講演情報
[14-O-L001-07]急性期病院から老健入所したサルコペニア者の経時変化サルコペニアは改善するか?反復起立練習に着目して
*吉川 尚樹1、久保木 智紗子1、渡辺 菜和満2、宮内 史織2、長谷川 類1、村上 信乃1 (1. 千葉県 介護老人保健施設シルバーケアセンター、2. 地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院)
関連急性期病院から当老健に入所したサルコペニア(以下、SP)の34名を対象にSP評価項目と認知機能、および FIMについて、入所時と3か月後の変化を統計解析した。結果、34名のSP評価項目、認知機能、FIMについて有意な改善を認めた。次に集団反復起立運動実施の有無で分けた2群の各変化量の比較をした結果、SP評価項目、FIMに有意差を認めた。一定水準の反復起立練習はSPを改善する可能性があることが示唆された。
【研究の背景と目的】
SPの予防と治療は、本邦のガイドラインにおいては栄養療法と運動療法の併用が推奨されているが、栄養摂取量と施設内活動量が一定水準担保される老健施設において、SP患者の身体機能、認知機能、FIMの経時的変化を示した報告はほとんどないのが現状である。
本研究は、関連施設である急性期病院から当介護老人保健施設 (以下、当老健)に入所したSP者を対象に、SPと認知機能、FIMについて経時的な変化を報告する。また、当施設で実施されている集団反復起立練習がこれら変化量と関連する要因となるか検討した。
【方法】
(1)A老健の特徴
・栄養提供環境:(提供カロリー)Total Energy Expenditure×ストレス係数1.0×活動係数1.4(提供タンパク質)体重1kgあたり1.15g
・施設内活動:
A:個別リハビリ(1回20分、週6~9回)
B:集団反復起立練習(1回25分、10秒に1回の反復起立を150回、週5日実施)
C:集団レクリエーション(1回30分、座位活動、週5日実施)
(2)研究デザイン:後ろ向き観察研究
(3)対象と期間:2021年6月~2022年6月に関連急性期病院から当老健に入所し、入院前ADLがほぼ自立していたSP患者34名、観察期間は3か月間
(4)除外基準:入院前ADLが介助の者、自宅から入所した者、レスパイト目的の入所の者
(5)評価項目:
1)基本情報(年齢、性別、身長、体重、BMI、入院日数、入院中の主病名、リハビリ算定疾患、要介護度、簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form[以下、MNA-SF])
2)SP評価(Again working group for sarcopenia[以下、AWGS])の診断基準に準じる
A:握力
B:Short Physical Performance Battery[以下、SPPB]
C:骨格筋量(骨格筋量指数[Skeletal Muscle Index:SMI])
3)認知機能(Mini Mental State Examination[以下、MMSE]、Japanese version of Montreal Cognitive Assessment[以下、MoCA-J])
4)機能的自立度評価法(Functional Independence Measure[以下、FIM])
5)施設内活動状況
A:個別リハ実施回数
B:集団リハビリ参加回数
C:集団レクリエーション参加回数
D:合計活動時間[A~Cの各回数×各実施時間の総和])
6) 栄養摂取状況(3か月間で1食ごとの摂取量が半分未満であった回数の合計を記録し、半分以上摂取できた食事回数を全食事回数270回で除した値)
(6) 統計処理:
1)SP群の統計解析
SP群34名について施設内活動状況、栄養摂取状況を含めた基本を示した.(5)の評価項目1)~4)について、入所時と3か月後の比較を対応のあるt検定、ウィルコクソンの符号順位和検定を実施した。
2)2群間における統計解析
SP群を集団反復起立練習実施の有無で「集団反復起立練習実施群」、「集団反復起立練習未実施群」の2群に分け、2群間の入所時の基本情報を示し、入所3か月間の栄養摂取状況を示した。それらを(6)の1)同様に、各群内の入所時と3か月後の比較についてウィルコクソンの符号順位和検定、マンホイットニーのU検定を実施した。
次いで、各群の評価項目の変化量と施設内活動状況の2群間の比較についてマンホイットニーのU検定を実施した。
【倫理上の配慮】
本研究は総合病院国保旭中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(登録番号202111616)。
