講演情報

[14-O-L001-03]ZOOMを活用した音楽療法の取り組み

*佐藤 紘子1 (1. 東京都 介護老人保健施設 デンマークイン若葉台)
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コロナ禍において、対面ではなくても音楽療法を継続できる方法を企画し実施したので報告する。ZOOMを用いてフロアとつなぎ、感染予防対策を講じながら、小集団音楽療法を実施する。課題は残るものの、ZOOMを活用して音楽療法を実施することは可能であり、音楽療法士が意図する反応の一部を引き出すことができた。どのような状況にあっても活動を提供すること、また現在から振り返り気づいたことを報告する。
【はじめに】
「音楽によって行動が起こり、心が動くと、脳活性や日常生活の活性化につながる(長谷部ら)」ことを目的に集団、個別による音楽療法を行ってきた。コロナ禍においても、感染対策を講じながら音楽療法を実施していたが、2022年7月の大規模なクラスターの発生後、実施できない期間が続いたため、対面ではなくても音楽療法が継続できるよう、ZOOMを活用した音楽療法を企画し実施した。2023年5月までの取り組みについて報告する。
コロナが5類に移行してからは、対面にて集団、個別音楽療法を再開している。現時点からZOOMでの音楽療法を再考する。
【実施手順と方法】
音楽療法士(以下MT)はZOOMの予約を取り、訓練室にタブレット、三脚、キーボードなどをセッティング。リハビリスタッフはフロアにパソコン、HDMIケーブル、模造紙の歌詞カードを持参しセッティング。場所はフロア食堂。活動時間は15分。参加者は音楽グループのメンバーを中心に15名程度。日常生活の活性化、発声の促し、気分転換、活動参加の促しなどを目的に、挨拶、ストレッチ、歌唱、楽器活動、話題提供、次回予告などを実施。MTが進行、リハビリスタッフがフロアにて活動補助、利用者様に介入する。感染予防対策として、利用者様は距離をとり、同一方向で着席、マスク着用とした。
【取り組みの経過】
2022年8~9月、試験的実施。個別音楽療法は、ZOOMの音のずれにより、合わせることが難しい。環境設定、機材面、利用者様の状態などにおいてZOOM対応が難しく、実施困難。集団音楽療法は、タブレットから聞こえる伴奏に合わせて歌唱や楽器活動を行うことができるが、コミュニケーションは一方通行気味。課題として、MT側は、自分が発している音と聞こえてくる音にずれがある。利用者様の状態把握、細やかなアプローチ、画面越しのコミュニケーションの難しさがある。利用者様は、初の試みに戸惑いがある。座席の位置関係のため、声が遠く、MT側に聞こえない。通信面として、話し声は聞こえるが、伴奏は途切れるまたは聞こえないことや通信が途切れることがある。機材面として、音量、画面の小ささがある。
これらの課題を解決するために、MT側は、聞こえてくる音を気に留めずに演奏をする、利用者様の様子を推測してテンポやキーを調整する、名前を呼んでコミュニケーションを図る。フロアでは、リハビリスタッフが介入し、利用者様の声を伝える。通信面では、ZOOMでの音楽仕様の設定をする。機材面では、フロアにパソコンを持参し、テレビとつなぐ。
2022年10月~2023年5月、集団音楽療法は対面に近い形での実施ができる。しかし、利用者様の状態把握や細やかなアプローチ、画面越しのコミュニケーションには難しさが残り、リハビリスタッフとの連携、情報共有、利用者様の状態把握に努めることが必要である。
【結果及びまとめ】
ZOOMを活用し、音楽療法を継続して提供することは可能であった。画面越しで見られる様子やリハビリスタッフから聞く利用者様の様子から、MTが意図する反応の一部を引き出すことができた。しかし、対面で実施するときのような一人一人に合わせた細やかなアプローチや画面越しのコミュニケーションの難しさが課題として残り、その点では、リハビリスタッフとの連携の強化、機材面などの検討がさらに必要である。
【おわりに】
現時点から振り返り、ZOOM活用時の課題において対面に勝るものはない。ZOOMを活用した音楽療法を経験したからこそ、改めて対面でのコミュニケーション、アプローチの必要性を強く感じ、現在の音楽療法につなげている。今回の経験を通し、どのような状況であっても活動を提供するということは、利用者様の生活を支える上で大切なことである。できる限り対面実施に近い反応を引き出すために、リハビリスタッフとの連携、目的を持った働きかけ、環境設定など一つ一つの課題に取り組みながら、全スタッフと協力し、最善の方法を模索していきたい。