講演情報
[14-O-I001-02]三方良しの口腔ケアを目指して歯科衛生士は歯ブラシのソムリエです
*高橋 令子1 (1. 千葉県 館山ケアセンター夢くらぶ)
当施設は歯科衛生士が2名在籍し、「最期まで口から食べる」に力を入れている。「利用者良し、職員良し、歯科スタッフ良しの三方良しの口腔ケア」を目指し、歯科衛生士を中心に口腔衛生状態の改善に取り組んだ。適切な歯ブラシ選び、適切な声掛け、タイマーの活用等で労力は少なく、効果は最大限になるよう工夫したので紹介する。
【はじめに】
当施設では平成30年より歯科衛生士が2名在籍し、口腔ケアや摂食嚥下にも力を入れている。しかし、入所約80名、通所1日約30名いる利用者の口腔ケアの全てを歯科衛生士が毎日行う事は不可能である。また、他の職種の職員の口腔ケアに対する知識や技術、熱量も様々である。施設内で勉強会等を行ったり、口腔ケアに関するアンケートを行ったりもしたが、食後の時間はトイレ誘導や臥床対応に追われ、口腔ケアに適切な時間をかける余裕はないのが現実である。職員の負担を最小限にしつつ、口腔衛生状態を良好に保つにはどうしたら効率的か、「利用者良し、職員良し、歯科スタッフ良し、の三方良しの口腔ケア」を行うにはどうすればいいかを考え実践したので報告する。
【方法】
栄養委員会において「口腔ケア向上施策」を行い、以下のことを取り上げた。
1、適切な歯ブラシの選択
ヘッドの大きさ、毛の硬さ、毛の量、毛先の形状、植毛様式、把持のしやすさ等を考慮し、個人にあったものを歯科衛生士が選定しご家族に購入を依頼した。
2、適切なブラッシング時間の設定
ご自身でブラッシングを行ってはいるが、すぐに終了してしまう利用者に対して、タイマーを使用し時間を意識してもらう。ポスターを作成し、職員が統一した対応になるよう申し送りを行った。
【結果】
・I様(90歳代、女性、認知症)
コンパクトヘッド、ラウンド毛の歯ブラシを使用していたが、ブラシの当たる面積が小さく非効率だった為、ワイドヘッドの段差植毛の物に変更した。ブラッシング指導は簡単な声掛けだけにとどめても、歯の根元や歯間のプラークが除去できた。
・S様(90歳代、女性、認知症)
声かけをすると自ら洗面台に向かいブラッシングを行ってはいるが、短時間で終了してしまう。洗面台の前に座っていられるであろう限界の3分をタイマーにセットし、時間内はブラッシングを行うよう促すことを職員に依頼した。歯ブラシのストローク数が増えたことにより、全体的なプラーク量が減少した。
・T様(70歳代、女性、通所)
以前歯科医院で勧められたというワンタフトブラシを持参していたが、高齢者には難易度が高く、ご自身では適切な部位に当てることができなかった。超コンパクトヘッドで薄型の歯ブラシに変更し、通常の歯ブラシと併用する事を提案した。ブラシの毛先が安定して当たるようになったので、歯肉の炎症が改善し歯肉よりの出血が減少した。
【考察】
一昔前の歯科医院における保健指導では、画一的に「シンプルな平切り、コンパクトヘッドの歯ブラシ」が口腔内でコントロールがしやすい為、理想的とされていた。指導しやすいのがメリットだが、実施者のブラッシングスキルが高いこと、時間をかけられることが求められる。認知機能や身体機能の低下などにより、ブラッシング時間が短く、磨き残しも多い方には大型幅広ヘッド、密毛の物が適している。雑に磨いてもどこかが当たっているからである。当施設でも導入している「生活リハビリ」の考え方を口腔ケアにも応用し、利用者の残存機能を活かし口腔衛生状態を改善することができた。また、委員会として行うことで目的意識が明確になり、多職種協同で行うことにより施設全体で一体感が生まれたように思う。さらに虫歯、歯周病、誤嚥性肺炎の予防に効果的であることは言わずもがなであるが、歯科受診する際には、歯肉炎による出血や腫脹が減る為、適切な治療がしやすくなり診療にかける時間も短縮され、利用者、歯科スタッフ双方にメリットがある。また、一番の収穫は、利用者に対するブラッシング指導の際、「ほめる」ということで笑顔を引き出し、達成感を得ていただけたことだ。コミュニケーションを密にとることで、信頼関係をより深める事ができたと思う。
一方で通所の利用者に関しては、道具を変更しただけではどうにもならないケースもあるので、また別のアプローチをしていくことが課題である。
【まとめ】
口腔ケアとは「口腔の疾病予防、健康保持増進、リハビリテーションにより、QOLの向上を目指した口腔より全身を考える科学であり技術である」と日本口腔ケア学会で定義されている。要介護状態であっても、各人の“自分でできる”という状態を叶えることで自立支援の対応が可能となる。その場合“本人のできる環境”の整備が必要であり各人の生活に合わせた道具の選択もその一助になる。口腔ケアは特別なことではなく、日常生活に対するケアのひとつにすぎないが、成功体験の共有によって日常行動の定着を促すことができる。当施設ははじめに述べた通り歯科衛生士が2名おり、また言語聴覚士が2名、管理栄養士も2名在籍している。「最期まで口から食べる」ということに大変恵まれた環境である。今後も多職種で連携を密に行い、健康になりたい、おいしく食べたいという気持ちに寄り添った支援をしていきたい。
