講演情報
[14-O-L001-06]集団リハビリとしてのクラブ活動の効果
*松山 武史1、井上 直子1 (1. 大阪府 介護老人保健施設うえのしば)
介護療養型老健入所者が集団リハビリとして作業療法や運動を入れたクラブ活動を行い、効果を検討した。体操、カラオケ、喫茶、手芸の4クラブを24週間実施した。結果、認知症行動障害の改善、認知面、意欲の改善傾向を認め、ADL自立度、認知症の有無で意欲、ADL、抑うつに改善差を認めた。集団活動で活動、他者との交流、会話が増加したことが要因で、ADL、認知能力による差は意欲低下、抑うつが関係すると考察された。
【はじめに】介護療養型老健である当施設では、医療の必要性の高い利用者や認知症者が多く、入所が長期に及ぶ利用者も多い。このような利用者のリハビリテーションにおいて、身体的訓練や集団体操のみで効果が十分に得られているか検討の余地があった。
厚労省は活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションを推進している。梶幸奈 ( 2019 ) は、認知症者をリーダーとしたクラブ活動を行い、BPSDの減少を認めた。田中繁弥 ( 2017, 2021 ) の認知症者の集団アプローチの研究では、認知機能、社会的活動、QOLの改善を認めた。
そこで当施設において、活動と参加を促す集団リハビリをクラブ活動の形態にて行うこと、内容に作業療法や運動などを取り入れることを検討して実施し、効果について検討した。
【目的】当施設入所者が、集団リハビリとして作業療法や運動を取り入れたクラブ活動を行い、その効果を検討する。
【方法】入所者にアンケート調査を行い、希望の多かった体操、カラオケ、喫茶、手芸の4クラブに決定した。入所者の意思により参加することを基本とし、複数のクラブ活動参加も可能とした。スタッフは自律性を引き出す関わりに注意した。1回のクラブのメンバーを10名~20名程度に人数調整して実施した。頻度はそれぞれのクラブで月2回程度で、1回の時間は約45分~1時間とした。
体操クラブ ( 開始時30名 ) は、身体運動、風船バレー、玉入れ、パターゴルフなどを実施した。カラオケクラブ ( 開始時27名 ) では、参加者のリクエストにより選曲し、合唱も行った。喫茶クラブ ( 開始時52名 ) では、抹茶を点てたり、喫茶をしながら昭和歌謡などのレコード鑑賞やゲームや会話などを行った。手芸クラブ ( 開始時24名 ) では、習字、折り紙、陶芸、リース作り、スクラッチアート、絵手紙などを行った。
調査対象者は、クラブ活動開始~24週まで4クラブのいずれかに参加した利用者で、調査が可能であった44名 ( 男性9名、女性35名、平均年齢87歳 ) とした。
効果測定として、Barthel Index (BI)、長谷川式簡易知能評価 (HDS-R)、認知症行動障害尺度(DBD13)、老年期うつ病評価尺度 (GDS15)、意欲の指標 (Vitality Index) をクラブ活動の開始前、12週後、24週後に実施した。
クラブ活動参加者の満足度, 居室フロアの職員によるADL、認知面、認知症行動障害、抑うつ、意欲の評価は質問紙による5件法の回答とし、6週後、12週後、24週後に実施した。参加者には同質問紙にクラブ活動に対する感想や意見も書いてもらった。職員には同質問紙に利用者の変化点や気づいたことなども自由に記述してもらった。
【結果】認知症行動障害について、開始前から12週後、24週後にかけて改善を認めた ( 統計的有意差有り )。
認知面、意欲については開始時~24週後にかけて改善傾向を認めた。
ADL, 認知面, 抑うつ, 意欲、満足度は、開始時~12週後は改善傾向、12週後~24週後に低下傾向 ( 抑うつは増加傾向 )があった。
ADLの自立度 (BI60点以上を高、60点未満を低)により、12週後、24週後の意欲に統計的有意差を認めた。認知症の有無 (HDS-R20点以下で有、21点以上で無とした)で、12週後、24週後の意欲、12週後の職員のADL、抑うつ評価に統計的有意差を認めた。認知症無し郡は認知症有り群よりも、意欲、ADLが高く、抑うつは低かった。
