講演情報
[14-O-I001-01]口腔衛生管理の強化から見えてきたこと
*金子 郁也1 (1. 東京都 公益社団法人地域医療振興協会 東京北医療センター・介護老人保健施設さくらの杜)
令和6年度の介護報酬改定で義務化された「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」について、当施設における実施の流れを検討し、評価に対して口腔清掃の強化を実施した。その結果、口腔清掃自立とされていた利用者に一定のケアの介入が必要であることが示された。また標準化された評価指標を用いることで、客観的な評価結果から必要な医療とスムーズな連携が図れたと考えられたので報告した。
〇はじめに
要介護者・要支援者において『自立支援・重度化防止のための効果的なケアを提供する観点から、多職種による一体的なリハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理が実施されることが望ましい。』とされている。
令和3年度の介護報酬改定では、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院の施設系サービスを対象に「口腔衛生管理体制加算」が廃止され、基本サービスとして行うこととされた。※令和6年3月31日までの間は努力義務
令和6年度の介護報酬改定では、介護老人保健施設の入所者に対する口腔衛生の管理について、入所者の口腔の健康状態に応じて計画的に行うべきこととされた。改定事項として追加された「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」について、当施設における実施までの流れ及び評価結果に対する取り組みを報告する。
〇「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」実施までの流れ
改定事項の確認後、訪問歯科に歯科健診の頻度等を相談した。訪問歯科で可能な対応としては入所時の歯科健診のみであることから、月に1回程度の口腔の健康状態の評価は施設職員による実施が必要であった。評価の標準化を図るためにOHAT-Jを参考に口腔アセスメントの知識習得を図りつつ、どのような手順で評価するか各部署と検討した結果、下記の流れとした。
1. 月初めに先月の歯科診療対象者を訪問歯科に確認する
2. 施設CMが歯科診療対象者を確認し、社内ネットワークに保管している歯科診療利用者リストを更新する
3. 月末までに看護師が歯科診療利用者リストを参照し、対象外の利用者の口腔の健康状態を「入院(所)中及び在宅等における療養中の患者に対する口腔の健康状態の確認に関する基本的な考え方」の評価基準を参考に評価する
4. 評価結果を介護記録ソフト内「口腔の健康状態の評価及び情報共有書」に入力する
○「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」の結果
令和6年5月の実績として担当利用者49名のうち歯科診療対象者が19名であり、口腔の健康状態の評価対象者は30名であった。口腔の健康状態の評価対象者30名中、24名の利用者がいずれかの項目で「あり」または「できない」が1つ以上となり、歯科医師等による口腔内等の確認の必要性が高いとされた。更に14名の利用者が口腔清掃の自立度が自立とされながらも、いずれかの項目で「あり」または「できない」が1つ以上確認された。これらの評価結果を受け、口腔清掃の自立度が自立とされながら(2)歯の汚れの有無、(3)舌の汚れの有無、(4)歯肉の腫れ、出血の有無の項目で「あり」または「できない」が2つ以上となった7名の利用者を対象に介護士・看護師による口腔衛生管理の強化を行った。
・口腔の健康状態の評価項目
(1)開口の状態
(2)歯の汚れの有無
(3)舌の汚れの有無
(4)歯肉の腫れ、出血の有無
(5)左右両方の奥歯のかみ合わせの状態
(6)むせの有無
(7)ぶくぶくうがいの状態
(8)食物のため込み、残留の有無
〇「口腔衛生管理の強化」の取り組み
期間 :10日間 6月25日朝食後~7月4日夕食後まで
方法 :東京都保健所から発行されている「要介護高齢者のための口腔ケアマニュアル」を参照し、手順に沿った口腔ケアを職員付き添い・指導のもと実施する
1. 口腔ケア用品の準備
2. 洗面台への誘導
3. うがい
4. 入れ歯の清掃