当施設では平成30年より歯科衛生士が2名在籍し、口腔ケアや摂食嚥下にも力を入れている。しかし、入所約80名、通所1日約30名いる利用者の口腔ケアの全てを歯科衛生士が毎日行う事は不可能である。また、他の職種の職員の口腔ケアに対する知識や技術、熱量も様々である。施設内で勉強会等を行ったり、口腔ケアに関するアンケートを行ったりもしたが、食後の時間はトイレ誘導や臥床対応に追われ、口腔ケアに適切な時間をかける余裕はないのが現実である。職員の負担を最小限にしつつ、口腔衛生状態を良好に保つにはどうしたら効率的か、「利用者良し、職員良し、歯科スタッフ良し、の三方良しの口腔ケア」を行うにはどうすればいいかを考え実践したので報告する。
【方法】
栄養委員会において「口腔ケア向上施策」を行い、以下のことを取り上げた。
1、適切な歯ブラシの選択
ヘッドの大きさ、毛の硬さ、毛の量、毛先の形状、植毛様式、把持のしやすさ等を考慮し、個人にあったものを歯科衛生士が選定しご家族に購入を依頼した。
2、適切なブラッシング時間の設定
ご自身でブラッシングを行ってはいるが、すぐに終了してしまう利用者に対して、タイマーを使用し時間を意識してもらう。ポスターを作成し、職員が統一した対応になるよう申し送りを行った。
【結果】
・I様(90歳代、女性、認知症)
コンパクトヘッド、ラウンド毛の歯ブラシを使用していたが、ブラシの当たる面積が小さく非効率だった為、ワイドヘッドの段差植毛の物に変更した。ブラッシング指導は簡単な声掛けだけにとどめても、歯の根元や歯間のプラークが除去できた。
・S様(90歳代、女性、認知症)
声かけをすると自ら洗面台に向かいブラッシングを行ってはいるが、短時間で終了してしまう。洗面台の前に座っていられるであろう限界の3分をタイマーにセットし、時間内はブラッシングを行うよう促すことを職員に依頼した。歯ブラシのストローク数が増えたことにより、全体的なプラーク量が減少した。
・T様(70歳代、女性、通所)
以前歯科医院で勧められたというワンタフトブラシを持参していたが、高齢者には難易度が高く、ご自身では適切な部位に当てることができなかった。超コンパクトヘッドで薄型の歯ブラシに変更し、通常の歯ブラシと併用する事を提案した。ブラシの毛先が安定して当たるようになったので、歯肉の炎症が改善し歯肉よりの出血が減少した。
【考察】
一昔前の歯科医院における保健指導では、画一的に「シンプルな平切り、コンパクトヘッドの歯ブラシ」が口腔内でコントロールがしやすい為、理想的とされていた。指導しやすいのがメリットだが、実施者のブラッシングスキルが高いこと、時間をかけられることが求められる。認知機能や身体機能の低下などにより、ブラッシング時間が短く、磨き残しも多い方には大型幅広ヘッド、密毛の物が適している。雑に磨いてもどこかが当たっているからである。当施設でも導入している「生活リハビリ」の考え方を口腔ケアにも応用し、利用者の残存機能を活かし口腔衛生状態を改善することができた。また、委員会として行うことで目的意識が明確になり、多職種協同で行うことにより施設全体で一体感が生まれたように思う。さらに虫歯、歯周病、誤嚥性肺炎の予防に効果的であることは言わずもがなであるが、歯科受診する際には、歯肉炎による出血や腫脹が減る為、適切な治療がしやすくなり診療にかける時間も短縮され、利用者、歯科スタッフ双方にメリットがある。また、一番の収穫は、利用者に対するブラッシング指導の際、「ほめる」ということで笑顔を引き出し、達成感を得ていただけたことだ。コミュニケーションを密にとることで、信頼関係をより深める事ができたと思う。
一方で通所の利用者に関しては、道具を変更しただけではどうにもならないケースもあるので、また別のアプローチをしていくことが課題である。
【まとめ】
口腔ケアとは「口腔の疾病予防、健康保持増進、リハビリテーションにより、QOLの向上を目指した口腔より全身を考える科学であり技術である」と日本口腔ケア学会で定義されている。要介護状態であっても、各人の“自分でできる”という状態を叶えることで自立支援の対応が可能となる。その場合“本人のできる環境”の整備が必要であり各人の生活に合わせた道具の選択もその一助になる。口腔ケアは特別なことではなく、日常生活に対するケアのひとつにすぎないが、成功体験の共有によって日常行動の定着を促すことができる。当施設ははじめに述べた通り歯科衛生士が2名おり、また言語聴覚士が2名、管理栄養士も2名在籍している。「最期まで口から食べる」ということに大変恵まれた環境である。今後も多職種で連携を密に行い、健康になりたい、おいしく食べたいという気持ちに寄り添った支援をしていきたい。