講演情報
[14-O-B001-03]合意目標決定までのマネジメントに難しさを感じた事例~キーパーソンが感じる負担とは?~
*平松 千枝1 (1. 東京都 介護老人保健施設花水木)
通所リハを利用する90歳前半、要介護1の女性A氏から「ゴミ出しを自分でしたい」「美容院に行く回数を増やしたい」と聞かれたため、対象者の目標をチームで支援するMTDLPを用いた介入を行った。チーム員が集まるサービス担当者会議にて目標を検討した際、キーパーソンである嫁とのすり合わせに難渋した。このことから、身体的、心理的な介護負担だけでなく介護者の有する多重責任についても配慮すべきと考えられた。
【はじめに】
通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用開始から約1年経過したA氏から「ゴミ出しを自分でしたい」「美容院に行く回数を増やしたい」と聞かれたため、対象者の目標をチームで支援する生活行為向上マネジメント(以下、MTDLP)を用いた介入を行った。チーム員が集まるサービス担当者会議にて目標を検討した際、キーパーソンである嫁とのすり合わせに難渋し、その経験から得られた若干の知見を報告する。なお、本発表に際しては当施設の承認を得ており、A氏と嫁の同意を得ている。
【事例紹介】
A氏は90歳前半の女性。介護度は要介護1。診断名は慢性心不全、心房細動、高血圧。X年Y月に廃用性による身体機能低下で老健へ入所し、X年Y+1ヵ月に屋内独歩~伝い歩き、ADLほぼ自立レベルで独居生活に復帰した。週1回の訪問看護と訪問介護(家事援助)、週2回の通所リハビリを利用し、近隣に住む嫁の援助を得ながら生活していた。独居生活に慣れたX年Y+13ヵ月、A氏が新たな目標を抱いた様子だったため、MTDLPを用い目標の再検討を行った。A氏は自立心が強く頑張り屋で、美容やおしゃれに関心が高い方である。
【OT評価】
心身機能については、両肩にROM制限と疼痛があるため高い所に手を伸ばすことが困難で、例えば洗濯物は低い所で干せるよう環境調整を行ってある。手指は握力右12kg、左10kgでありADLに支障はないものの重い物を持つことや袋の口を固く結ぶ事が困難。歩行は自宅内を独歩~伝い歩き。近所の外出は杖歩行で介助者が付き添い、通所リハ内は歩行器を用いて自立。ADLはBI85/100点で入浴は嫁の見守りにて可。IADLに関して洗濯は自立、掃除は訪問介護に依頼。食事の下ごしらえやゴミ出し、買い物は嫁が一日一回A氏宅を訪問し支援している。週2回の通所リハでは積極的にリハビリ取り組まれ、レクリエーションも楽しんでいる。
興味関心チェックリストをもとに聞き取りを行ったところ、「自分でゴミ出しをやり嫁の負担を減らしたい」「美容院に行く回数を増やしたい」という2点が聞かれた。「嫁が膝を痛そうにしているから自分でできることを増やしたい」「おしゃれして綺麗でいたい」というA氏の思いから湧いてきた目標であった。
【経過】
アセスメント期:1つ目の「ゴミ出し」については、排出日や分別に関する管理は可能。10L程度のゴミであれば玄関まで伝い歩きで運ぶことが可能。マンション5階から1階のゴミ置き場までの距離は10m。杖歩行による運搬は困難だが歩行器を活用すれば可能。狭いEV内で歩行器をスムーズに操作できるよう操作練習は必要と考えられた。2つ目の「美容院」については、自宅から70m先にある近所の馴染み店に以前のように毎月通いたいとのことであった。現在、嫁が付き添い3ヵ月に一度利用しているが、毎月利用するために一人で行けるようになりたいとのことであった。通所リハ内で実施した70m歩行器歩行は3分を要し息切れがみられた。実際の道路状況については平坦なものの凹凸があり、歩行器操作の負担も加わると予想され、転倒リスクなども考慮すると付き添いがあった方が良いと考えられた。そのため、送迎について嫁以外の家族にサポートしてもらう、あるいははサービスを利用することも含めた検討が必要と考えられた。これらのことを踏まえ、A氏の描く目標に対してチームでどのように支援していくかをサービス担当者会議の場にて話し合うこととした。