参加者からの感想・意見では「楽しい」、「楽しみにしている」が多く、職員の意見では「喜ばれている」、「離床時間が増えた」、「笑顔が増えた」、「活気が増えた」、「会話が増えた」などがあり、ポジティブなものが多数だった。
【考察】施設入所者に対する研究で、社会的交流、会話によりBPSDが低減すると考察されたものがある ( Cohen-Mansfield J Werner P 1997, Beerens HC et al 2018, 鈴木みずえら 2017 ) 。本研究での認知症行動障害の低下、認知面、意欲の改善傾向は、集団での活動により、活動そのものと他者との交流やそれに伴う会話が増加したことも要因だと考えられる。安静により心身機能低下が起こり ( den Ouden M, et al, 2015, 宮裕昭 2012 )、集団活動は心身機能低下を防ぐ可能性がある。
ADL, 認知, 抑うつ, 意欲、満足度については、開始から12週後にかけて改善傾向、12週~24週にかけて改善がなかった。開始時、コロナ禍などで活動が減少していたと考えられ、始めの12週で心身の向上が大きくみられた可能性がある。その後向上が鈍ったのは、馴化が起こった可能性がある。
ADLの自立度の差により意欲の差を認めた。村上雅也ら ( 2007 ) の研究においてもADL能力と意欲の相関を認めている。ADL能力の高低に関わらずクラブ活動により意欲の向上が起こったと考えられるが、ADL能力の高い群の方がより意欲が高くなったと考えられる。
認知症の有無で意欲、職員の12週後のADL、抑うつ評価に有意差を認めた。認知症の周辺症状として意欲低下、抑うつ感の増加が起こりやすい。そのためクラブ活動開始後、認知症の無い利用者と比較して、認知症の有る群の方が意欲の向上が小さくなった、ADL、抑うつ感の変化が少なくなったことが有意差の要因と考えられる。
【終わりに】本研究では、介護療養型老健入所者が集団リハビリとしてクラブ活動を24週間行い、その効果を検証した。その結果、認知症行動障害の改善、認知面、意欲の改善傾向を認めた。
医療の必要性の高い利用者や認知症者の多い施設においても、集団活動の効果が得られることが示唆されたが、リハビリテーションにおいてアプローチの困難さが存在する。課題として、クラブ活動の質や回数の検討、利用者の自律性をさらに引き出す工夫、認知症者の課題設定、ADLにつなげる工夫などが必要だと考えられる。
厚労省は活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションを推進している。梶幸奈 ( 2019 ) は、認知症者をリーダーとしたクラブ活動を行い、BPSDの減少を認めた。田中繁弥 ( 2017, 2021 ) の認知症者の集団アプローチの研究では、認知機能、社会的活動、QOLの改善を認めた。
そこで当施設において、活動と参加を促す集団リハビリをクラブ活動の形態にて行うこと、内容に作業療法や運動などを取り入れることを検討して実施し、効果について検討した。
【目的】当施設入所者が、集団リハビリとして作業療法や運動を取り入れたクラブ活動を行い、その効果を検討する。
【方法】入所者にアンケート調査を行い、希望の多かった体操、カラオケ、喫茶、手芸の4クラブに決定した。入所者の意思により参加することを基本とし、複数のクラブ活動参加も可能とした。スタッフは自律性を引き出す関わりに注意した。1回のクラブのメンバーを10名~20名程度に人数調整して実施した。頻度はそれぞれのクラブで月2回程度で、1回の時間は約45分~1時間とした。
体操クラブ ( 開始時30名 ) は、身体運動、風船バレー、玉入れ、パターゴルフなどを実施した。カラオケクラブ ( 開始時27名 ) では、参加者のリクエストにより選曲し、合唱も行った。喫茶クラブ ( 開始時52名 ) では、抹茶を点てたり、喫茶をしながら昭和歌謡などのレコード鑑賞やゲームや会話などを行った。手芸クラブ ( 開始時24名 ) では、習字、折り紙、陶芸、リース作り、スクラッチアート、絵手紙などを行った。
