講演情報

[14-O-L002-01]短下肢装具でスニーカーを履き社会参加に至った症例

*古賀 将矢1 (1. 大阪府 介護老人保健施設あおぞら)
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脳卒中後右片麻痺を呈した利用者において、装具装着下で病前と同じような紐靴のスニーカーを履くことを目指すことが、趣味や交流を目的とした外出意欲の創出に繋がり、利用者が望む形の社会参加に至った為報告する。
 ADLやIADLを獲得後も必要最低限の外出に留まったが、スニーカーを履くことを目標に装具調整や靴の提案を行い、利用者の気持ちに寄り添うことで、ご本人が望む社会参加の獲得に繋がったと考える。
【はじめに】
 厚生労働省より、リハビリテーションでは活動と参加に焦点を当て地域での生活を営むことができるようにアプローチすることが推進されている。また、活動は「課題や行為の個人による遂行のことである。それは個人的な観点からとらえた生活機能を表す。」、参加は「生活・人生場面への関わりのことである。それは社会的な観点からとらえた生活機能を表す。」と定義されている。
 今回、脳卒中後に右片麻痺を呈した利用者へ介入するなかで、活動や生活課題の目標達成後に社会参加に介入し、良好な結果が得られたので報告する。 

【症例紹介】
 脳卒中後60代後半の男性。次女と2人暮らし。脳卒中発症後、保存的加療ののち半年後に自宅退院。退院翌日より訪問リハビリ開始。
 退院時の身体機能は、右半身運動麻痺中等度、右身体失認極軽度、右視空間失認極軽度、右半身感覚障害中等度、構音障害あり。
 ADLは起居動作自立、装具装着軽介助、移乗動作短下肢装具下(シューホーンブレイス:以下SHB)で修正自立、自宅内移動車椅子軽介助、トイレ動作軽介助(トイレ内移動のみ介助を要す)、入浴は通所リハビリにて中等度介助(リフト浴)。IADLは次女が担っていた。
 環境は、自宅内に敷居が多く、4点杖歩行では麻痺側下肢の引っ掛かりが頻回にみられた。またトイレ内も20cmの段差があり、段差昇降が困難であるため介助を要した。
 そのため、介入時の課題として「自宅内移動の自立」、「装具装着の自立」、「トイレ動作を含む段差昇降の自立」が挙げられた。
 また、介入にあたり興味関心チェックシートを使用し、趣味は家庭用アクションゲームをプレイすることや家電量販店を巡りパソコン部品の購入をして組み立てること、電車や車で市内の喫茶店へ通うことであると把握した。しかし、今回の発症で趣味の遂行が難しくなり、それに伴い、外出意欲の低下がみられた。

【経過】
 自宅内移動自立、装具装着自立、トイレ動作自立に向けて、歩行訓練、装具装着訓練、環境設定、サービス調整の提案を行い、自宅内4点杖歩行(SHB装着)自立、装具装着自立、トイレ動作が自立した。また、受診や通所リハビリ等の外出手段として電動車いすを提案し、家族同行での外出が可能となった。
 介入から1年後、次女の転居に伴い独居開始。洗濯や掃除、買い出しは訪問介護にて行うこととなった。食事は配食サービスやインスタント食品類等を利用した。しかし、自分の好きなものを食べることができなかった。そこで調理を行うことを提案し、電子レンジや電気料理鍋での調理動作獲得に至った。
 次に、電動車いすで近隣のスーパーまで買い出しに行く事を提案した。交通状況や外出先の安全性など含めて外出評価を実施し、獲得に至った。また、雨天時や重いものを購入したい時はネットスーパーを併用することとなった。
 これらの活動に対するアプローチを通して外出が可能になった成功体験から、ドラッグストア等へも外出機会が増加した。しかし、必要に迫られた時のみの外出であり、以前の趣味であった家電量販店や喫茶店等への外出は未達成であった。そこで、再度興味関心チェックシートや意向調査を実施したところ、もともとファッションに興味があり、装具用の靴ではなく、「普通のスニーカーを履きたい」という意向を確認することができた。
 福祉用具事業所の相談員に相談したが、マジックテープが主流でデザインの種類が少なく、希望と一致するものが見つからなかった。この時点で短下肢装具はSHBであり、装具を装着した状態で一般的なスニーカーを履くことは困難であった。また身体的な課題として足関節内反の緊張が高く、立位や歩行時に装具での矯正は必要であった為外すことはできなかった。ADLやIADLの目標は達成していたが、市販のスニーカーを履くことができることを目標として、介入を継続する事となった。

【介入】
 SHBを装着した状態ではスニーカーに入らないこと、足関節内反の緊張が高く装具での矯正は必要であったことが課題であった。
 最初に既製品のオルトップで評価を行ったが、内反の矯正は困難であった。そこで、SHBをスニーカーに入れるために、どの程度まで装具を短く、小さくできるのかを義肢装具士に相談した。スニーカーに入れるために装具の厚みを薄くしようとすると、矯正力が低下して内反の矯正が不十分となるため、ある程度の硬度は必要であるとわかった。そこで、もともと所持していたSHBの前足部を中足骨ラインで切り落とし、下腿部も同程度の長さに切り、矯正力を多少犠牲にすることでスニーカーに入る形へと修理することを提案した。
 次に靴の調整を行った。市販の靴では靴紐と舌革により開口部が狭く、装具装着のままでは入らない為、ズービッツという靴紐につけることで結ばずに着脱できる商品を提案した。マグネットの力で左右から止め外しができるために、開口部が広がり、市販のスニーカーでも装具を装着したまま脱ぎ履きが可能となった。

【結果】
 装具や靴の調整を行うことでスニーカーを履いての外出が可能となり、それに伴い、近隣の商業施設や、ご友人との外出意欲の創出に繋がった。

【考察】
 課題を達成していったという積み重ねが、自宅内生活の自立と余裕をもたらし、病前から好きだった「スニーカーを履いてオシャレをして外出する」という、新たな目標に目を向けるきっかけとなった。生活課題が達成しても利用者の気持ちに寄り添ったことが、ご本人が望む社会参加の獲得に繋がった。

【結語】
 ADL、IADLに加えて、利用者が望む社会参加を達成できるよう、利用者の「想い」に寄り添いながら、理学療法士として今後も社会参加の支援に取り組んでいきたい。