講演情報
[14-O-L001-02]認知・精神機能改善と施設生活の充実を目指した活動認知症棟入所者に対する小集団活動の効果について
*平本 永里子1、中庭 博美1、廣岡 優一1、細見 ゆかり1、伊藤 健1 (1. 兵庫県 介護老人保健施設咲楽荘)
当施設の認知症専門棟に入所している約40名の利用者に対し、認知・精神機能改善や施設生活の充実を考慮した目標の立案・リハビリを実施し、多職種間にてその評価を行った。リハビリプログラムとして、園芸活動や作業活動、小集団活動を継続的に実施したところ自己肯定感の向上やモチベーションの向上に繋がり、利用者に対し前向きな変化がみられた。当該活動による利用者の生活の質や認知機能面への影響をここに報告する。
【はじめに】
当施設は入所100床のうち40床が認知症専門棟である。理学療法士・作業療法士14名のうち理学療法士3名が主に認知症専門棟を担当している(うち2名は一般棟との兼務)。これまで身体機能面や動作レベルの向上に重きを置いた目標を立て個別リハビリテーション(以下リハビリ)を中心に介入をしていたが利用者の認知機能に対する変化は認められなかった。また入所期間が長期化する利用者も多いことから施設生活の質が向上できるように介入するべきではないかと考えた。以前よりリハビリプログラムの一環として小集団もしくは個別での園芸活動や作業活動を断続的に実施していたが、その際に利用者の表情変化や、意欲面の向上がみられていた。その為継続的に園芸活動や作業活動を行うことにより達成感やストレスの緩和に繋がり、利用者の認知症の行動・心理症状(以下BPSD)の軽減や生活の質(以下QOL)の向上が図れるのではないかと考えた。そこで今回これまでの目標に加え、利用者の認知機能・精神機能の改善や施設生活の充実を考慮した目標の立案と利用者のこれまでの生活や嗜好、認知・身体機能面に合わせたプログラムを立案・実施した。高齢化・重症化していく中で試行錯誤している取り組み内容について紹介する。
【期間】
令和6年3月12日~令和6年5月31日
【対象者】
介護老人保健施設認知症専門棟に入所する40名のうち、(1)園芸活動(2)作業活動(3)小集団訓練が可能な20名。
【方法】
リハビリテーションプログラムとして以下3種の活動を行った。
(1)園芸活動(畑の造設。野菜・花の植え付け~収穫。草引き。作物の観察。収穫した野菜の試食・調理。)4名程度の小集団もしくは個別にて実施。1回20分~60分の介入を週1回実施。
(2)作業活動(季節ごとの作品作りや洗濯物たたみ、食器拭き等の手作業。)利用者の作業能力に応じた余暇時間での提供。2~8名程度の小集団もしくは個別にて実施。30分以上の作業を1日1回。週5回実施。
(3)小集団活動(屋外での集団体操、ふまねっと、リズム体操。)4~7名程度の小集団にて実施。1回20分程度の介入を週1回実施。
月1回、理学療法士間で上記活動中における利用者の様子や活動内容、対象者の構成についての検討や情報共有を行った。
【評価方法】
意欲の指標としてVitality index(以下VI)、生活の質の指標としてQUALITY OF LIFE-STAGE DEMENTIA(以下QUALID)、BPSDの指標として認知症行動障害尺度(以下DBD)、認知機能の指標として長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を使用した。VI、QUALID、DBDについては各担当理学療法士が看護・介護職との情報交換を対面もしくは電子カルテを通して行った。統計解析は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。
【結果】
VIについては介入前の平均は7.15点、介入後の点数は7.65点であり有意差はみられなかった。(p>0.05)
QUALIDについては介入前の平均は20.1点、介入後は17.25点であり有意差がみられた。(p<0.05)
DBDについては介入前の平均は18.6点、介入後の点数は17.3点であり有意差はみられなかった。(p>0.05)
