講演情報

[14-O-B001-06]ICT(見守りシステム)導入による生産性の向上ケアの質向上と職場環境の改善

*石川 雅已1 (1. 愛知県 医療法人愛生館老人保健施設ひまわり)
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ICTの一つとして「見守りシステム」(動体検知カメラ)を導入した。ケアの質向上、業務負担軽減、介護事故のリスク管理等の視点から物理的実測値と客観的にアンケートで比較した。その設置前後の変化を報告する。
はじめに                                    2024年度の介護報酬改定で「生産性向上推進体制加算」が新設された。人材不足、要介護者の増加、離職問題、財源不足等の課題が叫ばれている介護業界の昨今、当施設ではICT等のテクノロジー導入として、「見守りシステム」(動体検知カメラ)を設置した。本システム導入により、利用者の動きを感知・記録し、利用者の動きの傾向、事故の発生要因、巡視の要否などを把握・分析できるようになった。設置後の効果を多方面で評価したので報告する。1) 目的当施設ではケアの質向上、業務負担軽減、転倒・転落事故の削減を目的とし、2024年3月よりICTの一つとして見守りシステムを個室・多床室の合計100床(4フロア)に導入した。設置後、3ヶ月経った為、ケアの質向上とスタッフの職場環境の改善による生産性の変化を、客観的に評価する。2) 対象と方法映像記録により、転倒・転落の真因分析の可否、巡視の要否などを分析・集計し、物理的な設備の効果を測定。また、スタッフの主観的な有効度を測るためアンケートを実施した。期間:2024年3月~2024年6月対象者:介護士、看護師3) 倫理的配慮 アンケートは個人が特定できない事、研究目的以外には使用しない事を文書に明記した。 業務で得た画像および映像は、個人情報保護により他へ流出しないことを文書に明記した。4) 結果・考察 利用者のケアの質の向上とスタッフの職場環境の改善による生産性の変化は、下記の通りとなった。・巡視が不要になったことでスタッフのゆとり時間の増加 夜勤ひとり当たり44.6分増加・ナースコールや足元センサー等鳴動時に訪室する負担率 100%→17%に減少・センサー類の取り付け取り外し、交換等の手間の削減  ひと月当たり6時間4.7分の低減・転倒・転落による治療を必要とする事故 月平均0.42%→0%(R5年5件→現在0件)事故の真因分析には効果があり、個々の事故には最適な対策を講じることができた。動体検知カメラは居室内の利用者の動きに関して映像記録を残すことで、転倒・転落事故の真因究明を確実なものとする。例えば、今まで居室で発生する事故は、事故後に発見されるため、要因分析ができず推測で対策を行っていた。しかし動体検知カメラによって、確固たる根拠のもとに対策することができるようになった。また副効果として、例えば、利用者が居室で紛失した義歯がどこにあるのか映像により発見することが可能となった。このように居室内における利用者の事故防止や、安全な環境が担保できる強みがある。映像に残ることでのメリットも多く報告があり、中でも夜間不眠の利用者へは、映像をみて介入のタイミングを図れることが、スタッフの安心感につながった。巡視に関しては、今まで自分の目で確認していたのを機械に任せるようになったことへの不安感から、カメラ設置後も今までと同様に巡視をしているスタッフも少数いた。当初、アンケートの主観的な評価は、思ったほど良好ではなかったが、機械に慣れてくると同時に効果が表れ始めている。巡視で訪室することが、逆に利用者の安眠を妨げている事になる為、スタッフには見守りシステムの機能や効果を、さらに理解してもらう事が今後の課題である。実際に得ることのできたゆとりの時間は、まずはスタッフへの休憩時間へと還元されており、働きやすさ向上から、介護業界が抱えている人材不足や離職問題等の防止に貢献できると考える。5) おわりに見守りシステム設置より、事故の真因把握については事故発生時の映像より、真因把握が可能となり、その後の対応も含めて十分な効果があった。また、本システム設置の物理的効果とスタッフの主観的な効果については、機器の取り扱いに慣れてくるに従って徐々に効果が表れている。今後もスタッフに啓蒙し、データ測定期間が長くなれば十分な効果が表れると手応えを感じている。この見守りシステムには、他にも、利用者の行動パターンや動線の傾向分析、時間ごとの睡眠の深さを分析することができる等、素晴らしい機能があるが、スタッフの様子を見て、追々取り入れていきたい。