講演情報
[14-O-L001-04]心理的ニーズに着目した集団園芸療法の取り組み
*水本 良美1、佐々木 悠1、濱田 晃禎1、尾崎 敏枝1 (1. 和歌山県 介護老人保健施設和佐の里)
施設入所中の認知症をもつ人が心理的ニーズを満たしwell-beingになるように関わる必要があると考えた。作業療法士と園芸療法士が協力し、心理的ニーズが満たされwell-beingになることを目的とした集団での園芸活動を実施した。入所時よりill-beingがみられた事例は、活動に参加したことで心理的ニーズが満たされ、活動中はwell-beingがみられ、施設生活やリハビリ場面での言動にも一部変化をもたらした。
【はじめに】
パーソン・センタード・ケアを提唱したKitwoodによると、認知症をもつ人が心理的ニーズを満たせないと本人の状態に悪影響を及ぼし、ill-being(よくない状態)につながる。心理的ニーズを満たしwell-being(よい状態)が維持されることで認知症が進行したとしてもパーソンフッド(一人の人として認められ尊重されること)を維持する働きかけが認知症ケアにおいて重要となると報告されている。
また、鈴木ら(2012)によると施設入所している認知症をもつ人たちは、物理的にも社会的にも関わりや携わりの機会に乏しい環境に置かれていることが多く、本人のwell-beingや予後にもさまざまな形で重大な影響を及ぼす可能性があると述べている。
【目的】
施設入所中の認知症をもつ人が心理的ニーズを満たしwell-beingになるように関わる必要があると考えた。今回は「くつろぎ」「結びつき」「共にあること」「たずさわること」の心理的ニーズが満たされ、well-beingになることを目的に、作業療法士(以下OT)と園芸療法士(以下HT)が協力し、集団での園芸活動を実施した。その取り組み内容と事例を含めた考察を報告する。なお、発表に際し家族の同意を得ている。
【方法】
対象:ill-being(不安、退屈、無気力、非常に強い怒り、誰からも相手にされないこと等)、園芸に興味がある
スタッフ:OT2名、HT1名
活動内容:苗の植え替え、種まき等
時間:1組60分
頻度:週1回
連携:HTは活動全体の補助を行う。次回の活動に活かすため、毎回活動後にOTとHT共にフィードバックを実施
グループ:交流組(OT1名:3名×2組)、お手伝い組(OT1名:3名×2組)
・交流組
目的:心理的ニーズの「くつろぎ」「結びつき」が満たされる
目標:活動によって結びつきを感じながら楽しく過ごす
活動の流れ:開始の挨拶(集団への参加の意識付け)→自己紹介(交流のきっかけ)→作業内容の説明・実施(協力して作業)→回想(交流の機会)→締めの挨拶(次回へつなげる言葉かけ)
評価:活動前後の表情や活動中の交流の様子を評価。参加者の表情や身体の動きなどの非言語的な表現を観察する
・お手伝い組
目的:心理的ニーズの「共にあること」「たずさわること」が満たされる
目標:集団の一員として他者(スタッフ・仲間)の手伝いや主体的に作業を行い、達成感や満足感を得る
活動の流れ:活動参加への声掛け(お手伝いへの意識付け)→開始の挨拶→作業内容の説明(全員で達成するノルマの確認)→準備運動(作業意欲を高める)→実施(協力してノルマ達成)→片付け(達成感の意識付け)→締めの挨拶(感謝と次回の約束)
評価:活動中の様子や立ち振る舞い、感情表出を評価。参加者の表情や身体の動きなどの非言語的な表現を観察する
【事例】
氏名:A氏 性別:女性 年齢:90歳代 入所日:X-3年
介護度:要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度:IIIa 日常生活自立度:B1
疾患名:認知症、硬膜下血腫
生活歴:農業をして過ごし、他者と話をすることが好きだった
交流組開始時(X年):
BI:20点
MMSE:12/30点
施設生活の様子:起居移乗動作は介助が必要であり、大声の拒否や興奮する様子がみられた。デイルームでは下を向いて過ごしており、「死にたい」等の悲観的な発言が聞かれた。