HDS-Rについては介入前の平均は8.1点、介入後は9.3点であり有意差がみられた。(p<0.05)
【考察】
認知症専門棟に入所している利用者に対し、認知・精神機能や施設生活の充実を考慮した目標の立案・リハビリを実施し、その評価を行った。その結果から、QUALIDとHDS-Rは介入後有意に改善が認められた。利用者の過去の生活に関わりのある園芸活動・作業活動などを立案することで参加に対する導入・動機づけが行いやすく、介入時に喜びの声や意欲的な場面が多くあった。また見当識への働きかけを目的に季節に応じた作品作りや屋外での園芸活動を行った。その結果、介入時に利用者自身がこれまでに培った知識・経験が想起され、それに加え小集団にて活動を行ったことで利用者間でのコミュニケーションが活発化し思考力を向上させたと考える。また園芸療法にて実際に植物の植え付け・観察・収穫・調理に関わることで愛着や満足感に繋がり、ストレスの緩和に繋がったと考えられる。
VIとDBDについては、結果から有意な差がみられなかった。しかし、小集団活動や作業活動を実施する中で利用者間で話し合いながら役割分担を行う、他者の運動を見て声かけを行う等の社会的交流を図ることができた。小集団活動では実施後にスタンプカードを渡した。参加ごとにスタンプを押し10回達成すると記念品を贈呈した。このことにより参加回数が目視できるようになり、「こんなに参加しとったんやな。頑張っとるな。」等の声が聞かれ、自己肯定感の向上や利用者間でのモチベーションの向上に繋がった。また活動に対し受動的である利用者が、他者が行う活動を見て「私もやるわ」と自発的に参加される場面がみられ、介入前と比較し利用者の意欲を向上させることができた。
【おわりに】
今回、認知症専門棟に入所している利用者に対して、園芸活動や作業活動等を行うことにより意欲・生活の質を向上させることが示唆された。また、小集団での活動が利用者同士の相互作用を生み、認知機能に良好な影響を与えるという副次的な効果も見られた。近年、厚生労働省による「認知症リハビリテーションに関連する意見」にて「活動・参加という目的を明確化したうえで、集団リハビリテーションも含め、個々にふさわしいプログラム、サービス提供のあり方の検討が必要である」と報告されている。今後は活動そのものの影響に加えて利用者同士の相互作用にも着目し、個々にふさわしいプログラムとしての有効な小集団活動を継続し観察・評価を行うことが必要と考える。
当施設は入所100床のうち40床が認知症専門棟である。理学療法士・作業療法士14名のうち理学療法士3名が主に認知症専門棟を担当している(うち2名は一般棟との兼務)。これまで身体機能面や動作レベルの向上に重きを置いた目標を立て個別リハビリテーション(以下リハビリ)を中心に介入をしていたが利用者の認知機能に対する変化は認められなかった。また入所期間が長期化する利用者も多いことから施設生活の質が向上できるように介入するべきではないかと考えた。以前よりリハビリプログラムの一環として小集団もしくは個別での園芸活動や作業活動を断続的に実施していたが、その際に利用者の表情変化や、意欲面の向上がみられていた。その為継続的に園芸活動や作業活動を行うことにより達成感やストレスの緩和に繋がり、利用者の認知症の行動・心理症状(以下BPSD)の軽減や生活の質(以下QOL)の向上が図れるのではないかと考えた。そこで今回これまでの目標に加え、利用者の認知機能・精神機能の改善や施設生活の充実を考慮した目標の立案と利用者のこれまでの生活や嗜好、認知・身体機能面に合わせたプログラムを立案・実施した。高齢化・重症化していく中で試行錯誤している取り組み内容について紹介する。
【期間】
令和6年3月12日~令和6年5月31日
【対象者】
介護老人保健施設認知症専門棟に入所する40名のうち、(1)園芸活動(2)作業活動(3)小集団訓練が可能な20名。
【方法】
リハビリテーションプログラムとして以下3種の活動を行った。
(1)園芸活動(畑の造設。野菜・花の植え付け~収穫。草引き。作物の観察。収穫した野菜の試食・調理。)4名程度の小集団もしくは個別にて実施。1回20分~60分の介入を週1回実施。
