講演情報
[14-O-I002-01]通所リハビリにて自宅での入浴再獲得を目指した事例自宅環境再現の工夫と早期アプローチの重要性
*寺西 渉1、青木 裕介1 (1. 京都府 介護老人保健施設ひしの里)
入浴介助加算(2)算定要件にある「利用者の居宅に近い環境」設定を、施設環境と資材を用いて行い、自宅入浴再獲得に取り組んだ事例を報告する。介入前からの他職種連携含め早期アプローチにより的確な環境評価・設定が行え、動作時の恐怖心を継続的な機能訓練や動作練習により改善。介護支援専門員(以下CM)による迅速なサービス調整もあり、利用開始から14週目で目標達成に至り、これらの取り組みは転倒予防効果も示唆された。
【目的】
入浴介助加算(2)の算定において、「利用者の居宅の状況に近い環境」をどう設定するかが課題となることがある。本事例では、施設の物品で簡易に浴室の状況を再現し、自宅での入浴再獲得に向けて取り組んだ内容を伝える。
【事例紹介】
80代女性。当施設通所リハビリをY月-10ヶ月より週1回利用。一軒家にて独居で身の回りの活動は概ね自立。近隣に長女が住んでおり、定期的な支援があり、入浴は長女見守り下で行っていた。今回の受傷直前に住宅改修し、浴室はより入浴しやすい環境になっていた。然し、X年Y月に右大腿骨転子部骨折受傷。観血的整復固定術を受け、リハビリ加療後に退院。Y月+4ヶ月、当施設通所リハビリ再利用開始(週2回)となる。
【評価】
元々円背が強く、浴槽に浸かる際には浴槽内台を要す。受傷前は杖や伝い歩きで移動可も、再利用時は右股関節周囲を中心に筋力低下もみられ、歩行に対する恐怖心もあり、歩行車使用が妥当なレベル(歩行転換時の軽度ふらつきあり、施設内見守り。退院後も自宅での転倒歴あり)。右股関節は、浴槽内台での立ち座り可能な関節可動域を獲得している(痛みなく運動可)。階段の横歩きでの昇降は、恐怖心あるため接触介助は要すが、前方手すりにて痛みなく可。HDS-R26/30点。指示理解良好。今回の課題となる跨ぎ動作が必要な浴槽は、高さが外43cm/内45cmで、跨ぎ動作時の支持物として高さ76cmの支持台あり。立ち座りする浴槽内には高さ18cmの浴槽内台と滑り止めマット、座って右側に42cmと72cmの高さに手すりあり。
【経過】
再利用開始前のサービス担当者会議において、自宅での入浴再獲得の希望をCMより聴取。利用開始早々に家屋調査にて浴室環境を評価し、段ボールやラップ芯等の資材を用いて浴槽の跨ぎ練習用具を作成。施設内の横手すりを支持台に模し、作成した用具を設置することで、擬似の自宅浴槽が完成。
擬似環境下で跨ぎ動作を評価するも、右下肢支持となる場面では恐怖心もあり、引っ掛かりが必発。跨ぐ側の下肢が浴槽縁を通過する段階で介助すれば引っ掛かりなく行えており、浴槽跨ぎ動作部分だけを考えれば現時点でも支援下であれば実施可であった。然し、更衣含め一連の入浴関連活動や、前後の移動時の耐久性、安心して入浴できる心理的安定を鑑み、動作安定性向上の必要性があると考え、本氏やCMとも相談し、短期集中リハビリテーション後、暖かくなる時期に合わせて自宅での入浴支援導入を目指すこととなる。
移動時の耐久性、右股関節周囲の支持性強化を目的として、個別リハビリでは平行棒内での跨ぎ動作を含む歩行練習、階段の横歩きでの昇降練習、マシントレーニングを実施。介護職へはリハビリ会議を通して取り組みについて説明し、入浴時の諸活動について、過介助にならない範囲での支援を継続。
利用再開から2週目に再び擬似環境での跨ぎ動作評価。前回より恐怖心軽減しており、跨ぐ際の下肢介助は必要も、介助量は軽減。以降プログラムに擬似環境での跨ぎ動作練習追加。立ち位置の微修正や性急な動作にならないよう支持側への荷重を確実に行う等、動作指導内容を想起できており、反復練習の効果あり。利用再開から6週目には介助なしでも引っ掛かりなく跨ぐことが可能となり始める。進捗状況をCMへ連絡し、予定通り目標達成に向けて経過していることを共有する。