5. 歯の清掃
6. スポンジブラシを用いた舌の清掃
7. うがい
8. 口腔ケアチェック表に実施者サインを記入
〇「口腔衛生管理の強化」の結果
口腔衛生管理の強化を行った結果、7名中5名の利用者が(3)舌の汚れの有無の項目で改善が見られた。その他の項目において、今回の取り組み期間で変化は見られなかった。また取り組みを実施するにあたり、従来の口腔ケアよりも30分程度ケアにかかる時間が増加した日があった。
対象利用者の内3名については、口腔の健康状態の評価結果を家族に報告したところ訪問歯科の介入につながった。
〇考察
口腔の健康状態の評価を行うことで、口腔清掃状況も把握することが可能となり、口腔清掃の自立度を見直すことに繋がったと考える。また標準化された評価指標を用いることで訪問歯科介入の必要性について、客観的な評価結果から家族に報告が行えたため、必要な医療とスムーズな連携が図れたと考えられる。
一方、口腔清掃自立とされていた利用者に一定のケアの介入が必要であることや、要介助の利用者にもこれまで以上のケアの介入が必要であることが示された。各利用者の口腔の健康状態に応じたケアが提供できるように、介入に係る時間を確保するための業務改善が今後の課題であると考える。
〇おわりに
今回の取り組みは口腔衛生管理の強化の第一歩である。利用者の状態に応じた個別性の高い口腔衛生管理を提供するには、口腔の健康状態の評価にとどまらず、今回取り入れることができなかった口腔ケア用品の種類を増やすことにも着手しつつ、介入に係る時間を確保するための業務改善に取り組まなくてはならない。
また、より専門性の高いケアが必要な方については、口腔衛生管理加算を算定し、口腔衛生状態の改善が図れるように現在訪問歯科と協議を進めている。口腔衛生の改善から利用者のQOLの向上に繋がるように、より一層口腔衛生管理の強化を進めていきたい。
・参考文献
1. 厚生労働省(令和6年3月15日 老老発 0315 第2号) リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の実施及び一体的取組について
2. 松尾 浩一郎, 中川 量晴(2016年37巻1号p. 1-7) 日本障害者歯科学会雑誌 口腔アセスメントシートOral Health Assessment Tool日本語版(OHAT-J)の作成と信頼性,妥当性の検討
3. 日本歯科医学会(令和6年3月) 入院(所)中及び在宅等における療養中の患者に対する口腔の健康状態の確認に関する基本的な考え方
4. 東京都保健医療局(平成19年3月) 要介護高齢者のための口腔ケアマニュアル
要介護者・要支援者において『自立支援・重度化防止のための効果的なケアを提供する観点から、多職種による一体的なリハビリテーション・個別機能訓練、栄養管理及び口腔管理が実施されることが望ましい。』とされている。
令和3年度の介護報酬改定では、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院の施設系サービスを対象に「口腔衛生管理体制加算」が廃止され、基本サービスとして行うこととされた。※令和6年3月31日までの間は努力義務
令和6年度の介護報酬改定では、介護老人保健施設の入所者に対する口腔衛生の管理について、入所者の口腔の健康状態に応じて計画的に行うべきこととされた。改定事項として追加された「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」について、当施設における実施までの流れ及び評価結果に対する取り組みを報告する。
〇「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」実施までの流れ
改定事項の確認後、訪問歯科に歯科健診の頻度等を相談した。訪問歯科で可能な対応としては入所時の歯科健診のみであることから、月に1回程度の口腔の健康状態の評価は施設職員による実施が必要であった。評価の標準化を図るためにOHAT-Jを参考に口腔アセスメントの知識習得を図りつつ、どのような手順で評価するか各部署と検討した結果、下記の流れとした。
1. 月初めに先月の歯科診療対象者を訪問歯科に確認する
2. 施設CMが歯科診療対象者を確認し、社内ネットワークに保管している歯科診療利用者リストを更新する
