講演情報

[14-O-I001-05]BDR指標を用いた口腔清掃状況の把握と課題発見

*三橋 香織1、平賀 健汰1、品川 まり子1、小川 幸一1、森本 由美子1 (1. 三重県 介護老人保健施設 志摩豊和苑)
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BDR指標を用いて認知棟入所者の口腔清掃自立度の評価を行い、課題を可視化する。入所者44名のうち18名を対象としてグループ分けを行い、各グループにつき職員4‐5名で評価、口腔ケアの認識に差異がないか確認を行った。対象者全員の評価に差異が生じていた為、口腔ケアの見直しと職員への周知徹底を図った。口腔ケアへの関心の低さがこの結果を齎しているのではないかと考え、今後は学習会や業務改善を行っていきたい。
【はじめに】
 当施設認知棟では残存歯のある方や「朝も磨きたい」と希望がある方、吸引ブラシでの口腔ケアが必要な方は1日3回、口腔ケアを実施している。その内、歯ブラシを使用する入所者で見守りや介助が必要な方は歯ブラシに赤のテープを巻き、業務の効率化を図っている。しかし、職員によって口腔ケアにかける時間の差や対応の違いなども多く見られ、個々に応じた口腔ケアを行えていないのではないか、歯磨きセットを配り回収するだけの流れ作業になっているのではないかという日々の口腔ケアに対する疑問や不満を抱えている職員がいることが現状である。
 本研究ではBDR指標という口腔清掃の自立度判定基準を用いて口腔清掃、義歯着脱、含嗽について職員が評価を行い、入所者に対する口腔ケアの認識に差異が生じていないか確認した。認知棟での口腔ケアの問題を可視化し改善策を検討した。
【対象者の状況】
 高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)はJ2‐1名、A1‐2名、B1‐1名、B2‐11名、C1‐3名で認知症高齢者の日常生活自立度はIIIa‐6名, IIIb‐7名、IV‐5名である。また、介護度は要介護3‐5が対象者の8割を占めている。
【対象と方法】
 歯ブラシに赤テープを巻いている入所者15名、その他で見守りや介助の必要性を感じる入所者3名を対象とした。対象者をA‐D班の4グループに分けA、B班は対象者5名、C、D班は4名の評価を行った。評価を行う職員は対象者と同じ人数でグループ分けを行った。
 口腔ケアの認識の差異について確認したい為、職員同士で相談せず、各職員の判断で評価するように注意喚起した上でBDR指標の記入用紙を配布した。
 本研究で使用したBDR指標はB.歯磨き、D.義歯着脱、R.うがいを示している。また、配布した記入用紙には改訂BDR指標における歯と義歯の清掃状況の自発性、習慣性、巧緻性の3項目の評価を除き、歯磨き、義歯着脱、うがいの3項目を自立、一部介助、全介助の3段階で当てはまるものに丸をつけるという簡易版を使用して歯科専門職以外も利用しやすいよう配慮した。
 差異については同じ組み合わせの評価は1として数えて、差異がない場合は0、2通りの組み合わせがある場合は2というように数えて、差異が生じている場合は最小2、最大5の差異が生じたこととする。
【結果】
 対象者全員の評価に差異が生じていた。対象者5名のA、B班では最小2、最大5の差異が生じており、4名のC、D班も最小2、最大4の差異が生じていた。
 大きな差異が生じていた対象者では自立‐全介助と評価が分かれていた。歯磨きと義歯着脱には大きな差異があったが、うがいは大きな差異はなく、自立‐一部介助または一部介助‐全介助の評価が多く、認識の差は小さかった。
 記入用紙に「うがい用の水を飲み込んでしまうことがある」「きちんと説明し、理解できれば義歯着脱を行なえる」といった意見を書き足すなど、本研究への積極性を感じられる職員もいた。
【考察】
  認知棟での口腔ケアの見直しに向けての取り組みであった為、日によって入所者の状況の変化が大きく、意欲が低い日は介助になったり、職員が忙しなく、本人の自立を促す余裕が無かったり、拒否があると「もういいわ」と諦めてしまうこともあった。また、声かけをきちんと行ったり、歯磨きや義歯着脱の動作を身振り手振りなどの非言語的アプローチを用いて説明することで理解が得られる入所者に対して全介助と評価している職員もいた為、過剰介護により認知症の中核症状である「失行」が進行してしまう恐れがあり、自立の妨げをしているのではないかといった問題が出てきた。
 対象者全員の結果や問題点をまとめ、口腔ケア係の職員へ報告を行い、見直しに取り組んだ。その後、連絡ノートを通じて改善策について職員全員へ報告を行い、周知徹底を図った。
 改善策については(1)声かけをきちんと行う(2)声かけで理解が得られない場合は非言語的アプローチを活用する(3)うがい用の水を飲み込んでしまう入所者には口腔ケアシートでの拭き取りを施行する(4)歯磨きの項目で自立の評価が多かった入所者でも部分床義歯を使用していると鉤歯に食物残渣やプラークが溜まりやすい。口腔内のチェックと職員による仕上げ磨きを行うことを個々に応じて提示した。対象者全員の仕上げ磨きを確実に実施出来る様、現在時間や職員の配置を検討している。
【まとめ】
 口腔ケアへの関心の低さがこの結果をもたらしているのではないかと考え、今後は口腔ケアの実際の手技などを歯科衛生士が指導する学習会を行っていきたい。
 過剰介護になってしまっている職員もいた為、介護老人保健施設の理念と役割について改めて理解を深めて自立支援に取り組み、個々に合った質の高いケアを提供できるように心がけていきたい。