利用再開から11週間目には、介助なしでほぼ引っ掛かりなく、恐怖心もなく動作可となる。12週目に臀部皮膚状態悪化の兆候あり。跨ぎ動作の安定性向上を受け、実際の環境にある浴槽外と内の2cm差も擬似環境として設定(週刊誌を使用)した動作評価、浴槽内での立ち座り環境に近い環境を作っての動作評価をそれぞれ実施し、見守り支援下で動作可であると判断。本氏に自宅での入浴について意思を確認しCMへ連絡。皮膚状態悪化予防目的としても、入浴機会を増やしていくことは有効であるため、皮膚状態の観察も兼ねて訪問看護の支援下での自宅入浴開始を打診。自宅でのサービス担当者会議に担当療法士が同席し、長女、CM、訪問看護スタッフと共に実際の浴室での動作を評価し、見守り下での動作可であることを確認。
結果、利用再開14週目に、週1回の訪問看護での入浴支援開始(自宅入浴再獲得)となる。自宅での入浴開始後も、フォローアップとしてプログラム内で跨ぎ動作練習を継続し、入浴に係る状態変化等があればCM等との連携をすぐ図れる状態を維持している。自宅での入浴開始前は複数回自宅での転倒報告があったが、自宅での入浴開始後は転倒なく経過している。
【考察】
本事例においては、
CMからの情報提供で入浴に関するアプローチが必須であることを利用前から確認できており、開始早々の家屋評価をスムーズに行えた。
「利用者の居宅の状況に近い環境」を施設環境と資材を用いて設定できた。
擬似環境下での動作訓練を反復し、動作への恐怖心を軽減していけた。
以上3点がキーとなり、自宅での入浴再獲得を早期に実現することができたと考える。
要介護認定を受けた高齢者にとって、入浴機会の確保は課題として挙げられることが多い。然し、介護保険法第18条2項に、介護老人保健施設での入浴は週2回以上との旨の文言があるように、サービス利用下でも入浴機会は週2回という状況は少なくない。今回の事例においては、通所リハビリ利用者であったが、当初は週2回という頻度であった。「浴槽入浴の頻度が高いほど要介護認定のリスクが少ない」(八木明男氏らの研究,2018)、「うつ発症予防のため、高齢者へ、できれば毎日の浴槽入浴が勧められる」(早坂信哉氏らの研究,2023)といった報告があるように、心身の健康に入浴回数は影響していることが示唆されているが、本事例においても入浴回数が増えて以降転倒報告なく経過しており、運動機能面において何らかの効果が生じていると考えられる。
入浴介助加算(2)の算定において、「利用者の居宅の状況に近い環境」をどう設定するかが課題となることがある。本事例では、施設の物品で簡易に浴室の状況を再現し、自宅での入浴再獲得に向けて取り組んだ内容を伝える。
【事例紹介】
80代女性。当施設通所リハビリをY月-10ヶ月より週1回利用。一軒家にて独居で身の回りの活動は概ね自立。近隣に長女が住んでおり、定期的な支援があり、入浴は長女見守り下で行っていた。今回の受傷直前に住宅改修し、浴室はより入浴しやすい環境になっていた。然し、X年Y月に右大腿骨転子部骨折受傷。観血的整復固定術を受け、リハビリ加療後に退院。Y月+4ヶ月、当施設通所リハビリ再利用開始(週2回)となる。
【評価】
元々円背が強く、浴槽に浸かる際には浴槽内台を要す。受傷前は杖や伝い歩きで移動可も、再利用時は右股関節周囲を中心に筋力低下もみられ、歩行に対する恐怖心もあり、歩行車使用が妥当なレベル(歩行転換時の軽度ふらつきあり、施設内見守り。退院後も自宅での転倒歴あり)。右股関節は、浴槽内台での立ち座り可能な関節可動域を獲得している(痛みなく運動可)。階段の横歩きでの昇降は、恐怖心あるため接触介助は要すが、前方手すりにて痛みなく可。HDS-R26/30点。指示理解良好。今回の課題となる跨ぎ動作が必要な浴槽は、高さが外43cm/内45cmで、跨ぎ動作時の支持物として高さ76cmの支持台あり。立ち座りする浴槽内には高さ18cmの浴槽内台と滑り止めマット、座って右側に42cmと72cmの高さに手すりあり。
【経過】
