講演情報
[14-O-A008-08]3Dプリンタを用いた『あたりまえ』生活の支援
*土田 祥貴1、篠田 賢治1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設アルマ・マータ)
ご利用者の生活支援および業務改善に3Dプリンタを利用した事例の紹介。ニーズに応えるための観察と考察、当事者とのコミュニケーションの重要性に気付いた事例を発表します。
【はじめに】
介護老人保健施設アルマ・マータは入所定員100名(ショートステイ含む)・通所リハビリテーション定員35名の規模で1997年(平成9年)8月に事業を開始しました。当施設の理念である『あなたらしい当たり前の生活を笑顔と真心で支えます』をかなえる手段の一つとして、ご利用者の生活ニーズに合わせた自助具・補助具を3Dプリンタで製作・提供し、“していること”をより簡単に、“やりたかったこと”が普通にできるようになることを目標としておこなっている取り組みについて発表いたします。3Dプリンタという装置の存在は知っていたものの、まったく触れたことがありませんでしたが、中部学院大学の研究活動の一環として2022年11月に開催された“介護現場職員向け福祉用具等作成プログラム”に参加する機会をいただき、3Dプリンタの活用方法を学ぶことができました。そこで得た知識と経験をご利用者の生活の質向上に還元できるのではないかと報告したところ、施設の理解を得られ、機器の導入がかないました。
【事例1】
最初の取り組みは“ツノ付きボタン”です。ともすれば私自身もやり直すことのある洋服のボタン留めですが、ボタンホール側にガイドとなる小さな突起を付ければ、片手でしか出来ない“袖口のボタン”も差し込みやすくなります。すべてのボタンを取り替えたシャツをデイケアご利用者に練習用として使っていただいています。あるときデイケア職員から「このシャツで練習されている男性ご利用者から、『麻雀仲間に、“いつから牌を積めるようになったんだ?”と言われ、指先が器用になっていることに気付いた』という話をしていただいたよ。それを聞いて、練習を薦めていた私も嬉しくなっちゃってさぁ」と、副次的な効果の表れを伝えていただけました。
【事例2】
水分補給だけでなく、楽しみとして飲みたい。あるデイケアの女性ご利用者は左側に麻痺があり、独居で生活されています。ボトルの飲料がお好きな方で、既製品のキャップ開封器具を腿で挟んで固定し、右手でキャップを回して開けておられるとのこと。もっと手軽に片手だけで開封できる器具を作製し提供しました。「私ね、これでTちゃん(右側麻痺の女性)のフタも開けてあげているのよ」と、“している”から“してあげられる”という社会性をもった効力感・有用感の表出がみられたことはとても嬉しく、また、自助具がもたらす行動変容の可能性も感じました。応用版として製作した“アルミ製キャップ”のボトル飲料を開封する器具も、使用感に満足していただくことが出来ました。毎日お使いただいている様子で、先日すり減ったゴムバンド交換のご依頼をいただきました。“あたりまえ”に使っていただけているのでしょう。
【事例3】
業務に関する器具の作製もおこなっています。素材の強度を超えない負荷・用途であれば、製造終了するなどして入手困難となった補修部品を3Dプリンタで再現し、使い続けることが可能です。あるいは現場の要望に応えるべく、“無いもの”を創り出すこともできるかもしれません。たとえば、テーブル天板のフチに接着する杖ホルダーですが、直接着けてしまうとテーブル同士を繋げて使うことが出来なくなるため、取り外しできるアダプターを製作しました。
【考察】
私たちが普段、何気なくしている事も、ある人にとってはそれ自体が一つの作業となっている事があります。ともすれば長い時間をその状態で過ごされ、“しかたのないこと”として手続き化しているのかもしれません。生活の様子を観察し、気付き、問いかけて得られた答えの中にそうした“しかたなさ”が軽減・解消するかもしれない課題を探します。
試作品がそのまま完成品となることは、まずありません。使い心地や、その人なりの要望を聞かせていただきながら改良を重ねていきます。また、ハート型などの意匠を取り入れ、使う楽しさ、愛着を持っていただくための工夫もしています
【まとめ】