リハビリ時の様子:一部介助で歩行器歩行100mを実施するが、拒否が多い。
交流組での様子:自己紹介や回想時の声掛けに対して「知らん」などの否定的な発言が多く、作業は時折自発的に行うが、すぐにやめてしまうため促しが必要。締めの挨拶時は反応なく、活動を通して注意散漫で、笑顔は少ない。
経過:X年+3ヶ月、交流組において、新たに名札を着用することを取り入れた活動開始
現在(X+1年):
BI・MMSE:変化なし
施設生活の様子:起居移乗動作は促しにて実施。大声の拒否や興奮、悲観的な発言は減少した。自宅へ退所することに対して前向きな発言が聞かれた。
リハビリ時の様子:一部介助で歩行器歩行100mを2回実施できるようになり、拒否はほとんどなく時折笑顔がみられるようになった。
交流組での様子:自己紹介の際は自ら名乗り、参加者の名札を読み上げる様子がみられた。作業や回想時に促しは必要だが、自発的な言動や参加者へ関心を示す場面があり、締めの挨拶では笑顔で返すようになった。活動中の注意散漫は軽減され、笑顔が増えた。
【考察】
A氏は入所時から無気力や不安、身体的な苦痛・不快感というill-beingがみられていた。社交的な性格であったことや馴染みある園芸を通してwell-beingになると考え、交流組での参加を導入した。
A氏が自己紹介や活動に対して自発的な言動が増えたのは、名札を着用することでお互いが認識され、交流しやすくなったためではないかと考える。そうしたことが親近感と安心感を得ることにつながった。馴染みある園芸作業と回想による快刺激と興味ある話題を参加者と共有することでさらに交流する機会が増え、A氏に好影響を与えた。これらの要因から「くつろぎ」「結びつき」の心理的ニーズが満たされ、well-beingがみられたと推測される。この活動を通して、A氏らしさを尊重することが出来たのではないかと考える。
A氏がこの活動を継続した結果、施設生活やリハビリ場面での言動にも変化をもたらしたと考える。
【まとめ】
交流組とお手伝い組のグループに分けてそれぞれ心理的ニーズが満たされることを目的とした活動を実施した結果、A氏以外の参加者も活動中はwell-beingがみられることが増えた。そのため、今後もこの活動を継続し、利用者にとって人との関わりやたずさわる機会が維持できるように支援をしていく必要性を感じている。
今後はBPSDの評価を行い、客観的に利用者の変化を追っていけるようにしたいと考える。
パーソン・センタード・ケアを提唱したKitwoodによると、認知症をもつ人が心理的ニーズを満たせないと本人の状態に悪影響を及ぼし、ill-being(よくない状態)につながる。心理的ニーズを満たしwell-being(よい状態)が維持されることで認知症が進行したとしてもパーソンフッド(一人の人として認められ尊重されること)を維持する働きかけが認知症ケアにおいて重要となると報告されている。
また、鈴木ら(2012)によると施設入所している認知症をもつ人たちは、物理的にも社会的にも関わりや携わりの機会に乏しい環境に置かれていることが多く、本人のwell-beingや予後にもさまざまな形で重大な影響を及ぼす可能性があると述べている。
【目的】
施設入所中の認知症をもつ人が心理的ニーズを満たしwell-beingになるように関わる必要があると考えた。今回は「くつろぎ」「結びつき」「共にあること」「たずさわること」の心理的ニーズが満たされ、well-beingになることを目的に、作業療法士(以下OT)と園芸療法士(以下HT)が協力し、集団での園芸活動を実施した。その取り組み内容と事例を含めた考察を報告する。なお、発表に際し家族の同意を得ている。
【方法】
対象:ill-being(不安、退屈、無気力、非常に強い怒り、誰からも相手にされないこと等)、園芸に興味がある
スタッフ:OT2名、HT1名
活動内容:苗の植え替え、種まき等
時間:1組60分
頻度:週1回
連携:HTは活動全体の補助を行う。次回の活動に活かすため、毎回活動後にOTとHT共にフィードバックを実施