再利用開始前のサービス担当者会議において、自宅での入浴再獲得の希望をCMより聴取。利用開始早々に家屋調査にて浴室環境を評価し、段ボールやラップ芯等の資材を用いて浴槽の跨ぎ練習用具を作成。施設内の横手すりを支持台に模し、作成した用具を設置することで、擬似の自宅浴槽が完成。
擬似環境下で跨ぎ動作を評価するも、右下肢支持となる場面では恐怖心もあり、引っ掛かりが必発。跨ぐ側の下肢が浴槽縁を通過する段階で介助すれば引っ掛かりなく行えており、浴槽跨ぎ動作部分だけを考えれば現時点でも支援下であれば実施可であった。然し、更衣含め一連の入浴関連活動や、前後の移動時の耐久性、安心して入浴できる心理的安定を鑑み、動作安定性向上の必要性があると考え、本氏やCMとも相談し、短期集中リハビリテーション後、暖かくなる時期に合わせて自宅での入浴支援導入を目指すこととなる。
移動時の耐久性、右股関節周囲の支持性強化を目的として、個別リハビリでは平行棒内での跨ぎ動作を含む歩行練習、階段の横歩きでの昇降練習、マシントレーニングを実施。介護職へはリハビリ会議を通して取り組みについて説明し、入浴時の諸活動について、過介助にならない範囲での支援を継続。
利用再開から2週目に再び擬似環境での跨ぎ動作評価。前回より恐怖心軽減しており、跨ぐ際の下肢介助は必要も、介助量は軽減。以降プログラムに擬似環境での跨ぎ動作練習追加。立ち位置の微修正や性急な動作にならないよう支持側への荷重を確実に行う等、動作指導内容を想起できており、反復練習の効果あり。利用再開から6週目には介助なしでも引っ掛かりなく跨ぐことが可能となり始める。進捗状況をCMへ連絡し、予定通り目標達成に向けて経過していることを共有する。
利用再開から11週間目には、介助なしでほぼ引っ掛かりなく、恐怖心もなく動作可となる。12週目に臀部皮膚状態悪化の兆候あり。跨ぎ動作の安定性向上を受け、実際の環境にある浴槽外と内の2cm差も擬似環境として設定(週刊誌を使用)した動作評価、浴槽内での立ち座り環境に近い環境を作っての動作評価をそれぞれ実施し、見守り支援下で動作可であると判断。本氏に自宅での入浴について意思を確認しCMへ連絡。皮膚状態悪化予防目的としても、入浴機会を増やしていくことは有効であるため、皮膚状態の観察も兼ねて訪問看護の支援下での自宅入浴開始を打診。自宅でのサービス担当者会議に担当療法士が同席し、長女、CM、訪問看護スタッフと共に実際の浴室での動作を評価し、見守り下での動作可であることを確認。
結果、利用再開14週目に、週1回の訪問看護での入浴支援開始(自宅入浴再獲得)となる。自宅での入浴開始後も、フォローアップとしてプログラム内で跨ぎ動作練習を継続し、入浴に係る状態変化等があればCM等との連携をすぐ図れる状態を維持している。自宅での入浴開始前は複数回自宅での転倒報告があったが、自宅での入浴開始後は転倒なく経過している。
【考察】
本事例においては、
CMからの情報提供で入浴に関するアプローチが必須であることを利用前から確認できており、開始早々の家屋評価をスムーズに行えた。
「利用者の居宅の状況に近い環境」を施設環境と資材を用いて設定できた。
擬似環境下での動作訓練を反復し、動作への恐怖心を軽減していけた。
以上3点がキーとなり、自宅での入浴再獲得を早期に実現することができたと考える。
要介護認定を受けた高齢者にとって、入浴機会の確保は課題として挙げられることが多い。然し、介護保険法第18条2項に、介護老人保健施設での入浴は週2回以上との旨の文言があるように、サービス利用下でも入浴機会は週2回という状況は少なくない。今回の事例においては、通所リハビリ利用者であったが、当初は週2回という頻度であった。「浴槽入浴の頻度が高いほど要介護認定のリスクが少ない」(八木明男氏らの研究,2018)、「うつ発症予防のため、高齢者へ、できれば毎日の浴槽入浴が勧められる」(早坂信哉氏らの研究,2023)といった報告があるように、心身の健康に入浴回数は影響していることが示唆されているが、本事例においても入浴回数が増えて以降転倒報告なく経過しており、運動機能面において何らかの効果が生じていると考えられる。