【結果】
(1)SP群34名の基本情報と前後評価
平均年齢85.12歳、男性8名、女性26名、入院日数は中央値で32.5日、リハビリ算定疾患運動器疾患12名、廃用10名、脳血管6名、心大血管4名、呼吸器1名、がん1名だった。
SP評価項目はSMIは平均4.96kg/m2、握力は平均14.25kg、SPPB合計得点は中央値2.5点であった。
施設内活動状況において、反復起立練習回数は中央値27.5回、個別リハビリ実施回数は中央値94回、レクリエーション参加回数は中央値13回、総活動時間は中央値49.58時間であった。
栄養状態は入所時MNA-SFは中央値5.5、栄養摂取割合は中央値100%であった。
認知機能において、MMSEは中央値20、MoCA-Jは中央値8.5であった。
FIMにおいて、FIM合計は中央値66、FIM運動は中央値41.5、FIM認知は中央値25であった。
1)SP群34名前後評価結果
体重、BMI、に有意差は認めなかった。SP評価項目において握力、SPPB合計、SPPBバランス、SPPB歩行、SPPB起立の項目で有意な改善を認めた。
認知機能においてMMSE合計、MoCA-J合計項目にて有意な改善を認めた。
FIMにおいて、合計、運動、認知いずれの項目も有意な改善を認めた。
(2)集団反復起立練習実施群と集団反復起立練習未実施群の各群間の前後比較結果
1)集団反復起立練習実施群の前後比較結果
体重、BMIに有意差は認めなかった。SP評価項目において、SMI、握力、SPPB合計、SPPBバランス、SPPB歩行、SPPB起立の項目で有意な改善を認めた。
認知機においてMMSE合計、MoCA-J合計項目にて有意な改善を認めた。
FIMにおいて、合計、運動、認知いずれの項目も有意な改善を認めた。
2)集団反復起立練習未実施群の前後比較結果
体重、BMI、SP評価項目、認知機能、FIMいずれの項目も有意差を認めなかった。
(3)集団反復起立練習実施群と集団反復起立練習未実施群における各変化量の比較結果
2群間の変化量の比較において、体重、BMIに有意差は認めなかった。SP評価項目において、SMI、SPPB歩行、SPPB起立、SPPB合計に有意差を認めた。
認知機能において、MMSE、MoCA-J共に有意差は認めなかった。
FIMにおいて、FIM運動、FIM合計に有意差を認めた。
【考察】
集団反復起立練習の運動負荷強度は骨格筋増大には不十分であったものの、握力、身体機能の改善は十分期待できる負荷量を提供していると考えられた。認知機能改善については急性期病院からの環境変化、最大3 METs程度の習慣化された運動による効果と考えられた。FIMについては、反復起立練習による下肢機能改善が大きく影響していたと考える。
【結語】
栄養摂取量が十分であれば、一定水準の反復起立練習の実施よってSPは改善する可能性がある。
SPの予防と治療は、本邦のガイドラインにおいては栄養療法と運動療法の併用が推奨されているが、栄養摂取量と施設内活動量が一定水準担保される老健施設において、SP患者の身体機能、認知機能、FIMの経時的変化を示した報告はほとんどないのが現状である。
本研究は、関連施設である急性期病院から当介護老人保健施設 (以下、当老健)に入所したSP者を対象に、SPと認知機能、FIMについて経時的な変化を報告する。また、当施設で実施されている集団反復起立練習がこれら変化量と関連する要因となるか検討した。
【方法】
(1)A老健の特徴
・栄養提供環境:(提供カロリー)Total Energy Expenditure×ストレス係数1.0×活動係数1.4(提供タンパク質)体重1kgあたり1.15g
・施設内活動:
A:個別リハビリ(1回20分、週6~9回)
B:集団反復起立練習(1回25分、10秒に1回の反復起立を150回、週5日実施)
C:集団レクリエーション(1回30分、座位活動、週5日実施)
(2)研究デザイン:後ろ向き観察研究
(3)対象と期間:2021年6月~2022年6月に関連急性期病院から当老健に入所し、入院前ADLがほぼ自立していたSP患者34名、観察期間は3か月間
(4)除外基準:入院前ADLが介助の者、自宅から入所した者、レスパイト目的の入所の者
(5)評価項目:
1)基本情報(年齢、性別、身長、体重、BMI、入院日数、入院中の主病名、リハビリ算定疾患、要介護度、簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form[以下、MNA-SF])
2)SP評価(Again working group for sarcopenia[以下、AWGS])の診断基準に準じる
A:握力