3Dプリンタや設計支援アプリは習熟すると便利な道具ではありますが、それらを用いる目的の主語であり主役はご利用者です。何らかの支援を必要とされる方と対話を重ねて作り上げた器具だけでなく、「できた!」と言っていただけるまでにおこなう観察と評価・分析なども、より良い生活支援につながる道具の一つとなるのだなと感じています。
介護老人保健施設アルマ・マータは入所定員100名(ショートステイ含む)・通所リハビリテーション定員35名の規模で1997年(平成9年)8月に事業を開始しました。当施設の理念である『あなたらしい当たり前の生活を笑顔と真心で支えます』をかなえる手段の一つとして、ご利用者の生活ニーズに合わせた自助具・補助具を3Dプリンタで製作・提供し、“していること”をより簡単に、“やりたかったこと”が普通にできるようになることを目標としておこなっている取り組みについて発表いたします。3Dプリンタという装置の存在は知っていたものの、まったく触れたことがありませんでしたが、中部学院大学の研究活動の一環として2022年11月に開催された“介護現場職員向け福祉用具等作成プログラム”に参加する機会をいただき、3Dプリンタの活用方法を学ぶことができました。そこで得た知識と経験をご利用者の生活の質向上に還元できるのではないかと報告したところ、施設の理解を得られ、機器の導入がかないました。
【事例1】
最初の取り組みは“ツノ付きボタン”です。ともすれば私自身もやり直すことのある洋服のボタン留めですが、ボタンホール側にガイドとなる小さな突起を付ければ、片手でしか出来ない“袖口のボタン”も差し込みやすくなります。すべてのボタンを取り替えたシャツをデイケアご利用者に練習用として使っていただいています。あるときデイケア職員から「このシャツで練習されている男性ご利用者から、『麻雀仲間に、“いつから牌を積めるようになったんだ?”と言われ、指先が器用になっていることに気付いた』という話をしていただいたよ。それを聞いて、練習を薦めていた私も嬉しくなっちゃってさぁ」と、副次的な効果の表れを伝えていただけました。
【事例2】
水分補給だけでなく、楽しみとして飲みたい。あるデイケアの女性ご利用者は左側に麻痺があり、独居で生活されています。ボトルの飲料がお好きな方で、既製品のキャップ開封器具を腿で挟んで固定し、右手でキャップを回して開けておられるとのこと。もっと手軽に片手だけで開封できる器具を作製し提供しました。「私ね、これでTちゃん(右側麻痺の女性)のフタも開けてあげているのよ」と、“している”から“してあげられる”という社会性をもった効力感・有用感の表出がみられたことはとても嬉しく、また、自助具がもたらす行動変容の可能性も感じました。応用版として製作した“アルミ製キャップ”のボトル飲料を開封する器具も、使用感に満足していただくことが出来ました。毎日お使いただいている様子で、先日すり減ったゴムバンド交換のご依頼をいただきました。“あたりまえ”に使っていただけているのでしょう。
【事例3】
業務に関する器具の作製もおこなっています。素材の強度を超えない負荷・用途であれば、製造終了するなどして入手困難となった補修部品を3Dプリンタで再現し、使い続けることが可能です。あるいは現場の要望に応えるべく、“無いもの”を創り出すこともできるかもしれません。たとえば、テーブル天板のフチに接着する杖ホルダーですが、直接着けてしまうとテーブル同士を繋げて使うことが出来なくなるため、取り外しできるアダプターを製作しました。
【考察】
私たちが普段、何気なくしている事も、ある人にとってはそれ自体が一つの作業となっている事があります。ともすれば長い時間をその状態で過ごされ、“しかたのないこと”として手続き化しているのかもしれません。生活の様子を観察し、気付き、問いかけて得られた答えの中にそうした“しかたなさ”が軽減・解消するかもしれない課題を探します。
試作品がそのまま完成品となることは、まずありません。使い心地や、その人なりの要望を聞かせていただきながら改良を重ねていきます。また、ハート型などの意匠を取り入れ、使う楽しさ、愛着を持っていただくための工夫もしています
【まとめ】
3Dプリンタや設計支援アプリは習熟すると便利な道具ではありますが、それらを用いる目的の主語であり主役はご利用者です。何らかの支援を必要とされる方と対話を重ねて作り上げた器具だけでなく、「できた!」と言っていただけるまでにおこなう観察と評価・分析なども、より良い生活支援につながる道具の一つとなるのだなと感じています。