目標のすり合わせ期:サービス担当者会議にはケアマネとA氏、嫁、通所リハのPT・OTが出席し、欠席した訪問看護と訪問介護とは情報を共有した。会議の始めに嫁に介護負担や自身の健康について話してもらったところ、A氏の介護負担よりも自分の膝痛の不安を話され、会議の場で嫁もリハを受けることに決まったものの、他にも家族に対する不安を話され、全体的に余裕の無さが感じられた。今回提案する目標に対しても難色を示しそうであったため、嫁の考えに耳を傾けながら嫁が許容できるスモールステップで検討していくこととした。結局、目標の1つ目の「ゴミ出しを自分で行う」に関しては、ゴミ置き場までの移動で転倒することが心配とのことで、移動を含まない内容ですり合わせ「ゴミを玄関にまとめて置く」までの工程を目標とし、早速一人で取り組むこととなった。2つ目の「美容院に行く回数を増やしたい」に関しては、「凹凸道だから歩行器は不安定だと思う」と否定的で、送迎については他の家族に依頼する、あるいはサービスを活用する案にも拒否的だった。そのため、外出につながる「玄関の鍵開閉を援助なしに自分でできるようになる」を目標とし、通所リハ送迎時にスタッフと取り組むこととなった。目標に向けた小さな一歩ではあるが、踏み出せたことをA氏は喜んでいる様子だった。
【今後の展望と考察】
MTDLPは対象者の目標をチームで支援するため、サービス担当者会議などチーム員が集まる場で目標と支援方法をすり合わせることが大切となる。今回、対象者に一番近い嫁が難色を示したため、嫁に寄り添う形で合意目標を決定した。今後の展望としては、A氏の「できる姿」を示し理解を得た上で検討する場を持ったり、利用できる支援に対して抵抗感を減らせるよう身近な例を示したりしながら目標見直しの機会につなげていきたい。
今回の経験から、嫁が示した難色は対象者に対する身体的、心理的な介護負担だけでなく、嫁の置かれた状況によってもたらされたものではないかと感じられた。Zhuらは、実質的な介護負担に先行し、介護者の置かれている状況の中で多重責任についても配慮すべきだと指摘している。介護者負担を考慮する際は、このような観点からも捉えられるようにし、必要な支援に繋げられるようにしていきたい。
通所リハビリテーション(以下、通所リハ)利用開始から約1年経過したA氏から「ゴミ出しを自分でしたい」「美容院に行く回数を増やしたい」と聞かれたため、対象者の目標をチームで支援する生活行為向上マネジメント(以下、MTDLP)を用いた介入を行った。チーム員が集まるサービス担当者会議にて目標を検討した際、キーパーソンである嫁とのすり合わせに難渋し、その経験から得られた若干の知見を報告する。なお、本発表に際しては当施設の承認を得ており、A氏と嫁の同意を得ている。
【事例紹介】
A氏は90歳前半の女性。介護度は要介護1。診断名は慢性心不全、心房細動、高血圧。X年Y月に廃用性による身体機能低下で老健へ入所し、X年Y+1ヵ月に屋内独歩~伝い歩き、ADLほぼ自立レベルで独居生活に復帰した。週1回の訪問看護と訪問介護(家事援助)、週2回の通所リハビリを利用し、近隣に住む嫁の援助を得ながら生活していた。独居生活に慣れたX年Y+13ヵ月、A氏が新たな目標を抱いた様子だったため、MTDLPを用い目標の再検討を行った。A氏は自立心が強く頑張り屋で、美容やおしゃれに関心が高い方である。
【OT評価】
心身機能については、両肩にROM制限と疼痛があるため高い所に手を伸ばすことが困難で、例えば洗濯物は低い所で干せるよう環境調整を行ってある。手指は握力右12kg、左10kgでありADLに支障はないものの重い物を持つことや袋の口を固く結ぶ事が困難。歩行は自宅内を独歩~伝い歩き。近所の外出は杖歩行で介助者が付き添い、通所リハ内は歩行器を用いて自立。ADLはBI85/100点で入浴は嫁の見守りにて可。IADLに関して洗濯は自立、掃除は訪問介護に依頼。食事の下ごしらえやゴミ出し、買い物は嫁が一日一回A氏宅を訪問し支援している。週2回の通所リハでは積極的にリハビリ取り組まれ、レクリエーションも楽しんでいる。
