイマーのアラームを利用者様の押すコールと同様に捉え、ご利用者様の様子確認を行う事とする。
【結果】
・お手紙を手渡しする対応を実施したご利用者様の内、6名の利用者様がコールを押して頂ける様になった。
・お手紙を手渡しする対応を実施したご利用者様の内、4名のご利用者様は、手紙を折りたたんでしまう、ポケットにしまうなどされ、指示を忘れてしまい、コールを押す事が出来なかったが、タイマーにより、排泄後、立ち上がろうとされる利用者様の動きをキャッチすることが出来た。立ち上がっている状況まで発見が遅れてしまった際は、職員間で情報の共有を行い、以降のトイレ時のタイマーの間隔を短く設置する事で、立ち上がり前に様子観察を行える様になった。
・お手紙を手渡しする対応を実施した利用者様の内、1人の利用者様は、「コール」の意味が分からなかった為、「コール」の表記を「呼び出しボタン」と書き換え、トイレのコールの絵を書き足した所、押して頂ける様になった。
・タイマーの設置により、便ショックの意識消失があった利用者様を早期発見する事が出来、迅速な対応を行う事が出来た。
・本件の対策以降、トイレでの事故報告は現在まで上がっていない。
【考察】
・利用者様への手渡しによる手紙には、よりご本人へ向けたメッセージである事を自覚することが出来た為、利用者様からのコールにつながったと考える。また、短期の記憶が難しい利用者様でも、手紙として手渡されたことにより、指示が継続して記憶されていると考える。
・タイマーの使用により、決まった間隔で様子観察を行える為、利用者様の立ち上がりや、血圧変動による意識消失を早期に発見することが出来た。
・コールを押して頂けるようになった利用者様に関しては、利用者様の排泄中に職員が様子観察を行う時間や回数が減少し、利用者様の羞恥心への配慮やプライバシー保護につながったと考える。
・職員間で対応を周知、実践し、利用者の変化への気づき成功体験を共有できた事は職員のスキルアップ、意欲向上につながったと考える。
【結論】
・これまで、トイレでの事故を防ぐために様々な再発防止策を講じてきた中に、トイレ内にコールを押して頂くための張り紙と共に都度の声かけを実践してきたが、良好な効果は得られず「コールを押して欲しい」という要望は認知の方には伝わらないのではと諦めかけていた。しかし、手紙を手渡しする事で利用者様は自分に宛てた特別なメッセージだと感じ、「自分ではなく皆に伝えているもの。」から「皆ではなく、自分に伝えているもの。」だと理解して頂けたのだと考える。また、タイマー活用以前にはトイレ介助後その場を離れる際は別の職員へ伝達する事を周知し対応していたが、別の業務に追われる中でトイレに座って頂いている事を忘れてしまう事があり、転倒の事故が起きた際には職員が責任を感じ胸を痛めてしまう事もあった。今回のタイマーの活用には、「誰でも忘れてしまう事がある。」事を認め、忘れたとしても気づく事が出来る対策になったのではと考える。今後も利用者様の出来る事を模索しながら、事故のない安心できる生活を支援していきたいと考える。