グループ:交流組(OT1名:3名×2組)、お手伝い組(OT1名:3名×2組)
・交流組
目的:心理的ニーズの「くつろぎ」「結びつき」が満たされる
目標:活動によって結びつきを感じながら楽しく過ごす
活動の流れ:開始の挨拶(集団への参加の意識付け)→自己紹介(交流のきっかけ)→作業内容の説明・実施(協力して作業)→回想(交流の機会)→締めの挨拶(次回へつなげる言葉かけ)
評価:活動前後の表情や活動中の交流の様子を評価。参加者の表情や身体の動きなどの非言語的な表現を観察する
・お手伝い組
目的:心理的ニーズの「共にあること」「たずさわること」が満たされる
目標:集団の一員として他者(スタッフ・仲間)の手伝いや主体的に作業を行い、達成感や満足感を得る
活動の流れ:活動参加への声掛け(お手伝いへの意識付け)→開始の挨拶→作業内容の説明(全員で達成するノルマの確認)→準備運動(作業意欲を高める)→実施(協力してノルマ達成)→片付け(達成感の意識付け)→締めの挨拶(感謝と次回の約束)
評価:活動中の様子や立ち振る舞い、感情表出を評価。参加者の表情や身体の動きなどの非言語的な表現を観察する
【事例】
氏名:A氏 性別:女性 年齢:90歳代 入所日:X-3年
介護度:要介護4 認知症高齢者の日常生活自立度:IIIa 日常生活自立度:B1
疾患名:認知症、硬膜下血腫
生活歴:農業をして過ごし、他者と話をすることが好きだった
交流組開始時(X年):
BI:20点
MMSE:12/30点
施設生活の様子:起居移乗動作は介助が必要であり、大声の拒否や興奮する様子がみられた。デイルームでは下を向いて過ごしており、「死にたい」等の悲観的な発言が聞かれた。
リハビリ時の様子:一部介助で歩行器歩行100mを実施するが、拒否が多い。
交流組での様子:自己紹介や回想時の声掛けに対して「知らん」などの否定的な発言が多く、作業は時折自発的に行うが、すぐにやめてしまうため促しが必要。締めの挨拶時は反応なく、活動を通して注意散漫で、笑顔は少ない。
経過:X年+3ヶ月、交流組において、新たに名札を着用することを取り入れた活動開始
現在(X+1年):
BI・MMSE:変化なし
施設生活の様子:起居移乗動作は促しにて実施。大声の拒否や興奮、悲観的な発言は減少した。自宅へ退所することに対して前向きな発言が聞かれた。
リハビリ時の様子:一部介助で歩行器歩行100mを2回実施できるようになり、拒否はほとんどなく時折笑顔がみられるようになった。
交流組での様子:自己紹介の際は自ら名乗り、参加者の名札を読み上げる様子がみられた。作業や回想時に促しは必要だが、自発的な言動や参加者へ関心を示す場面があり、締めの挨拶では笑顔で返すようになった。活動中の注意散漫は軽減され、笑顔が増えた。
【考察】
A氏は入所時から無気力や不安、身体的な苦痛・不快感というill-beingがみられていた。社交的な性格であったことや馴染みある園芸を通してwell-beingになると考え、交流組での参加を導入した。
A氏が自己紹介や活動に対して自発的な言動が増えたのは、名札を着用することでお互いが認識され、交流しやすくなったためではないかと考える。そうしたことが親近感と安心感を得ることにつながった。馴染みある園芸作業と回想による快刺激と興味ある話題を参加者と共有することでさらに交流する機会が増え、A氏に好影響を与えた。これらの要因から「くつろぎ」「結びつき」の心理的ニーズが満たされ、well-beingがみられたと推測される。この活動を通して、A氏らしさを尊重することが出来たのではないかと考える。
A氏がこの活動を継続した結果、施設生活やリハビリ場面での言動にも変化をもたらしたと考える。
【まとめ】
交流組とお手伝い組のグループに分けてそれぞれ心理的ニーズが満たされることを目的とした活動を実施した結果、A氏以外の参加者も活動中はwell-beingがみられることが増えた。そのため、今後もこの活動を継続し、利用者にとって人との関わりやたずさわる機会が維持できるように支援をしていく必要性を感じている。
今後はBPSDの評価を行い、客観的に利用者の変化を追っていけるようにしたいと考える。