B:Short Physical Performance Battery[以下、SPPB]
C:骨格筋量(骨格筋量指数[Skeletal Muscle Index:SMI])
3)認知機能(Mini Mental State Examination[以下、MMSE]、Japanese version of Montreal Cognitive Assessment[以下、MoCA-J])
4)機能的自立度評価法(Functional Independence Measure[以下、FIM])
5)施設内活動状況
A:個別リハ実施回数
B:集団リハビリ参加回数
C:集団レクリエーション参加回数
D:合計活動時間[A~Cの各回数×各実施時間の総和])
6) 栄養摂取状況(3か月間で1食ごとの摂取量が半分未満であった回数の合計を記録し、半分以上摂取できた食事回数を全食事回数270回で除した値)
(6) 統計処理:
1)SP群の統計解析
SP群34名について施設内活動状況、栄養摂取状況を含めた基本を示した.(5)の評価項目1)~4)について、入所時と3か月後の比較を対応のあるt検定、ウィルコクソンの符号順位和検定を実施した。
2)2群間における統計解析
SP群を集団反復起立練習実施の有無で「集団反復起立練習実施群」、「集団反復起立練習未実施群」の2群に分け、2群間の入所時の基本情報を示し、入所3か月間の栄養摂取状況を示した。それらを(6)の1)同様に、各群内の入所時と3か月後の比較についてウィルコクソンの符号順位和検定、マンホイットニーのU検定を実施した。
次いで、各群の評価項目の変化量と施設内活動状況の2群間の比較についてマンホイットニーのU検定を実施した。
【倫理上の配慮】
本研究は総合病院国保旭中央病院倫理審査委員会の承認を得て実施した(登録番号202111616)。
【結果】
(1)SP群34名の基本情報と前後評価
平均年齢85.12歳、男性8名、女性26名、入院日数は中央値で32.5日、リハビリ算定疾患運動器疾患12名、廃用10名、脳血管6名、心大血管4名、呼吸器1名、がん1名だった。
SP評価項目はSMIは平均4.96kg/m2、握力は平均14.25kg、SPPB合計得点は中央値2.5点であった。
施設内活動状況において、反復起立練習回数は中央値27.5回、個別リハビリ実施回数は中央値94回、レクリエーション参加回数は中央値13回、総活動時間は中央値49.58時間であった。
栄養状態は入所時MNA-SFは中央値5.5、栄養摂取割合は中央値100%であった。
認知機能において、MMSEは中央値20、MoCA-Jは中央値8.5であった。
FIMにおいて、FIM合計は中央値66、FIM運動は中央値41.5、FIM認知は中央値25であった。
1)SP群34名前後評価結果
体重、BMI、に有意差は認めなかった。SP評価項目において握力、SPPB合計、SPPBバランス、SPPB歩行、SPPB起立の項目で有意な改善を認めた。
認知機能においてMMSE合計、MoCA-J合計項目にて有意な改善を認めた。
FIMにおいて、合計、運動、認知いずれの項目も有意な改善を認めた。
(2)集団反復起立練習実施群と集団反復起立練習未実施群の各群間の前後比較結果
1)集団反復起立練習実施群の前後比較結果
体重、BMIに有意差は認めなかった。SP評価項目において、SMI、握力、SPPB合計、SPPBバランス、SPPB歩行、SPPB起立の項目で有意な改善を認めた。
認知機においてMMSE合計、MoCA-J合計項目にて有意な改善を認めた。
FIMにおいて、合計、運動、認知いずれの項目も有意な改善を認めた。
2)集団反復起立練習未実施群の前後比較結果
体重、BMI、SP評価項目、認知機能、FIMいずれの項目も有意差を認めなかった。
(3)集団反復起立練習実施群と集団反復起立練習未実施群における各変化量の比較結果
2群間の変化量の比較において、体重、BMIに有意差は認めなかった。SP評価項目において、SMI、SPPB歩行、SPPB起立、SPPB合計に有意差を認めた。
認知機能において、MMSE、MoCA-J共に有意差は認めなかった。
FIMにおいて、FIM運動、FIM合計に有意差を認めた。
【考察】
集団反復起立練習の運動負荷強度は骨格筋増大には不十分であったものの、握力、身体機能の改善は十分期待できる負荷量を提供していると考えられた。認知機能改善については急性期病院からの環境変化、最大3 METs程度の習慣化された運動による効果と考えられた。FIMについては、反復起立練習による下肢機能改善が大きく影響していたと考える。
【結語】
栄養摂取量が十分であれば、一定水準の反復起立練習の実施よってSPは改善する可能性がある。