(2)作業活動(季節ごとの作品作りや洗濯物たたみ、食器拭き等の手作業。)利用者の作業能力に応じた余暇時間での提供。2~8名程度の小集団もしくは個別にて実施。30分以上の作業を1日1回。週5回実施。
(3)小集団活動(屋外での集団体操、ふまねっと、リズム体操。)4~7名程度の小集団にて実施。1回20分程度の介入を週1回実施。
月1回、理学療法士間で上記活動中における利用者の様子や活動内容、対象者の構成についての検討や情報共有を行った。
【評価方法】
意欲の指標としてVitality index(以下VI)、生活の質の指標としてQUALITY OF LIFE-STAGE DEMENTIA(以下QUALID)、BPSDの指標として認知症行動障害尺度(以下DBD)、認知機能の指標として長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)を使用した。VI、QUALID、DBDについては各担当理学療法士が看護・介護職との情報交換を対面もしくは電子カルテを通して行った。統計解析は対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。
【結果】
VIについては介入前の平均は7.15点、介入後の点数は7.65点であり有意差はみられなかった。(p>0.05)
QUALIDについては介入前の平均は20.1点、介入後は17.25点であり有意差がみられた。(p<0.05)
DBDについては介入前の平均は18.6点、介入後の点数は17.3点であり有意差はみられなかった。(p>0.05)
HDS-Rについては介入前の平均は8.1点、介入後は9.3点であり有意差がみられた。(p<0.05)
【考察】
認知症専門棟に入所している利用者に対し、認知・精神機能や施設生活の充実を考慮した目標の立案・リハビリを実施し、その評価を行った。その結果から、QUALIDとHDS-Rは介入後有意に改善が認められた。利用者の過去の生活に関わりのある園芸活動・作業活動などを立案することで参加に対する導入・動機づけが行いやすく、介入時に喜びの声や意欲的な場面が多くあった。また見当識への働きかけを目的に季節に応じた作品作りや屋外での園芸活動を行った。その結果、介入時に利用者自身がこれまでに培った知識・経験が想起され、それに加え小集団にて活動を行ったことで利用者間でのコミュニケーションが活発化し思考力を向上させたと考える。また園芸療法にて実際に植物の植え付け・観察・収穫・調理に関わることで愛着や満足感に繋がり、ストレスの緩和に繋がったと考えられる。
VIとDBDについては、結果から有意な差がみられなかった。しかし、小集団活動や作業活動を実施する中で利用者間で話し合いながら役割分担を行う、他者の運動を見て声かけを行う等の社会的交流を図ることができた。小集団活動では実施後にスタンプカードを渡した。参加ごとにスタンプを押し10回達成すると記念品を贈呈した。このことにより参加回数が目視できるようになり、「こんなに参加しとったんやな。頑張っとるな。」等の声が聞かれ、自己肯定感の向上や利用者間でのモチベーションの向上に繋がった。また活動に対し受動的である利用者が、他者が行う活動を見て「私もやるわ」と自発的に参加される場面がみられ、介入前と比較し利用者の意欲を向上させることができた。
【おわりに】
今回、認知症専門棟に入所している利用者に対して、園芸活動や作業活動等を行うことにより意欲・生活の質を向上させることが示唆された。また、小集団での活動が利用者同士の相互作用を生み、認知機能に良好な影響を与えるという副次的な効果も見られた。近年、厚生労働省による「認知症リハビリテーションに関連する意見」にて「活動・参加という目的を明確化したうえで、集団リハビリテーションも含め、個々にふさわしいプログラム、サービス提供のあり方の検討が必要である」と報告されている。今後は活動そのものの影響に加えて利用者同士の相互作用にも着目し、個々にふさわしいプログラムとしての有効な小集団活動を継続し観察・評価を行うことが必要と考える。