調査対象者は、クラブ活動開始~24週まで4クラブのいずれかに参加した利用者で、調査が可能であった44名 ( 男性9名、女性35名、平均年齢87歳 ) とした。
効果測定として、Barthel Index (BI)、長谷川式簡易知能評価 (HDS-R)、認知症行動障害尺度(DBD13)、老年期うつ病評価尺度 (GDS15)、意欲の指標 (Vitality Index) をクラブ活動の開始前、12週後、24週後に実施した。
クラブ活動参加者の満足度, 居室フロアの職員によるADL、認知面、認知症行動障害、抑うつ、意欲の評価は質問紙による5件法の回答とし、6週後、12週後、24週後に実施した。参加者には同質問紙にクラブ活動に対する感想や意見も書いてもらった。職員には同質問紙に利用者の変化点や気づいたことなども自由に記述してもらった。
【結果】認知症行動障害について、開始前から12週後、24週後にかけて改善を認めた ( 統計的有意差有り )。
認知面、意欲については開始時~24週後にかけて改善傾向を認めた。
ADL, 認知面, 抑うつ, 意欲、満足度は、開始時~12週後は改善傾向、12週後~24週後に低下傾向 ( 抑うつは増加傾向 )があった。
ADLの自立度 (BI60点以上を高、60点未満を低)により、12週後、24週後の意欲に統計的有意差を認めた。認知症の有無 (HDS-R20点以下で有、21点以上で無とした)で、12週後、24週後の意欲、12週後の職員のADL、抑うつ評価に統計的有意差を認めた。認知症無し郡は認知症有り群よりも、意欲、ADLが高く、抑うつは低かった。
参加者からの感想・意見では「楽しい」、「楽しみにしている」が多く、職員の意見では「喜ばれている」、「離床時間が増えた」、「笑顔が増えた」、「活気が増えた」、「会話が増えた」などがあり、ポジティブなものが多数だった。
【考察】施設入所者に対する研究で、社会的交流、会話によりBPSDが低減すると考察されたものがある ( Cohen-Mansfield J Werner P 1997, Beerens HC et al 2018, 鈴木みずえら 2017 ) 。本研究での認知症行動障害の低下、認知面、意欲の改善傾向は、集団での活動により、活動そのものと他者との交流やそれに伴う会話が増加したことも要因だと考えられる。安静により心身機能低下が起こり ( den Ouden M, et al, 2015, 宮裕昭 2012 )、集団活動は心身機能低下を防ぐ可能性がある。
ADL, 認知, 抑うつ, 意欲、満足度については、開始から12週後にかけて改善傾向、12週~24週にかけて改善がなかった。開始時、コロナ禍などで活動が減少していたと考えられ、始めの12週で心身の向上が大きくみられた可能性がある。その後向上が鈍ったのは、馴化が起こった可能性がある。
ADLの自立度の差により意欲の差を認めた。村上雅也ら ( 2007 ) の研究においてもADL能力と意欲の相関を認めている。ADL能力の高低に関わらずクラブ活動により意欲の向上が起こったと考えられるが、ADL能力の高い群の方がより意欲が高くなったと考えられる。
認知症の有無で意欲、職員の12週後のADL、抑うつ評価に有意差を認めた。認知症の周辺症状として意欲低下、抑うつ感の増加が起こりやすい。そのためクラブ活動開始後、認知症の無い利用者と比較して、認知症の有る群の方が意欲の向上が小さくなった、ADL、抑うつ感の変化が少なくなったことが有意差の要因と考えられる。
【終わりに】本研究では、介護療養型老健入所者が集団リハビリとしてクラブ活動を24週間行い、その効果を検証した。その結果、認知症行動障害の改善、認知面、意欲の改善傾向を認めた。
医療の必要性の高い利用者や認知症者の多い施設においても、集団活動の効果が得られることが示唆されたが、リハビリテーションにおいてアプローチの困難さが存在する。課題として、クラブ活動の質や回数の検討、利用者の自律性をさらに引き出す工夫、認知症者の課題設定、ADLにつなげる工夫などが必要だと考えられる。