講演情報
[14-O-L001-05]ICFの活動と参加にコーヒーを応用した短期課題集団
*山岸 孝幸1 (1. 東京都 介護老人保健施設ゆうむ)
コロナ禍の感染予防の影響で入所者のICFの活動と参加に制限が生じている。特に男性利用者の孤立が目立った。問題解決のため五官(感覚受容器)と五感のつたわりに配慮した短期課題集団を実施した。内容には利用者の促進因子となるコーヒーを選択し、短期課題集団の目標である基本的信頼感、相互交流、相互援助を通してICFの活動と参加を促進する一助となったのでここに報告する。
【緒言】当施設は入所者数100名の加算型老健である。コロナ禍の感染予防から現在までレクリエーションや季節のイベントの縮小、ボランティアの受け入れの休止を継続しており、入所者の活動と参加に制限が生じている。これらの当施設の環境下では女性利用者に比べて男性利用者の孤立が目立った。山根1)は“私たちは言語体系、非言語体系によるコミュニケーションをはかっているが精神的な障害や発達上の障害により、言葉が記号として『つたえる』『わかりあう』機能をはたさない状態にある人や、認知症にみられるように一度身についた言葉の『つたえる』機能が失われた人とのかかわりにおいては、五官(感覚受容器)と感受される五感の生理的な共通性や個人的意味を有するモノなどが『つたわり』に大きな役割を果たす。”と述べている。今回は利用者のICFの活動と参加を促進することを目的に、精神科作業療法で用いられる短期課題集団をコーヒーに応用して実施した。
【方法】同一フロアの男性利用者(拒否のあった1名を除く)8名を選出した。実施期間は2023年4~6月。1時間のプログラムとして計3回実施した。平均年齢89.5歳(81歳~99歳)、平均要介護度2.25(要介護度1~4)、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)平均12.6点(7~22点)バーセルインデックス(BI)平均55.6点(20~85点)、認知症行動障害尺度(DBD)平均16.5点(5~23点)、Vitality Index(VI)平均6点(3~8点)、ShortQOL-D平均21.2点(17~29点)、ICFステージング平均45.2点(36~53点)であった。利用者の身体機能と認知機能に差異はあるが、基本的信頼感、相互交流、相互援助といった短期課題集団が持つ効果を得やすい環境に設定する。同一メンバーで定期的にプログラムを行うことで、お互いにその集まりに所属しているという相互認識が得られるようにした。利用者のレベルに合わせて作業工程の分割を行い五感の刺激やコミュニケーションが生まれやすい環境に設定することや、適切な道具を導入することで難易度の調整を行った。利用者8名に対してリハビリ職員が3名(1人が進行役で2人がサポート)で対応した。プログラムはリハビリ室で実施した。コーヒーのカフェインに配慮して睡眠に影響が出ない午前中に実施した。手順は、1手洗い、2作業工程の説明と役割分担、3コーヒーの生豆と焙煎後の豆を比較(触ったり嗅いだりする)、4豆の焙煎(利用者が手回しの焙煎機を使用して焙煎する)、5豆を挽く(利用者が手回しのミルを使用して粉砕する)、6コーヒーの抽出(浸漬式のドリッパーを使用するためドリップの技術が不要)、7コーヒーの取り分け、8試飲、9感想発表、とした。2の時はこの場に集まったメンバーで協力してコーヒー豆の焙煎とその抽出作業を行うということや、道具の使い方や注意点などを説明して「目標の共有と役割分担」を行った。3~9では「隣の利用者とコミュニケーションが生まれやすいように座席を配置」したり、「焙煎の工程が見えやすいように誘導」したり、試飲の時は相互交流が生まれやすいように「テーブルを囲む」ようにした。
【結果】短期課題集団をコーヒーに応用して実施した。内容を整理して取り組むことによって、五感を通した共有体験が生まれ利用者から様々な反応が得られた。コーヒーの抽出では作業を担当する利用者が浸漬式のドリッパーにお湯を注ぐ簡単な作業を想定していたが、1人の利用者がドリップコーヒーを淹れるようにケトルから円を描くようにゆっくりとお湯を注ぐ場面がみられた。そのことについて聞くと「以前はこうして近所の友達とコーヒーを淹れて飲んでいたのを思い出しました。」と返答した。感想発表の時間を設けていたが、テーブルを囲んでコーヒーを飲みながら自然と作業の振り返りや感想が話題になった。利用者からは、「あの生の豆からこんなに美味しいコーヒーが作れるとは思わなかった。」「豆が焼けるときの音や匂いが印象的だった。」「協力してコーヒーを作ることが楽しかった。」「焼きたてのコーヒーの良いにおいがした。」など今回のプログラムを振り返る話が多く聞かれた。また、プログラムからフロアに戻った後も利用者間でのコミュニケーションが行われていた。
