講演情報

[14-O-I001-07]意識改革!いい事づくめの口腔ケア~STOPオーラルフレイル 3年間でどう変わった?~

*小椋 るり子1、今田 裕子1 (1. 東京都 医療法人社団 英世会 介護老人保健施設カトレア)
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職員一人ひとりが口腔衛生の重要性を理解し、口腔ケアを実践した結果を報告する。
令和元年から口腔ケアの個別指導を実施、令和3年からは歯科衛生士と他職種が協働し、ご利用者の口腔衛生管理に取り組んだ。
歯科衛生士からの助言を元にご利用者に適した口腔ケアが行われQOLが向上。職員の技術やモチベーションもアップし、口腔衛生管理加算算定数も増加した。
高齢者にとって口腔衛生を保持することの重要を実感した。
【はじめに】
誤嚥性肺炎の入院者が多かった当施設は「口腔ケア」に力を入れようと、令和元年に看護、介護の役職と言語聴覚士が集まり口腔ケア会議を開催した。口腔指導計画を作成し、時間をかけ一人ひとりのご利用者に口腔ケアを行った結果、徐々に誤嚥性肺炎の入院者が減少、口臭も改善した。さらにケアする職員のモチベーションアップにも繋がった。
令和3年度介護報酬改定により口腔衛生管理加算が努力義務化となったが、多職種協働で口腔ケアを行っていたため改定後スムーズに入所者9割以上の口腔衛生管理加算2を算定し計上できている。
口腔ケアの指導と口腔衛生管理加算を算定することで、ご利用者と当施設にどのような影響があったかについて報告する。
【目的】
口腔ケアの主な目的は(1)口腔内の細菌や汚れの除去(2)口腔機能訓練やマッサージである。その他口腔ケアを行う利点としてQOLの向上、齲歯や歯周病の予防、唾液分泌による口腔内の自浄、味覚・口臭の改善、コミュニケーションの円滑化、認知症予防等多岐にわたる。
ご利用者の誤嚥性肺炎予防のため、フロア職員に口腔ケアについて正しく理解してもらい、ご利用者に合った口腔ケアを提供できるように多職種協働で関わり、多方面からアプローチできることが必要と考えた。それにより口腔衛生管理加算の算定にも紐づけることを目的とした。
【方法】
令和元年から、言語聴覚士から口腔ケアの正しい方法やポイント(ブラッシング方法や義歯の取り扱い、姿勢やマッサージ方法)をマンツーマンで各フロアの役職が指導を受けた。次に役職がフロア職員6名を担当し指導内容を伝授、口腔ケアの実践ポイントチェック表で評価を行った。これと同じ過程を年に4回実施した。
令和3年には、介護報酬改正にて口腔衛生管理体制加算が廃止され基本サービスへと移行、LIFEへの提出も始まり、歯科医と歯科衛生士が中心となり、2週に1回フロアにて、看護や介護、事務職も加わり多職種協働で口腔内検診[以下検診]を始めた。その都度担当職員から口腔ケアで困っていることなどの質疑を歯科衛生士に伝え、回答を貰う方法で行った。
検診時にご利用者のブラッシング方法や適切な歯ブラシの選択なども、個別指導してもらい、指導内容をフロア職員用の各利用者整容表(口腔状態一覧表)に転記、それをフロア職員が確認し口腔ケアを実践した。
事務職は、口腔状態に必要な助言を歯科医や歯科衛生士から聞き取り必要項目事項にチェックを行い、LIFEへの入力業務を担当。また結果を栄養課とリハビリ課へ報告し、口腔衛生管理加算の算定を行う。栄養課とリハビリ課は、検診結果の報告を受けて、ミールランドを実施し嚥下状態や食事形態の見直しに繋げていく。
【結果】
口腔衛生に取り組むことで年間誤嚥性肺炎入院者数が、令和元年14件(口腔ケア教育を開始した年)、令和2年5件、令和3年7件(口腔衛生管理加算算定が努力義務となった年、LIFEスタート)、令和4年10件(内7名はCOVID-19のクラスターによる呼吸不全、実質3件)、令和5年6件と確実に誤嚥性肺炎の入院者は減少したことが分かる。
検診を定期的に行う事によって、当初は検診に拒否的だったご利用者も、回数を重ねる内に拒否なく開口しスムーズに検診を行えるようになった。また舌癌や腫瘍などの早期発見ができ受診に繋げられたケースもあった。検診を定期的に行い口腔衛生が保たれている状況で、食べることに苦痛を伴わない毎日へとQOLの向上へと繋がっている。
口腔衛生管理加算算定の結果、介護報酬1単位あたりの単価(3級地で10.68円)で換算すると、令和3年度1,406件数で152,180単位(1,625,282円)・令和5年度は1,545件数で167,090単位(1,784,521円)と施設の増収となった。そして9割以上のご利用者の口腔衛生管理ができている。
令和6年5月に口腔ケアに関して職員にアンケートを実施した結果「歯磨き指導により自分のケアが上達したと思いますか?」の問いに61人中56名が上達したと答えた。「歯科衛生士が入ることによってケアに対して以前より意識するようになりましたか?」の問いには、60名から「はい」との回答が得られた。口腔衛生については歯科医・歯科衛生士との連携もとれ、多職種協働で取り組んでいる。
【考察】
当施設における誤嚥性肺炎が原因となる入院退所者数は令和元年から比較して令和5年は大きく減少していることから口腔内が清浄に保たれている事が誤嚥性肺炎予防の一因と考える。
アンケート結果からも口腔ケア指導をマンツーマンで行ったことにより職員一人ひとりが口腔ケアの必要性を認識し、口腔ケアの技術も向上し、モチベーションアップに繋がり、ご利用者により良いケアサービス提供へと繋がることができた。
また口腔衛生に対して積極的に介入を行った結果、当施設での加算算定の推移として、令和3年度と令和5年度を比較すると加算1、2の算定件数及び算定単位数共に増加を認めている。
口腔ケアの指導と口腔衛生管理加算の取り組みを平行して行ったことで、ご利用者の口腔内清浄の維持、当施設の運営に対し良い結果をもたらすことができた。
【終わりに】
口腔衛生管理加算を算定するということは単純に施設運営にとってメリットは大きい。しかしそれ以上に口腔内が清浄に維持されることで、ご利用者の健康状態が向上するというメリットは更に大きい。
歯科衛生士から指導を受けることでフロア職員のスキルがアップし、誤嚥性肺炎の予防や認知機能維持など、ご利用者にも良質なサービスの提供へと繋がっている。口腔ケア指導の課題は多いが当施設のご利用者の口腔衛生は守られている。
口腔ケアは生命維持には欠かせない重要なケアであり、今後もご利用者の口腔内が清浄に保てるよう多職種協働で取り組みたい。