講演情報

[14-O-L002-02]訪問リハビリが繋ぐ 介護と障がいの架け橋~諦めない気持ちと自己実現に向けて~

*鈴木 裕一1 (1. 神奈川県 介護老人保健施設リハリゾートわかたけ)
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30代で左脳出血を発症した方が障がい者文化センター(横浜ラポール)に通い、全国障がい者スポーツ大会に出場するなど運動を通して社会復帰された。70代で左脳梗塞を発症し、リハビリを通して徐々に機能回復され、自信を取り戻し、横浜ラポールへ再び通えるようになりたいという目標を1年半かけて達成された。本事例はご自身の諦めない気持ちと自己実現が介護保険や障がい者サービスの枠を越えた形となった。
【はじめに】
介護保険法が施行されて24年になり、情報の共有や地域との連携、一体的なサービスの展開とさまざまな利用がされているなか、利用者の需要やニーズは年々高まっている。また、介護保険だけでなく障がい者手帳を所持している高齢者も増えてきており、ますます多様なサービスを展開する必要性が求められていると日々感じている。その中で要支援の利用者が、訪問リハビリを通して社会資源を活用し、個別のニーズに沿ったサービスの展開ができた事例がある為、報告する。

【基本情報】
氏名:K様、年齢:70代、身長:165センチ、体重:55キロ、介護度:要支援2、身体障がい者2級、BR-S:上肢3~4、手指3~4、体幹および下肢4~5、粗大筋力は概ね4以上ある。
病歴から現在までの流れは30代に左脳出血を発症され、50代で甲状腺機能低下症の通院治療を行い、70代に左脳梗塞を発症された。3年前に5カ月間、リハビリ目的で入院され、以後、通院治療となる。その他、短時間デイサービスを週2回利用していた。訪問リハビリは令和4年6月30日より開始し、現在サービスは訪問リハビリのみとなり、週2回利用されている。

【初回の本人の希望や状態、生活環境について】
介入時の希望は40代の頃に全国障がい者スポーツ大会に出場された経験もあり、体を動かすことが好きとのことで、以前のように障がい者文化センター(横浜ラポール)へ行って運動(水泳、ランニングなど)をしたいとあったが、介入時は自宅内の移動はプラスチックの短下肢装具を使用し、T字杖または手すりや家具などに掴まって歩行していた。屋外歩行は、自宅周辺は坂が多く介助を要し、T字杖を使用されていた。この為、外出の機会は少なく室内中心の生活であった。

【目標達成までの計画】
自宅周辺は坂道が多く、一人で歩くことは難しい状況であった為、屋外歩行ができるようになることを目標に訓練を行った。介入当初は右下肢の反張膝やつま先接地の歩行場面が多く見られた為、右下肢の関節可動域の改善や筋力強化、歩容の改善を中心に訓練を行い、本人にも自身でトレーニング(階段昇降、跨ぎ動作、スクワットなど)をお伝えし、実施した。

【訪問リハビリ介入初期から現在までの経緯】
訪問リハビリ利用3か月後に自宅内は装具を外して生活ができるようになった。屋外歩行訓練はT字杖と装具を使用し、開始した。半年で屋外でも装具を外して生活できるようになり、目標としていた自宅周辺の坂道も歩行可能となった。歩行速度も改善が見られ、横断歩道も渡れるようになり、コースは限定されるものの一人で30分程度は散歩ができるようになり、自宅近くのコンビニまで行くこともできるようになった。9カ月頃には靴を市販の物にされ、散歩も40分程度は可能となった。1年で右下肢の力が以前とは違ってきていることを実感したと話されていた。その為、サービスの終了も検討したが、本人と家族の強い希望によりサービスの延長が決まった。1年3ヵ月で散歩も60分程度行えるようになり、杖なしで屋外歩行訓練も開始した。1年半でもっと自分で運動したい、以前のように横浜ラポールへ行きたいという気持ちが強くなり、短時間デイサービスの利用を中止され、横浜ラポールの利用を開始した。1年9カ月現在は週5回横浜ラポールへ行くことができるようになり、施設内では杖なしで歩行でき、自身で運動を行えている。今後はバスに乗って一人で横浜ラポールへ行くことを目標としている。

【考察】
これまでを振り返って、ターニングポイントは1年間リハビリをやってきて右足が以前のような状態に近づいてきていることを本人が実感したことが大きいと考えている。以前はできなかったことができるようになり、徐々に自信も回復され、元々運動が好きで初めて脳出血で倒れてから、全国障がい者スポーツ大会に出たこともある経験が、もっともっと運動したいという気持ちを強くさせ、介入当初から希望していた横浜ラポールへ行きたいという目標がより明確になったことが今につながっていると感じている。現在、家族の協力のもと週5回横浜ラポールへ行くことができている。この他、自身でユーチューブも検索し、自分に必要な体操を見つけてはセラピストも確認し、回数や運動のポイント、また他の運動メニューなども伝え、訪問リハビリ以外の時間も有効に使った結果が現在の状況につながったと考えている。本事例は自身の諦めない気持ちと自己努力の賜物であるが、令和3年度の介護保険の改正に伴い、要支援の方のサービス利用が12か月を超えると減算になっていたが、令和6年度の介護保険の改正では、基本報酬の引き下げはあったが、条件付きで減算にならなくなったこともサービスの利用継続の後押しとなり目標としていた横浜ラポールへ行って運動をしたいという自己実現を叶えるサポートができたと考えている。

【終わりに】
今後、ますます高齢化率は高まり、介護保険対象の要支援者、要介護者が増えていくことが予測される。特に要支援者の方が利用するサービスは年々厳しくなってきていることが挙げられる。一方で要支援者の方が要介護者とならないように健康維持に努める重要性は高いと考える。その中で、個々のケースに沿った対応をどこまで達成できるのかを改めて考えることができた事例だと感じている。介護保険で使用できるサービス以外にも障がい者の方が使用できるサービスを上手く利用していくことも必要になっていくことが考えられ、幅広い知識が求められる為、より専門性の高いリハビリを提供できるように努力していくことが必要である。