【結論】今回は利用者のICFの活動と参加を促進する一助となることを目的に、コーヒーの生豆を焙煎して飲むというプログラムを短期課題集団として実施した。短期課題集団を通した相互の関りが利用者の精神機能活性化に有効であり、手続き記憶やエピソード記憶を引き出すこともできたと考える。身体機能や認知機能に差異があっても個々に役割が持てるように作業工程を分割して道具の工夫を行ったことで、五感での共有体験を通したコミュニケーションが活発に行われるようになったと考える。1960年に日本のコーヒー豆輸入の自由化、1961年にインスタントコーヒーの輸入自由化が行われた。今回の対象者が20代後半~30代とコーヒーに親しんだ世代であり、背景因子としてコーヒーは促進因子になったと考える。このプログラムを活用することによって利用者の施設生活環境下で数少ないICFの活動と参加を促進する一助となる可能性があると考える。昨今の介護保険では個別リハビリに重点が置かれているが、認知症の利用者が増加している現状では集団リハビリについても再評価していただく必要があると考える。
1)山根寛、ひとと集団・場 新版、三輪出版、2018、124-125
【方法】同一フロアの男性利用者(拒否のあった1名を除く)8名を選出した。実施期間は2023年4~6月。1時間のプログラムとして計3回実施した。平均年齢89.5歳(81歳~99歳)、平均要介護度2.25(要介護度1~4)、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)平均12.6点(7~22点)バーセルインデックス(BI)平均55.6点(20~85点)、認知症行動障害尺度(DBD)平均16.5点(5~23点)、Vitality Index(VI)平均6点(3~8点)、ShortQOL-D平均21.2点(17~29点)、ICFステージング平均45.2点(36~53点)であった。利用者の身体機能と認知機能に差異はあるが、基本的信頼感、相互交流、相互援助といった短期課題集団が持つ効果を得やすい環境に設定する。同一メンバーで定期的にプログラムを行うことで、お互いにその集まりに所属しているという相互認識が得られるようにした。利用者のレベルに合わせて作業工程の分割を行い五感の刺激やコミュニケーションが生まれやすい環境に設定することや、適切な道具を導入することで難易度の調整を行った。利用者8名に対してリハビリ職員が3名(1人が進行役で2人がサポート)で対応した。プログラムはリハビリ室で実施した。コーヒーのカフェインに配慮して睡眠に影響が出ない午前中に実施した。手順は、1手洗い、2作業工程の説明と役割分担、3コーヒーの生豆と焙煎後の豆を比較(触ったり嗅いだりする)、4豆の焙煎(利用者が手回しの焙煎機を使用して焙煎する)、5豆を挽く(利用者が手回しのミルを使用して粉砕する)、6コーヒーの抽出(浸漬式のドリッパーを使用するためドリップの技術が不要)、7コーヒーの取り分け、8試飲、9感想発表、とした。2の時はこの場に集まったメンバーで協力してコーヒー豆の焙煎とその抽出作業を行うということや、道具の使い方や注意点などを説明して「目標の共有と役割分担」を行った。3~9では「隣の利用者とコミュニケーションが生まれやすいように座席を配置」したり、「焙煎の工程が見えやすいように誘導」したり、試飲の時は相互交流が生まれやすいように「テーブルを囲む」ようにした。
【結果】短期課題集団をコーヒーに応用して実施した。内容を整理して取り組むことによって、五感を通した共有体験が生まれ利用者から様々な反応が得られた。コーヒーの抽出では作業を担当する利用者が浸漬式のドリッパーにお湯を注ぐ簡単な作業を想定していたが、1人の利用者がドリップコーヒーを淹れるようにケトルから円を描くようにゆっくりとお湯を注ぐ場面がみられた。そのことについて聞くと「以前はこうして近所の友達とコーヒーを淹れて飲んでいたのを思い出しました。」と返答した。感想発表の時間を設けていたが、テーブルを囲んでコーヒーを飲みながら自然と作業の振り返りや感想が話題になった。利用者からは、「あの生の豆からこんなに美味しいコーヒーが作れるとは思わなかった。」「豆が焼けるときの音や匂いが印象的だった。」「協力してコーヒーを作ることが楽しかった。」「焼きたてのコーヒーの良いにおいがした。」など今回のプログラムを振り返る話が多く聞かれた。また、プログラムからフロアに戻った後も利用者間でのコミュニケーションが行われていた。
【結論】今回は利用者のICFの活動と参加を促進する一助となることを目的に、コーヒーの生豆を焙煎して飲むというプログラムを短期課題集団として実施した。短期課題集団を通した相互の関りが利用者の精神機能活性化に有効であり、手続き記憶やエピソード記憶を引き出すこともできたと考える。身体機能や認知機能に差異があっても個々に役割が持てるように作業工程を分割して道具の工夫を行ったことで、五感での共有体験を通したコミュニケーションが活発に行われるようになったと考える。1960年に日本のコーヒー豆輸入の自由化、1961年にインスタントコーヒーの輸入自由化が行われた。今回の対象者が20代後半~30代とコーヒーに親しんだ世代であり、背景因子としてコーヒーは促進因子になったと考える。このプログラムを活用することによって利用者の施設生活環境下で数少ないICFの活動と参加を促進する一助となる可能性があると考える。昨今の介護保険では個別リハビリに重点が置かれているが、認知症の利用者が増加している現状では集団リハビリについても再評価していただく必要があると考える。
1)山根寛、ひとと集団・場 新版、三輪出版、2018、124-125