3. 月末までに看護師が歯科診療利用者リストを参照し、対象外の利用者の口腔の健康状態を「入院(所)中及び在宅等における療養中の患者に対する口腔の健康状態の確認に関する基本的な考え方」の評価基準を参考に評価する
4. 評価結果を介護記録ソフト内「口腔の健康状態の評価及び情報共有書」に入力する
○「施設入所時及び月に1回程度の口腔の健康状態の評価」の結果
令和6年5月の実績として担当利用者49名のうち歯科診療対象者が19名であり、口腔の健康状態の評価対象者は30名であった。口腔の健康状態の評価対象者30名中、24名の利用者がいずれかの項目で「あり」または「できない」が1つ以上となり、歯科医師等による口腔内等の確認の必要性が高いとされた。更に14名の利用者が口腔清掃の自立度が自立とされながらも、いずれかの項目で「あり」または「できない」が1つ以上確認された。これらの評価結果を受け、口腔清掃の自立度が自立とされながら(2)歯の汚れの有無、(3)舌の汚れの有無、(4)歯肉の腫れ、出血の有無の項目で「あり」または「できない」が2つ以上となった7名の利用者を対象に介護士・看護師による口腔衛生管理の強化を行った。
・口腔の健康状態の評価項目
(1)開口の状態
(2)歯の汚れの有無
(3)舌の汚れの有無
(4)歯肉の腫れ、出血の有無
(5)左右両方の奥歯のかみ合わせの状態
(6)むせの有無
(7)ぶくぶくうがいの状態
(8)食物のため込み、残留の有無
〇「口腔衛生管理の強化」の取り組み
期間 :10日間 6月25日朝食後~7月4日夕食後まで
方法 :東京都保健所から発行されている「要介護高齢者のための口腔ケアマニュアル」を参照し、手順に沿った口腔ケアを職員付き添い・指導のもと実施する
1. 口腔ケア用品の準備
2. 洗面台への誘導
3. うがい
4. 入れ歯の清掃
5. 歯の清掃
6. スポンジブラシを用いた舌の清掃
7. うがい
8. 口腔ケアチェック表に実施者サインを記入
〇「口腔衛生管理の強化」の結果
口腔衛生管理の強化を行った結果、7名中5名の利用者が(3)舌の汚れの有無の項目で改善が見られた。その他の項目において、今回の取り組み期間で変化は見られなかった。また取り組みを実施するにあたり、従来の口腔ケアよりも30分程度ケアにかかる時間が増加した日があった。
対象利用者の内3名については、口腔の健康状態の評価結果を家族に報告したところ訪問歯科の介入につながった。
〇考察
口腔の健康状態の評価を行うことで、口腔清掃状況も把握することが可能となり、口腔清掃の自立度を見直すことに繋がったと考える。また標準化された評価指標を用いることで訪問歯科介入の必要性について、客観的な評価結果から家族に報告が行えたため、必要な医療とスムーズな連携が図れたと考えられる。
一方、口腔清掃自立とされていた利用者に一定のケアの介入が必要であることや、要介助の利用者にもこれまで以上のケアの介入が必要であることが示された。各利用者の口腔の健康状態に応じたケアが提供できるように、介入に係る時間を確保するための業務改善が今後の課題であると考える。
〇おわりに
今回の取り組みは口腔衛生管理の強化の第一歩である。利用者の状態に応じた個別性の高い口腔衛生管理を提供するには、口腔の健康状態の評価にとどまらず、今回取り入れることができなかった口腔ケア用品の種類を増やすことにも着手しつつ、介入に係る時間を確保するための業務改善に取り組まなくてはならない。
また、より専門性の高いケアが必要な方については、口腔衛生管理加算を算定し、口腔衛生状態の改善が図れるように現在訪問歯科と協議を進めている。口腔衛生の改善から利用者のQOLの向上に繋がるように、より一層口腔衛生管理の強化を進めていきたい。
・参考文献
1. 厚生労働省(令和6年3月15日 老老発 0315 第2号) リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の実施及び一体的取組について
2. 松尾 浩一郎, 中川 量晴(2016年37巻1号p. 1-7) 日本障害者歯科学会雑誌 口腔アセスメントシートOral Health Assessment Tool日本語版(OHAT-J)の作成と信頼性,妥当性の検討
3. 日本歯科医学会(令和6年3月) 入院(所)中及び在宅等における療養中の患者に対する口腔の健康状態の確認に関する基本的な考え方
4. 東京都保健医療局(平成19年3月) 要介護高齢者のための口腔ケアマニュアル