興味関心チェックリストをもとに聞き取りを行ったところ、「自分でゴミ出しをやり嫁の負担を減らしたい」「美容院に行く回数を増やしたい」という2点が聞かれた。「嫁が膝を痛そうにしているから自分でできることを増やしたい」「おしゃれして綺麗でいたい」というA氏の思いから湧いてきた目標であった。
【経過】
アセスメント期:1つ目の「ゴミ出し」については、排出日や分別に関する管理は可能。10L程度のゴミであれば玄関まで伝い歩きで運ぶことが可能。マンション5階から1階のゴミ置き場までの距離は10m。杖歩行による運搬は困難だが歩行器を活用すれば可能。狭いEV内で歩行器をスムーズに操作できるよう操作練習は必要と考えられた。2つ目の「美容院」については、自宅から70m先にある近所の馴染み店に以前のように毎月通いたいとのことであった。現在、嫁が付き添い3ヵ月に一度利用しているが、毎月利用するために一人で行けるようになりたいとのことであった。通所リハ内で実施した70m歩行器歩行は3分を要し息切れがみられた。実際の道路状況については平坦なものの凹凸があり、歩行器操作の負担も加わると予想され、転倒リスクなども考慮すると付き添いがあった方が良いと考えられた。そのため、送迎について嫁以外の家族にサポートしてもらう、あるいははサービスを利用することも含めた検討が必要と考えられた。これらのことを踏まえ、A氏の描く目標に対してチームでどのように支援していくかをサービス担当者会議の場にて話し合うこととした。
目標のすり合わせ期:サービス担当者会議にはケアマネとA氏、嫁、通所リハのPT・OTが出席し、欠席した訪問看護と訪問介護とは情報を共有した。会議の始めに嫁に介護負担や自身の健康について話してもらったところ、A氏の介護負担よりも自分の膝痛の不安を話され、会議の場で嫁もリハを受けることに決まったものの、他にも家族に対する不安を話され、全体的に余裕の無さが感じられた。今回提案する目標に対しても難色を示しそうであったため、嫁の考えに耳を傾けながら嫁が許容できるスモールステップで検討していくこととした。結局、目標の1つ目の「ゴミ出しを自分で行う」に関しては、ゴミ置き場までの移動で転倒することが心配とのことで、移動を含まない内容ですり合わせ「ゴミを玄関にまとめて置く」までの工程を目標とし、早速一人で取り組むこととなった。2つ目の「美容院に行く回数を増やしたい」に関しては、「凹凸道だから歩行器は不安定だと思う」と否定的で、送迎については他の家族に依頼する、あるいはサービスを活用する案にも拒否的だった。そのため、外出につながる「玄関の鍵開閉を援助なしに自分でできるようになる」を目標とし、通所リハ送迎時にスタッフと取り組むこととなった。目標に向けた小さな一歩ではあるが、踏み出せたことをA氏は喜んでいる様子だった。
【今後の展望と考察】
MTDLPは対象者の目標をチームで支援するため、サービス担当者会議などチーム員が集まる場で目標と支援方法をすり合わせることが大切となる。今回、対象者に一番近い嫁が難色を示したため、嫁に寄り添う形で合意目標を決定した。今後の展望としては、A氏の「できる姿」を示し理解を得た上で検討する場を持ったり、利用できる支援に対して抵抗感を減らせるよう身近な例を示したりしながら目標見直しの機会につなげていきたい。
今回の経験から、嫁が示した難色は対象者に対する身体的、心理的な介護負担だけでなく、嫁の置かれた状況によってもたらされたものではないかと感じられた。Zhuらは、実質的な介護負担に先行し、介護者の置かれている状況の中で多重責任についても配慮すべきだと指摘している。介護者負担を考慮する際は、このような観点からも捉えられるようにし、必要な支援に繋げられるようにしていきたい。