講演情報

[14-O-B001-08]新介護支援システム導入顛末記

*米倉 倫右1、平井 鉄也1、宇山 慎吾1、千田 一聖1、若穂井 秀樹1 (1. 東京都 介護老人保健施設ケアセンター南大井)
PDFダウンロードPDFダウンロード
見守り機器システムの性能が、導入直後から発揮するものではなく、職員への指導など施設側の準備も大きいことを報告する。職員への使用方法の伝達や、新しい物への拒否反応を示す職員への説明等を実施した。その結果、「誰の為の見守り機器か」を、踏まえて開発業者と熟成させていくことができた。この導入でどんなに優れたシステムでも使う人間次第で大きくパフォーマンスが変化することも考察した。
【はじめに】私たちは、今年24年目を迎える介護老人保健施設である。既存のナースコールシステムから新たな見守り機器を導入したが、その中で苦労した点や学んだことが多くあった。これから新たなシステムの導入を考えている施設の方や、すでに導入している施設の方にも参考になることを願い発表する。
私たちの施設は2000年開設、東京都品川区の介護老人保健施設で、2階に56名、3階に44名の計100名の受け入れが可能。3階は認知症専門棟となっている。介護職員はおよそ50名。
【目的】私たちが新たな介護支援システムの導入に至ったきっかけと目的について。
開設当初から稼働している、PHS受信端末を用いたナースコールシステムが老朽化し、故障の際に交換部品も不足するようになっていた。
また転倒事故があれば病院への搬送、重症化の可能性から頭部CT撮影をしてもらい、たとえ無傷で終わっても見守り回数を増やすなど、介護職員の負担も増えていくため、各居室の様子がわかる映像システムの導入が切望されていた。
新たな見守り機器を導入するメリットは「職員の負担軽減」である。具体的には
(1)利用者の転倒の事故があった時、録画映像を確認することで、事故の検証が行えて損傷部位が明確化できる。
(2)重複したナースコールが発生したときに、訪室優先度の高低が判断できる。
(3)記録が従前より使用している、記録用PCソフトへ自動入力されることによる時間の短縮。
【方法】導入にあたって、3社に候補を絞り、性能面、金額面から比較検討を行い、新興の会社で、既存のシステムを進化させた次世代介護支援システムを開発したジーコム株式会社の「ココヘルパX」を導入することとした。単なるナースコールシステムではなく、見守り録画カメラとセンサー機能を備え、それらの反応が各職員の持つスマートフォン(以下「スマホ」とする)に知らせがくるという機能と最新型機という点が魅力的であった。
実践導入を通してジーコム社と共同で検証を行うこととし、また東京都からの介護機器導入への補助金も活用し、3月から導入が開始された。
導入初期は混乱も予想されるため、旧システムもしばらく併用する形で工事が進められた。
【結果】導入してから4カ月、これまでに発生した主な問題点および対処と現状について述べる。
(1)コール呼び出しの混線
2階利用者のナースコールが2階職員だけでなく別フロアーである3階職員にも呼び出しが来てしまう事態が発生した。
これは1台のコンピュータで複数階を管理する形であったため、2階で起こった内容も、3階で起こった内容もすべて全職員の持つスマホ端末に呼び出しが来ていた。対応としてはジーコム社と協議し、2階と3階それぞれにコンピュータを設置し、2階と3階を別々の施設として設定してもらうことで、お知らせや呼び出しの分離をすることができた。
(2) 記録の自動化と転送時間
従前より使用している記録用PCソフトへの自動入力機能のレスポンスの悪さ。
現場で起きたことが従前より我々が使用している記録用ソフトに自動的に入力される、という点について、記録用ソフトへ入力が反映されるまでに50分ほどかかっていた。
ジーコム社も当初は「仕様である」と話してきたが、『ソフト側で作るシステムを使うのではなく、介護職員の業務改善のためにシステムを作ってもらう』といった姿勢で話し合いを続け、ソフト・システムの中継をスムーズにすることにより、記録用PCへの反映は50分から5分に縮めてくれた。
(3)介護職員への周知の徹底
職員への機器説明、周知の不徹底による現場の混乱
介護職員の中にはスマホなど「新しい物は怖い職員」もおり、抵抗を感じている者もいた。利用者の離床のお知らせがスマホに来ていても気づけなかったり、訪室対応が済んでいないのに「対応済み」としてしまうミスが起きた。
対応としては、介護職員に緊急アンケートを実施し、不明点を明確にして、パソコン用語を一般化してから再説明するなど「新しい物への拒否反応を示す職員」にも徐々に慣れてもらうように時間をかけて説明した。
(4)その他
体表温の検知や呼吸数確認を活用することで、夜間の巡回ラウンド数も減らすことができた。
【効果】事故の検証
居室ベッド横に長座位となっていた利用者の録画映像を確認したととろ、転落したのではなく、自身でベッドから降りて座っただけで、転倒事故ではなかったという事例がでてきている。
【考察】(1)職員への事前の働きかけと導入後のケアを怠らないこと。
全職員が集まっての説明会は勤務形態上難しいとしても、アンケートやPC上に意見板を設置するといった形で、職員全員の理解、認識を高める工夫が必要であった。
(2)ソフト開発業者と密接に連携できる体制をつくること。
必要な機能を絞り込んでブラッシュアップさせるには、開発業者との密接な議論の機会はなるべく多く設けることが必要である。今回導入を決めたジーコム社は地理的に近所であることもあり、連日話し合いを進めることができた。彼らには現場の声を聴く姿勢ができており『誰のための見守り機器か』を踏まえつつ、私たちと二人三脚でソフトを熟成させていくプロセスこそが大切であることを教えてくれた。
実践導入が最新型機であったため、各種トラブルは避けられないが、話し合いを継続することで、よりよい物に熟成させていくことができる。